移民の純流入数、前年比4分の3に
―就労・就学目的の流入数減少などが影響

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2013年1月

統計局が11月に公表した移民流出入データによれば、2012年3月までの12カ月間の移民の純流入数(流入数から流出数を差し引いた人数)は18万3000人で、対前年比で4分の3に減少した。就労・就学目的の移民を中心に流入数が減少したことに加えて、国内からの就労目的の流出数が増加したことが影響している。

イギリス人の就労目的の流出が増加

統計局によれば、2012年3月までの12カ月間の長期移民(1年以上滞在予定)の流入数は、前年(2011年3月までの12カ月間)の57万8000人から53万6000人と4万2000人減少し、2004年以来の低い水準となった。うち、就労目的の流入数は17万7000人で前年から1万7000人減、就学目的は21万3000人で1万9000人減、家族の帯同・合流も1万人減少して7万1000人となった。地域別には、EU域外(2万1000人減)およびイギリス国籍者(1万9000人減)の流入数の減少が顕著だ。

一方、流出数には増加がみられる。2012年3月までの1年間の流出数は35万3000人で前年から1万7000人増、就労目的の流出者の増加が影響している。就労目的の流出者の増加はここ10年間の基本的な傾向であり、不況期には一旦減少したものの、近年は再び増加傾向にある。

就労・就学目的の移民の流入減・流出増の結果として、全体の純流入数は前年から3万2000人減の18万3000人となった(図1)。減少分の6割をEU域外の移民が占め、その大半が就学目的の純流入数の減によるもの。就労目的の移民については、イギリス国籍者およびEU域外移民を中心に純流出数が増加した。

図1:目的別純流入数の推移(千人)

図1:目的別純流入数の推移(千人)2002年12月-2012年3月

  • 注:各月とも直近12カ月の累積。また2012年3月は速報値。
  • 参考:"Migration Statistics Quarterly Report November 2012", ONS

なお、統計局の推計(注1)によれば、就労目的の流出者のうち12万3000人が就職(特定の仕事に就くため)、7万8000人が求職のためにイギリスを離れており、特に男性では流出者の43%が就職、25%が求職を理由としている(女性ではそれぞれ27%と20%)。また内務省のより詳細な分析(注2)によれば、2010年の流出者全体の36%が前職で専門・管理職に従事(単純労働・事務職種は28%、このほか学生22%など)しており、イギリス国籍の流出者に限定するとこの比率は48%に高まる(同27%、10%弱)(注3)。この間のEU国籍の流出者は、前職が単純労働・事務職種であった者が多く(次いで専門、学生の順)、EU域外については学生が多数を占めている(同専門、単純労働)。イギリス人とEU国籍の流出者の推移には失業状況と為替レートの変化が特に影響しているとみられるが、EU域外の移民にはその傾向はさほど明確に表れていないという(注4)。

報告書は、イギリス人の専門・管理職相当の人材流出が、将来的な国内における人材不足につながる可能性を危惧している。

図2:就労目的の純流入数の推移(千人)

図2:就労目的の純流入数の推移(千人)2002年6月-2012年3月

  • 注:各月とも直近12カ月の累積。また2012年3月は速報値。
  • 参考:"Migration Statistics Quarterly Report November 2012", ONS

移民流入による人口増が顕著に

統計局が12月に公表したイングランド及びウェールズに関する2011年センサスの結果からは、両地域における2001年以降の人口増370万人のうち、210万人分(55%)が移民流入によるものだったことが明らかとなった。現在国内に居住する外国出生者数は750万人と人口の13%に相当、うち約半数の380万人が過去10年間にイギリスに流入している。国別には、インドやパキスタン(69万4000人と48万2000人、いずれも2001年から1.5倍増加)など従来から在留者数が多い国に加えて、ポーランド出身者が2001年からほぼ10倍(57万9000人)に増加しており、2004年のEU加盟以降の急激な流入数の増加を示している。外国出生者の過半数はロンドン及びイングランド南東部に集中しているが(注5)、地方でも、外国人が急速に増加する自治体が出ているという。

急速な移民の増加に対して国民の間に高まる懸念(注6)に対応する形で、政府は2014年度までに移民の純流入数を数万人単位に圧縮すると公約している。既に取り組みの一環として、2010年にはEU域外からの高度技術者や専門技術者の受け入れに関する数量制限を導入(注7)しており、また給与水準や語学能力など各種要件の厳格化を相次いで実施、就労・就学や家族帯同などの流入経路の引き締めを図っている。数量制限を巡っては、当初、人材調達が困難になることなどを理由に経営側から反対があったものの、景気低迷が続いて労働需要が減少するにつれ、そうした批判は下火となった。

内務省の公表するビザ発行数に関するデータによれば、高度技術者に対するビザ発行数は2011年を境に減少しているが(注8)、専門技術者についてはほぼ横ばいの状態だ(図3)。政府は、ビザ延長の上限の設定や更新までの期間の短縮、また一部のカテゴリについて一定の滞在期間を経た者に認めていた永住許可の申請権を廃止するなど、滞在の長期化を防止する措置などを講じている。また併せて、EU域外からの移民の多くを占める就学目的の流入数を抑制する姿勢を示している。

図3:就労関連ビザの取得者数

図3:就労関連ビザの取得者数 2005年-2012年9月

  • 注:2011年3月以降は各月とも過去12カ月間の累計。
  • 参考:Immigration Statistics, Home Office(各期)

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参考レート

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