看護師、国外流出先に多様化の兆し

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2013年6月

中国ではかねてより看護師の国外流出がある程度確認されていたが、その流出先に変化の兆しが見られる。以前はイギリス連邦圏やアメリカが人気であったが、最近は制度変更に伴い、アメリカ、およびシンガポールの人気が低下している。変わって中東への流出の増加、さらには日本への流出も確認されつつあるなど、流出先は多様化している。一方で中国政府は、直近では看護師不足という状況にはないものの、将来的な高齢化に伴う看護師への需要増加に備え、処遇改善や男性看護師の確保に取り組む見通しだ。

米国、シンガポールの人気が低下

経済協力開発機構(OECD)加盟国で就労する中国人看護師の数は約1万2000人で、国内外で働く中国人看護師総数の約0.9%に当たる。OECD非加盟国の中では、フィリピン、ジャマイカ、インド、ナイジェリア、ハイチ、マケドニアに次いで多い人数である(注1)。

中国から海外へと渡る看護師の間では、伝統的にイギリス連邦圏やアメリカなど英語圏の人気が高く、現在も主要な流出先となっている。しかし近年は、アメリカが外国人看護師の就労ビザ発給に対して学歴要件を厳しくしたこと、またシンガポールが永住権の付与を制限的にしたことを理由に、両国の人気が低下しつつある。シンガポールの場合は英語だけでなく中国語も広く使用されているが、北京語ではなく広東語や潮州語が主流であるため、その点も中国出身の看護師にとっては障害となっていた。

流出の背景に低賃金と悪質な就労環境

看護師が国外に流出する背景には、低賃金と悪質な就労環境があると言われている。看護師の給与は、経済成長の恩恵を受ける製造業などと比較すると、その上昇率は決して高いものではない。また多くの病院で看護師の長時間勤務が常態化していて、体力的にも精神的にも厳しい職場環境となっており、離職率は10%程度で推移している。そうした状況を背景に、高い賃金や快適な就労環境を求めて、一定数の看護師が海外へと活路を求めている。

中東、日本と多様化する選択肢

アメリカとシンガポールの人気が低下する中、変わって中東地域で就労する者が増加傾向にあるほか、ごく一部ではあるものの日本で就労する者も現れつつある。

中東の産油国等では多くの病院で看護師を含む医療従事者を外国人に依存している。中東地域の医療施設での就労は、中国での就労と比べると高額の賃金が期待できる。さらに国によっては所得税が存在しないことも魅力の一つとなっている。ただし就労環境については、イスラム教信者である当該国の看護師が夜間の勤務を敬遠する傾向にあるため、結果として外国人労働者は夜勤や長時間勤務が常態化する事もある。

さらに最近は、ごく一部ではあるものの、日本で就労する者も現れており、彼らは同じ漢字圏であることを武器に、外国人というハンディキャップの克服に取り組んでいる。日本での就労も中東諸国の場合と同様に、中国に比して高額の賃金が期待できる。

高齢化による看護師への需要増を見越し、処遇改善を図る政府

目下、中国国内では目立った看護師不足は確認されていない。看護師登録数も増加傾向にあり(図)、現在は約250万人が登録されている。2015年には約286万人に達する見込みで、10年間でほぼ倍増する見通しだ。しかしながら高齢化による医療サービスの需要増加に伴い、長期的には看護師が不足する事態も懸念される。また現状では、医師と看護師の比率が1:1.5で、国際平均とされる1:4を大きく下回っているため、国際平均に近づけてより多くの人が医療サービスにアクセスしやすくなるように、医療制度改革を行おうとする動きも政府内部にはあり、その場合は看護師に対する更なる需要増加も見込まれる。

こうした状況を背景に、政府は看護師を安定的に確保するためにも、処遇改善に取り組む見通しだ。医療行政を管轄する国家衛生・計画生育委員会の国補佐官は、「普遍的な医療サービスにはチーム医療が重要で、そのためにも看護師が重要だ。賃金の引き上げ、在職中の高度職業訓練の拡充、職場環境の改善などに取り組みたい」と述べている。また、現状では全体の1%以下しかいない男性看護師の確保にも取り組む見通しだ。

図:看護師数の推移(単位:万人)

図:看護師数の推移(単位:万人)2005-2015年

出所:国家衛生・計画生育委員会

  1. 2000年頃の値。『 International Migration Outlook:SOPEMI 2007,OECD』より

資料出所

  • チャイナデイリー、OECD

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