ウォルマートに対し全米で抗議デモ
―「市民的不服従」と命名し、労組とコミニュティー組織が連携

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2013年12月

感謝祭が終わった最初の金曜日、小売業界は毎年、年間で最大規模のバーゲンセールを繰り広げる。今年のその日に当たる11月29日、スーパーマーケットのウォルマートを標的に、労働条件の改善などを求めて、全米規模で抗議デモが展開された。「市民的不服従」とも命名されたこのデモには、同社の従業員のほか、支援の労働組合、コミュニティ組織などから広範な人々が参加した。運動の新たな名称は、1960年代の公民権運動などでも使われており、労働運動を社会運動として脱皮させようという狙いが込められている。

写真:AFT,UAWがサポート
AFT,UAWがサポート

主催者発表で、46州、1500カ所で数万人が参加した。その目的は、従業員の年収を生活できるレベルに引き上げるとともに、労働条件と細切れ雇用の状態を改善することをウォルマートに認めさせることだった。

抗議行動は今回で2年めとなるが、参加者は、ウォルマート従業員だけでなく、支援する労組、コミュニティ組織などに拡大し、昨年よりも幅の広いものとなった。

労組でない組織が運動を主導

ウォルマートには、団体交渉の手続きについて定めた全国労働関係法(NLRB)に基づいた合法的に使用者と交渉できる労働組合はない。したがって、労働者の代表が賃金などの労働条件について経営側と話し合うチャンネルは閉ざされている。食肉販売部門の労働者が労働組合によって組織され、合法的な団体交渉権を手にしたことがかつてあったが、その際に経営側は食肉販売そのものを取りやめることで、労働組合との交渉を阻止したことがあるように、労働組合の組織化を防ぐ経営方針をとっている。

今回の運動を主導したのは、現役従業員と退職した従業員がメンバーとなっている「我々のウォルマート(OUR WALMART)」と、彼らを支援する労組とコミュニティ組織との連合組織「ウォルマートに変化を(Making Change at Walmart)」だった。これらの組織には、全米食品商業労組(UFCW)を中心に、労働組合が、資金、スタッフ、抗議行動の戦略立案を支援している。

「生活できる賃金を求めて」

写真:セントポール(「ウォルマートに変化を」ツィッターより)
セントポール
(「ウォルマートに変化を」ツィッターより)

彼らが掲げていたのは、貧困状態にあるウォルマート従業員が「生活できる賃金」を手にすることと、そのような声を上げる従業員に対して経営側が行っている報復行為を止めることだった。

「生活できる賃金」とは年2万5000ドル以上のことであり、時間あたり賃金のことではない。彼らの主張は、経営側の柔軟な要員管理のために細切れ雇用を余儀なくされており、そのために「生活できる賃金」を手にすることができないだけでなく、健康保険や年金などの社会保障の適用から除外されているということだった。これは、時間給12ドル程度を支払っており、ほとんどの従業員がフルタイムだとする経営側の主張と食い違うし、そもそも論点が異なる。

合法的な団体交渉権を持たないということはつまり、合法的な争議権もない。したがって、彼らがとった作戦は、一年でもっとも顧客の多い日に照準を合わせて、店舗前で抗議デモをするということだった。

ガンジーや公民権運動につながるアクションへ

写真:ダラス(ダラスAFL-CIOツィッターより)
ダラス
(ダラスAFL-CIOツィッターより)

主催者はこの抗議デモを、「ブラック・フライデー・ストライキ」、もしくは、「市民的不服従アクション(Civil Disobediece Actions against Wal-Mart)」と呼んで広範な参加を呼びかけた。

ブラック・フライデーとは感謝祭後の最初の金曜日のことを指す。合法的なストライキ権を持たないので、「ブラック・フライデー・ストライキ」という名称は象徴的なものだ。むしろ、「市民的不服従アクション」という名称を用いたことが注目される。これは、ガンジーがインドの独立運動で使った非暴力不服従運動や1960年代の公民権運動で使われたものである。

ウォルマート側はこの抗議デモに従業員が参加することに対して警告を与えていたが、11月18日に全国労働関係委員会(NLRB)はウォルマートに対して、そのような警告を撤回するように指導する声明を発表していた。

これまでの労働組合の戦略からすれば、合法的な団体交渉権を持たない労働者の組織が運動をリードし、しかも市民的不服従を掲げたということ自体が異例のことである。そこには、労働運動を社会運動として脱皮させようという試みがあるといえるだろう。

広範な参加と労組の強い支持

写真:ニューヨーク・ブルックリン(UFCWツィッターより)
ニューヨーク・ブルックリン
(UFCWツィッターより)

抗議デモは全米1500カ所、重点9都市の店舗前で実施された。カリフォルニア・ベイエリア、シカゴ、ダラス、ロスアンジェルス、シアトル、サクラメント、シコーカス(ニュージャージー州)、セントポール(ミネソタ州)、コロンビア特別区(ワシントンD・C)がその9都市である。

主催者発表では数万人が集まった。参加したのは、ウォルマートの現役従業員、元従業員、労働組合員、中小企業事業主、宗教指導者、コミュニティ組織のメンバー、女性権利擁護団体メンバー、多民族連合の会員、議員、そして一般市民、学生という広範なものだった。

民間、公共部門の区別なく産業別労働組合のトップも街頭に立った。抗議デモを支えたUFCWハンセン会長はもちろんのこととして、さまざまな産別労組の支部組合も支援した。米国教職員組合(AFW)ワインガーテン会長もニューヨーク州ホワイト・プレインズで住民グループを率いて抗議デモに参加した。

