ライトトゥワーク法、UAWのお膝元で成立
―ミシガン州、組合費チェックオフ禁止へ

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2013年1月

全米自動車労組(UAW)の本拠地に当たるミシガン州の下院議会は12月6日、労働組合費のチェックオフ禁止などを柱とするライトトゥワーク法を58対52の賛成多数で可決した。中西部で同法の成立は昨年2月のインディアナ州に次ぐものだが、米国労使関係にとって象徴的な地の出来事だけに、全米から大きな関心を集めると同時に、労組は猛反発している。

労組弱体化とライトトゥワーク法法

同法が可決されたのは大統領選からちょうど1カ月後。同法は労働組合費の徴収を使用者が代行して賃金から天引きすること(チェックオフ)を禁じるとともに、労組に加入しない権利を労働者に認めるものである。

ミシガン州は1930年代に労組支持の労働者と組織化に反対するフォード社が衝突して流血事件を起こすなど、米国の労働運動や労使関係にとっては歴史的な意味を持つ土地だ。現在も同州のデトロイトにUEWが本部を置いている。

同法は労組活動に不利な結果をもたらすとして、労組と労組が支持する民主党が反対している。

  同法が発効すれば、労働組合としては第一に労働組合費の徴収が困難になり、財政基盤が不安定になる可能性がある。さらには労働組合が勝ち取る成果にただ乗りするフリーライダーを認めてしまうという問題もある。労働組合は使用者と法的に認められた団体交渉を行うことを通じて賃上げなどの労働条件の上昇を獲得する。しかし、労働組合費を負担しない労働者にもその恩恵が与えられることになるからだ。その人数が多くなれば、労働組合費をきちんと負担している労働者のモラールが低下してしまう可能性が否めない。これは既存の労働組合にとっては財政基盤を弱体化させることにつながるものであり、労組のない企業では、労働者から新しく労組をつくるための支持を得ることも難しくなることが想定される。

ライトトゥワーク法の争点―労組の存在と経済

ミシガン州でライトトゥワーク法を推進したリック・シュナイダー州知事(共和党)はこれまでライトゥワーク法という選択はしないとメディアに公言してきた。その州知事が拠り所にしたのが2012年2月に同法を成立させて以降のインディアナ州の経済発展だ。同州がライトトゥワーク法によって企業の受け入れと雇用数が拡大したとするのである。

この点に関して、リベラル系のシンクタンク・経済政策研究所(Economic Policy Institute)が行った調査によれば、企業が新規拠点の設置に費やす一般的な検討期間からすれば、同法の成立以降の企業の受け入れは同法の成立と無関係であることが指摘されている。また同法を支持しているのは進出を検討している企業よりもむしろ、すでに同州で活動している企業であるとし、同州でみられる雇用増の大きな要因は景気回復によるものだとしている。

アメリカでは経済活動の健全な発展にとって個人や企業活動の自由がもっとも重要であり、労働組合がその阻害要因となっているとする考えが根強くある。その自由な企業活動が巨大化し、労働者の利害を侵害するようになると理解されるようになったニューディール期の政策がその考えの転機となった。それまでは自由を阻害するもしくは独占禁止法に抵触するとされた労働組合を政府が労働分配率を高めるために積極的に利用することへ方向転換したのだ。そのための法的な仕組みを政府が整えたことが労組の存在基盤である。

しかし、経済のグローバル化が進展し、企業がこれまで以上に自由な活動を望むようになったことが、労組がアメリカで敵視されるようになった一つの理由である。

それは、企業が行う柔軟な経営の阻害要因として語られる。ところで、経済のグローバル化の進展により、労組のある企業の経営の仕組みも大きく変化してきている。アメリカで労組のない企業の経営が、「人的資源管理型」や「進出日本企業型」として分類されて、従業員による経営へのコミットメントを重視する働かせ方や、知識・技能給の採用、問題解決型チームの導入により経済環境の変化に柔軟に対応できるようになってきたとされる。一方、労組のある企業も、同様の変化を受け入れている。それは、「ジョイントチーム型」とされ、労働組合が経営側に協力することで、「人的資源管理型」や「進出日本企業型」と同様の柔軟性を持つようになってきている。

