家事労働者の法的保護
―国内法を調査、ILO条約との適合で

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  • 国別労働トピック:2012年9月

ハンスベックラー財団は今年8月、国際労働機関(ILO)189号条約「家事労働者のためのディーセント・ワークに関する条約」の要請に対する国内法の適合状況について調査した結果を発表した。それによると、ドイツの国内法はILOの要請基準を満たしているが、いくつかの改善が必要と結論付けている。

条約批准の可否めぐり調査へ

ILOは昨年6月の総会で、これまで「労働者」として保護されてこなかった「家事労働者」を労働基準の枠内におくことを決定し、条約を採択した。

一つもしくは複数の世帯の中で、育児・介護・家事などを行う家事労働者は、未登録の場合も多く、把握が難しいが、世界全体で5300万人から1億人いると推計されている。

家事労働者の多くは女性で、移民労働者も多く、雇用・労働条件の点で差別や人権侵害などを受けやすい弱い立場にあることが分かっている。

そのため、ILOでは、「家事労働者は、召使いでも家族の一員でもなく、労働者である」ことを明確にするために「家事労働者のためのディーセント・ワークに関する条約(189号)」、および付属する同名の勧告(201号)を賛成多数で採択した。

しかしドイツは現在までのところ、この条約を批准していない。そのため、ハンスベックラー財団がヴィアドリア欧州大学のエヴァ・コッヒャー法学教授に委託し、批准の可否に関する家事労働者の法的整備調査を行った。

家事労働者、約20万人

ドイツ連邦統計局によると、2010年の個人世帯における家事労働者数は約20万8000人で、その大部分は女性である(図)。コッヒャー教授は、家事労働者のうち介護従事者がかなりの数を占めていると見ており、高齢化の進展に伴って家事労働者の数は増加すると予測している。

図:家事労働者の数(男女別)

図:2009-2010年における家事労働者の数(男女別)

出所:Statistische Bundesamt 2012

国内法の保護の現状

調査の結果、ドイツの法律は「個人世帯における家事労働者について、他の従属的労働者と同じ権利を認める」とするILOの最低履行条件を満たしており、現行法を緊急に改正しなくともILO 189号条約の批准が可能であるが、実際にはいくつかの点でさらなる改善が必要であることがコッヒャー教授によって提示された。家事労働者の法的保護の現状は以下の通りである。

(1)一般原則

家事労働者の多くは女性であるが、いくつかの例外をのぞき、女性労働者の保護に関する労働法の適用を受けることができる。これは外国人労働者についても当てはまるが、出身国からドイツに一時的に派遣されている場合には適用されないこともある。

(2)労働安全衛生

労働安全衛生法(Arbeitssicherheitsgesetz)は、家事労働者には適用されない。ILO189号条約は「家事労働の特別な事情」の考慮を認めており、批准を妨げるものではないが、条約批准後は、家事労働者に対する労働安全衛生上の保護を他の労働者と同等水準まで段階的に適合させていくことが必要だろう。

(3)労働時間

家事労働者は、ドイツの一般的な労働時間保護の適用を受ける。例えば家事労働者は少なくとも連続24時間の週休を得る権利があり、待機時間も労働時間として見なされる。労働時間については、ILO 189号条約の要求水準を上回っている。

(4)報酬

家事労働者の賃金については、家事手伝い連合会(Hausfrauenbund)と食品・飲料労組(NGG)が締結した賃金協約が存在する。法定最低賃金については、介護業務部門にのみ存在する。また、ドイツの法律では、使用者が金銭報酬に代わって現物支給をするのを制限しており、ILO 189号条約の要求水準を上回っている。ただ、個人の世帯で雇われている介護労働者の多くは、未登録で表に出ておらず、公式に把握されていない可能性がある。

(5)社会保障

僅少労働(ミニジョブ)で家事労働をしている者は原則として他の僅少労働者と同様に取り扱われる()。ただ、分担金額に若干の相違があるため、批准した場合は、規定の一部を廃止する必要があるかもしれない。

(6)乱用、虐待、暴力に対する保護

乱用、虐待、暴力に対する保護について、ドイツの法律は、ILO 189号条約の最低要件を満たしている。しかし、職場が個人の家庭内にあるために可視性に欠ける点や、家事労働に対する社会的評価が欠如している点などから、通常よりも家事労働者には特別の保護が必要だろう。

条約批准によって議論の活性化を

以上のように、法律上は家事労働者も通常の労働者も、ほぼすべての権利と保護を有する労働者であるように見える。しかし、実証調査によると、「家事労働の多くは、法的報告義務が果たされておらず、おそらくそのほかの使用者義務も果たされていない」とコッヒャー教授は推測している。そのための対策として、同教授は、重大な法律違反に関する具体的な容疑がある場合には、使用者の了承を得ずに住居内に立ち入ることができる「干渉権の行使」を一つの解決策として示している。
 また、ILO189号条約の批准については、「むしろ批准することで、関連議論を活発化させ、関係者全員の明確な自覚を促し、家事労働者の実質的な状況改善につながる」と結論付けている。

参考資料

  • Eva Kocher(2012)"ILO-Konvention über Hausangestellte", Böckler Impuls Ausgabe 12/2012, ILO Press release | 16 June 2011

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