サービス従業員労組(SEIU)のヘンリー会長は、「リビングウェッジ(人間らしい生活ができるレベルの賃金)を求める広範な運動の一つだ」とこの運動を評した。

駆けめぐるSNSメディア

写真:抗議デモに参加するバスを待つメンバー(リスペクトD.Cツィッター)
抗議デモに参加するバスを待つメンバー
(リスペクトD.Cツィッターより)

ブラック・フライデーには早朝からバーゲン・セールが開始されることが通例となっている。米国には国内に時差があることから、東海岸から順次抗議デモが始まった。その様子は、ソーシャル・ネットワークメディア、ツィッターにより、写真や動画付きてオンタイムに情報が流れた。抗議デモが始まるとすぐに労働組合や参加した個人などさまざまなステータスで書き込みが行われていったのである。

アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)のツィッターは早くから支持を表明し、中心的役割を演じたUFCW、主催者である「我々のウォルマート」「ウォルマートに変化を」も頻繁に情報を更新していた。

そのなかでも存在感を示したのが、「ワーキング・アメリカ」を始めとするコミュニティ組織のツィッターだった。

写真:ワーキングアメリカのツィッターより
ワーキングアメリカのツィッターより

「ワーキング・アメリカ」はAFL-CIOが2003年に立ち上げたNPOで、11州に320万人の会員数を持つ。労働組合ではない。これまでは主として大統領選挙などの場面で民主党への集票を担ってきた。AFL-CIOは10月23日にこの組織を全米50州に拡大して、団体交渉によらない労働運動を展開するための基盤とする計画を発表していた。会員数の多さもあり、全米各地の情報が次々と「ワーキング・アメリカ」のツィッターから流れた。これにより、「ワーキング・アメリカ」の活動がかなり労働運動よりにシフトしてきていることが明らかとなった。

AFL-CIOは9月に開催した大会でコミュニティ組織との連携を打ち出していたが、今回の抗議デモは、その連携が地方レベルでかなり進んでいるということもツィッターによって明らかになった。たとえば、「リスペクトD・C」という組織がバスをチャーターしてメンバーを地元のウォルマートに送り込む映像を流した。この組織はワシントンD・C地区で活動している、牧師、労働者、環境保護、父母、コミュニティメンバーによる連合体であり、人間らしい生活を送るためのリビングウェッジ運動を展開している。このような地域レベルで活動する組織はほかにも数多くツィッター上に現れた。

抗議デモの参加者はそうした情報を引用するとともに、自分が参加している様子やデモに向かうバスの運転手とかわした会話といった情報までをツィッターで流していた。東海岸から南部、中西部、そして西海岸へと一日中情報が途絶えることなくながれていた。

さらには全国ネットのテレビ局なども状況を逐一伝えていた。

地域参加型の新しい運動へ

ウォルマート経営側は、抗議デモによりブラック・フライデーのバーゲンセールの売り上げが影響を受けなかったとして、顧客により自分たちが支持されているとの声明を発表した。

今回の抗議デモに参加したウォルマートの現役従業員の数はそれほど多くない。それをもって、UFCWがもくろむ合法的な団体交渉権の獲得には程遠く、インパクトに乏しいとの批判の声もある。そのような評価は、職場を基盤として団体交渉によって労働条件を改善してきた従来型の労使関係からすれば当然であろう。

写真:逮捕されるサンタクロース(カリフォルニア、UFCWツィッターより)
逮捕されるサンタクロース
(カリフォルニア、
UFCWツィッターより)

しかし、むしろ今回の抗議デモに参加した大多数がウォルマートの現役従業員ではなかったことに注目すべきである。大半は、「ワーキング・アメリカ」のようなコミュニティ組織のメンバーや学生、支援する労働組合員たちだったのである。そのうち、主催者発表で100名ほどが営業を妨害する場所で活動をしたことを理由に逮捕までされている。

それはもはや一つの企業に対する労働運動という範囲を超えている。全米に向けて「人間らしい生活ができる仕事が必要だ」とするメッセージを届けることが意図されていたとみることが自然だろう。その背景には、連邦最低賃金引き上げ議論やその水準をさらに上回るリビングウェッジに対する議論を社会全体に喚起するとともに、地域レベルの顔の見える範囲の人々の参加を促すという狙いがあると思われる。「市民不服従(Civil Disobediece)」という名称が、従来型の労働運動が変化していることを如実にあらわしている。

ウォルマートに対する次の抗議デモは、クリスマス・バーゲン時期に行うことが主催者により発表されている。 また、12月6日(金)にはファースト・フード・ストライキという名称で低賃金労働者の賃金を一時間あたり15ドルに引き上げることを求める運動が全米130都市で実施されており、ウォルマートに対する抗議デモと連動して行われている。

(山崎 憲)

参考

  • Rhonda Smith, Wal-Mar, Worker Avocates Both Claim Sucess on Black Friday, Daily Labor Report, Dec.2.
  • Ben Penn, Organizers Planning Wal-Mart Protesters On Black Friday at 1,500 U.S> Locations, Daily Labor Report, Nov.21.
  • Josh Eidelson, Massive Black Friday strike and arrests planned, as workers defay Wal-Mar, Nov. 21.
  • Josh Eidelson, Tens of thousands protest, over 100 arrested in Black Friday chhallenge to Wal-mart, as workers defay Wal-Mar, Nov. 30.

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