働かせ方以外でも協力関係はみられる。ミシガン州に本部を置く全米自動車労組は年金と健康保険の事業主負担分の軽減を認めたほか、新規採用従業員の労働条件と社会保障水準を引き下げた。労組のない企業との人件費の差を縮減するために、賃金水準の引き下げに合意する労組も珍しくない。このような動きは民間労組にとどまらず、公共部門の労組でみられる。

ミシガン州のライトトゥワーク法は法案提出後に審議をまったく行わずに即日投票となり、その手続きをめぐって民主党から抗議の声があがっている。

労働者の社会保障を守る労組

働く側にとって組合員であるかないかは、社会保障水準に大きな影響を与えている。

労働省労働統計局が行った調査では、2011年の年金や健康保険に関する手当で組合員が非組合員よりも一時間あたりで7ドル以上も手厚くなっていることが明らかとなっている。賃金だけでみれば、組合員が23.04ドル、非組合員が19.04ドルだからそれほど大きな差はない。アメリカの社会保障は企業負担分に大きく頼っているため、その差がそのまま老後の生活や病気の際の備えに跳ね返ってくる。つまり、自由な企業活動を優先するために労組を弱体化すれば、社会保障制度全体を弱めることにもつながるのだ。

政治的な争点としての労組弱体化

労組をめぐる論点は企業活動にとどまらない。2010年11月の中間選挙以降に各州で共和党が勢力を伸ばして以降、共和党出身州知事による労組バッシングが続いているからだ。公務員労組に対しては、団体交渉から賃金などの労働条件や社会保障を除外する法案を設定したり、ライトゥワーク法を制定する州が相次いでいる。

中央では、大統領選挙で民主党が圧勝したようにみえるが、連邦下院議会、地方の双方で共和党が躍進している。今回の大統領選挙でも、11の州で知事選挙が行われ、共和党の知事は29から30に増えた。その結果、共和党の知事が30、民主党の知事が19となっている。州知事が民主党だが議会は共和党が握っている州の数も増えている。この状況で進む労組バッシングには、共和党が民主党の支持母体である労組を叩くという側面が否めない。それだけに問題は長期化、深刻化している。

オバマ大統領はミシガン州でのライトトゥワーク法案の下院議会可決を受け、スポークスマンを通じて「我々の経済は労働者が十分な賃金と良い手当を得ているときにこそ強くなると信じている。ミシガンは強いミドルクラスと強いアメリカ経済を作るのにどれだけ自動車産業の労働組合が貢献したかを体現している州であり、ライトトゥワーク法の支持者はその歴史を覆そうとしているのだ」とのコメントを出した。

ミシガン州の労組指導者にJILPTがインタビューしたところによれば、AFL-CIOは州知事ほか共和党州議会議員のリコールを準備するなど、2014年の次期選挙にむけた巻き返しの動きに入っているほか、週末ごとに州議会議事堂で抗議行動を行っているとのことである。

参考

  • Nora Macaluso, “Michigan Unions Look to Lock in Contracts Before’Right-to-Work’ Statute Takes Effect, Daily Labor Report, Dec.14
  • Nora Macaluso, “Michigan Legislature Oks Replacement For Replaced Emergency Manager Law, Daily Labor Report, Dec.14
  • Nora Macaluso, “Michigan Governor,Lawmakers Fast-Track’ Right-to-Work’ Bills; House Passes First Bill, Daily Labor Report, Dec.6
  • Nora Macaluso, “In Michigan, Obama Slams ‘Right-to-Work’ As Democrats Seeks to Slow Bills’ Progress, Dec.10
  • Michael Rose,“CAP, EPI Reports Slam’ Right-to-Work’; Michigan Governer Signs Controversial Bill, Dec.11
  • Nora Macaluso, “Bills Speed Through Legislature To Make Michigan ‘Rigtht-to-Work’ State, Dec.7
  • Nora Macaluso, “Michigan Becomes 24th ’Right-to-Work’ State As Many Union Supporters Protest at Capitol, Dec.11
  • Susan Hobbs, “Voters Reject Curbs on Public Labor Unins In Michigan, Idaho, South Dakota Measures, Nov.07
  • Gordon Lafer, Marty Wolfson, and Nancy Guyott, ‘Indiana experience offers little hope for Michigan ‘right-to-work’law, Economic Policy Institute, Dec 11.

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