自動車大手プジョー・シトロエンで競争力強化の労使合意
―国内工場投資で雇用維持、代わりに賃金凍結と労働時間の柔軟化

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2013年12月

自動車大手PSAプジョー・シトロエンで、企業競争力強化を目的とした労使交渉が10月24日に合意された。オルネー工場の5月のストライキ終息後から13回にわたる交渉の末、6つの主要労組のうち、従業員の過半数に達する4労組が協約に署名した。経営側はフランス国内に15億ユーロを投資し、2016年までに5工場をフル稼働させて年間100万台生産することを目標とし、その間、国内の工場閉鎖や人員削減を行わないことを約束した。その一方で、労働側は2014年の1年間の賃金凍結と時間延長に事実上つながる労働時間の柔軟化を受け入れた。

業績悪化と8000人規模の人員削減

PSAプジョー・シトロエンは、リーマンショックの影響による業績悪化後、2008年、2009年の2年間は赤字を計上していたが、2010年には世界販売台数が360万台となりグループにとって過去最高を記録、11億ユーロ強の純利益を計上して黒字を確保した。その後も南米やロシア、中国での販売は好調だったが、欧州内での新車販売台数は前年同月比で10%以上のマイナスの月が続くなど業績不振に陥っていた。2011年11月には国内の契約社員2500人と非生産部門の1900人などの削減が発表され、続いて2012年7月にはパリ北郊のオルネー・ス・ボワ工場(セーヌサンドニ県)の閉鎖とブルターニュのレンヌ工場での雇用削減など合計で8000人規模の人員削減が発表された。オルネー工場の閉鎖をめぐっては、従業員の処遇の格差を不服とした労組が今年1月16日からストライキを実施、5月17日まで4カ月間続いた。

15億ユーロの投資の約束と割増手当の減額

スト終息後の5月29日からPSAグループの企業競争力強化に向けた交渉が始められ、2週間から3週間に1回のペースで会合を開いてきた。9月には経営側から賃金凍結や労働時間を年間で管理し繁忙期には長時間化できるような柔軟な扱いにするといった具体的な提案がなされ、労組側が受け入れ可能な条件をさぐっていた。交渉期限となる10月22日までに合意に至った。

今回の交渉は労使相互の社会対話を強化していくことを共通認識として、1億2500ユーロ分の年間経費節減を目標に互いの要求と条件を交渉してきた。具体的な合意内容は以下のとおりである。

経営側が約束した内容として、(1)2013年の見込みではフランス国内で約93万台に対して、2016年までに欧州内のグループ工場をフル稼働させ100万台の生産体制を構築する。(2)2016年の生産体制確保にむけて、フランス国内での事業所閉鎖人員削減は行わない。(3)2014年から2016年にかけてフランス国内の工場を対象とする15億ユーロの投資をする。(4)2016年にはグループ内の研究開発活動の75%以上をフランス国内で行うようにする。

労働側が受入れた内容として、(1)2014年の賃金凍結。2015年以降は業績を踏まえて再検討する。(2)(週当たり)労働日数短縮制(RTT)について、制度自体を維持する代わりとして、労働時間を年単位で設定、年間勤務日数の割り当て義務を課すなど、取得日のルールを改正する。(3)変型労働時間制の決定方法を各事業所で行うこととする。土曜日出勤の変型労働時間の割増率を従来の45%から25%とする。(4)企業内の世代間契約の一環として、2000人強の若年労働者を見習い契約に基づいて雇用するために、勤務年数の長い従業員を対象として高年齢者休暇を3年間採用する。潜在的なものも含めて約2500人から3000人程度の従業員が対象となる予定。

なお、人員削減については、今回の労使合意の内容には含まれていないが、昨年、一昨年に発表されたオルネー工場閉鎖とレンヌ工場や管理部門に関する人員削減に伴う合計11200人強の削減が決まっている。

6主要労組のうち4労組が協約に署名、別れる見解

主要な労組のうち、FO(組織率18.4%)、SIA(14.2%)とCFTC(11.7%)、CGC(17.86%)の4つの労組が合意した(合計62.16%)。一方で、同社の最大労組であるCGT(22.3%)とCFDT(13.7%)は反対を表明し署名しなかった。

FOのクリスチャン・ラファイエ代表によれば「今回署名した協約は、組織改革の処方箋として利用価値がある」としている。CFTCのフランク·ドン代表によれば、PSAグループの現況を鑑みて「可能な限り最高のバランスを得ることに成功した」としている。CFE-CGC代表アン・ヴァレロンは、現在、危機状態の従業員にとって、許容できる譲歩の限界であると話した。SIAのサージ・マフィ代表は、「今回の交渉の課題となっていたことは、工場を維持することであり、その維持が2016年以降についても効果的であると見込める」としている。

一方、合意しなかったCFDT側は、個々の工場について2016年の見込みとして発表された生産量は低いレベルであり、オルネー工場の閉鎖を繰り返す懸念が払拭できないとしている。また、CGT側は、協約の内容が、賃下げと労働時間の質の悪い柔軟性を認め、労働者の権限を弱体化し、従業員の生活を脅かす反社会な協約であるとして、署名を拒否したという。

製造業で進む競争力向上のための労使合意

製造業で企業の競争力強化を趣旨とする労使合意の締結が進んでいる。1月に雇用安定化のための労使合意が成立し、6月には法律として成立した雇用安定化法は、対象として幅広い分野の規制の柔軟化を盛り込んでおり、各企業で競争力向上のための労使合意が締結されることを政府として期待している。昨年、ヴァレオのアミアン事業所(フランス北部、自動車部品(パワートレイン等)製造)、プラステク・オムニアムのアルデッシュ事業所(フランス南部、車載用プラスティック等製造)、FCIのブザンソン事業所(フランス東部、眼科手術用機器製造)、ワルロー(機械製造加工組立)、フランシス・デ・メカニーク(自動車エンジン製造)、フォルシアのカリニー事業所(フランス北部、自動車部品(内装、外装及び排気機器)製造)など、少なくとも15の労使合意が製造業を中心に締結された。これらに共通するのが、賃金を凍結する一方で週労働時間を実質的に延長させる内容が盛り込まれた協約である。週35時間制が侵害されているという見解や、ドイツ企業的な協約が増加する傾向があるとの見方もある(注1)

5月にはロデス市(フランス南部・アベロン県)にある自動車部品大手の独ボッシュの工場において、企業競争力確保と雇用維持を目的に、賃上げ抑制と労働時間弾力化を柱とする労使合意が調印された。オランド大統領は調印直後に同工場を訪問し、労使が協調しバランスのとれた合意内容であると賞賛した(注2)

今回のプジョー・シトロエンでの労使交渉は、3月に締結されたルノーの労使合意をモデルとして進められてきた。両社とも経営側が生産量の確約や雇用の維持、一定期間工場閉鎖を行わないことを約束する代わりに、労働側は賃金凍結を受け入れるものである。ルノーでは週32時間から35時間へ引き上げが盛り込まれているのに対して、PSAは労働時間制の柔軟な適用による労働時間の実質的な延長となっている。また、ルノーの年間節減目標額は5億ユーロであるのに対して、PSAの目標額1億2500万ユーロである。さらに年間生産台数の目標について、ルノーは2016年時点で71万台にまで引き上げる(そのうち8万台が日産などからの受託生産)と約束した。一方、PSAは2016年までに100万台に引き上げるとしているが、GMとの資本提携等の協議はなされているものの、受託生産に関しては明示されていない。

参考資料

(ホームページ最終閲覧:2013年11月27日)

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