少子高齢化に備え、包括政策を検討
―今春に策定、労使代表も参加

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年2月

ドイツ政府は、少子高齢化による将来の人口変動に備え、2013年春を目途に包括的な政策を策定中である。メルケル首相や関係閣僚をはじめ、州・地方政府の代表、労使団体の代表らが出席した昨年10月の第1回人口会合では、6分野9つの作業部会の設置が決定した。長期的な人材・技能確保を目標とした作業部会には労使代表も加わり、最終案を討議している。

人口減少、社会経済に大きな影響

今後数十年かけて起こる人口変動は、ドイツの社会経済に大きな影響を及ぼすことが予想されている。低出生率と長寿化に伴い、生産年齢人口の減少と高齢年金受給者の増加が続くと、社会保障制度が圧迫されるだけでなく、労働力不足で経済成長が阻害される可能性がある。連邦内務省(BMI)は、このような人口問題に取り組むために、2011年11月に「人口報告書(Demografiebericht)」を発行し、社会、経済、労働、家庭、教育など人口変動の影響を受ける主だった分野の現状把握を行った。さらにBMIは2012年4月に、前述の報告書を基に6分野に分かれた包括的な人口政策計画原案(Jedes Alter zählt Demografiestrategie)を作成した。

6分野9つの作業部会が活動

2012年10月の初人口会合では、連邦内務省(BMI)の人口政策計画案に基づき、以下の6分野に9つの作業部会が設置され、具体的な政策の策定が行われることになった;

  1. コミュニティとしての家族の強化
    1. 「コミュニティとしての家族の強化」作業部会
  2. やる気、資格のある、健康的な仕事場
    1. 「やる気、資格のある、健康的な仕事場」 作業部会
  3. 自立した老後の生活
    1. 「高齢者のための自立した生活」作業部会
    2. 「認知症の人のための連帯」作業部会
  4. 農村地域におけるクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)、包括的な都市政策との融合
    1. 「国家レベルのコーディネーションフレームワーク」作業部会
  5. 持続可能な成長と繁栄のための基盤づくり
    1. 「技能人材確保のための潜在的労働力の動員・確保」作業部会
    2. 「外国人材の労働可能性の確保・歓迎文化の醸成」作業部会
    3. 「教育・訓練の継承支援」作業部会
  6. 国家行動力の維持
    1. 「魅力的な公共サービスと近代的な雇用主としての官庁」作業部会

6分野のうち、特に重点が置かれたのは「持続可能な成長と繁栄のための基盤づくり」で、長期的な人材や技能確保を目標に3つの作業部会が設置された。

作業部会のメンバーは、関係省庁の大臣や、ドイツ使用者団体連盟(BDA)のディーター・フント会長、ドイツ労働総同盟(DGB)のミヒャエル・ゾンマー会長を含む学識者や地方政府代表など主要な関係者で構成されている。

このほか政府はドイツ連邦人口研究所(BiB)に委託して相互交流型のポータルサイト「全ての世代のための政策(Politik für alle Generationen)」も開設。サイト内ではベスト政策事例や、革新的な政策アイデアなどについて作業部会の関係者らがオープンに討議する場も設けられている。

労使は、技能人材確保を重点的に要望

労使は、政府案に加えて今後はよりタイムリーで具体的な政策―特に「技能人材の確保」が必要だと訴えている。

ドイツ労働総同盟(DGB)幹部のカーステン・シュナイダー氏は、「若年者にとって公共サービスをより魅力的なものにするため、臨時雇用を長期雇用に切り替え、将来の技能人材不足に備えるべきだ」と主張する。同氏は、「政府案は自己責任やボランティアに頼りすぎている」とも指摘。金属産業組合(IGメタル)幹部のハンス-ユルゲン・ウルバン氏は、「高齢になるまで健康に働ける職場が少なすぎる」として、長期にわたり安定して働き続けられるような職場の環境づくりが重要だとしている。

一方、ドイツ使用者団体連盟(BDA)幹部のアレクサンダー・グンケル氏は、「差し迫った労働力不足に対してもっと断固とした政策を取るべきだ」と主張している。労働力不足に対する具体的な政策については、「複合的なアプローチが重要で、まず、(1)女性・高齢者・移民・障害者のさらなる労働市場への参加、(2)教育レベルの改善、(3)外国人材獲得のための国内文化の変革」などが重要だと述べている。このほか、「人口減少に対応した社会保障制度の具体的政策が欠けている」との懸念も示した。ドイツ商工会議所(DIHK)幹部のハンス・ハインリッヒ・ドリフトマン氏は「国内の人材確保や雇用にこだわらず、才能ある外国人材の獲得と統合にもっと取り組むべきだ」として、高度外国人材の獲得を重点化するよう求めている。

政府は、作業部会のメンバーとして活動している労使代表者らのこうした意見を取り込む予定で、より具体的な包括的人口政策案を今後どう策定・実施していくのか、今春の結果が注目されている。

参考資料

  • eironline (20.Nov. 2012), Bundesinstitut für Bevölkerungsforschung(Politik für alle Generationen), Die Welt(4.10.2012),  Bundesministerium der Finanzen(03 October 2012), Bundesministerium des Innern (2011)Demografi ebericht,(2012)Jedes Alter zähltDemografiestrategie.

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