11年の派遣労働者数、2年連続で増加
―経済・金融危機の急落から回復基調―
フランス労働省(注1)の発表によると、経済危機で落ち込んだフランスの派遣労働(注2)が2年連続で上向いている。2011年の1年間に210万人が1680万件(前年比7.3%増)の派遣労働に従事し、派遣期間の平均は1.8週間(前年比0.1週間増)であった。また、フルタイム労働者数換算(注3)の派遣労働者数は、57万6100人であり、これは前年の52万7100人から9.3パーセント増加したことになる。特に、製造業や建設業で派遣労働が増加した。
フルタイム換算で前年9.3%の増
フランスで2011年の1年間に締結された派遣労働の雇用契約数は、およそ1680万件で、前年比110万件の増加 (7.3%増)だった。また、民間企業(一部の公営企業も含む)の賃金労働者に占める派遣労働者の比率は3.2%で、前年の3.0%から0.2ポイント上回った。さらに、雇用契約期間は平均1.8週間で、前年より0.1週間伸びた。
2011年の派遣労働者数は、フルタイム労働者数換算(注3)で57万6100人であり、これは前年と比べて4万8900人の増加(9.3%増)であった。2010年の前年比17.8%増に及ばないものの、依然として派遣労働の増加が続いている。2004年以降のフルタイム労働者換算数の推移については図1を参照。
図1:派遣労働者数の推移
性別でみると、65%が男性であり、35%が女性であった。フルタイム労働者数換算の労働時間では、男性が72%である一方で、女性が28%を占めているという結果であった。
2011年の1年間に、少なくとも一度は就労した派遣労働者の数は210万人で、09年=170万人、10年=190万人から、引き続き増えている。210万人のうち少なくとも4回以上契約したのは54%、1回のみは22%だった。就労期間の平均は2.6カ月で、その半数が1.6カ月以下なのに対して、7カ月以上が10人に1人を占めている。
製造業・建設業で増加
産業別では、製造業において最も多く派遣労働が利用されている。同産業における2011年の派遣労働者数は、フルタイム労働者数換算(以下の数字も同じ)で26万1000人であり、これは派遣労働全体の約45%を占める。次に多い産業が、19万5000人のサービス業(第3次産業)で34%を占めている。さらに、建設業の11万7600人で20%を占める(それ以外は、農業の2500人である)。2011年の製造業とサービス業における増加率は、前年と比べて低かったのに対して、建設業では前年より高い水準にあった。
製造業のうち、特に、「輸送用機器製造業」や「電気・電子機器・機械製造業」、「その他の工業製品製造業」で増加率が高く、前年比、それぞれ35.1%、22.4%、15.3%の増であった。2010年の前年比についても、これらの製造業で大きく増加していた。ただ、経済・金融危機以前の2007年の水準までは回復してはいない。これらの製造業は、2008年から2009年にかけて大きく減少した。
サービス業では、「行政サービス・教育・医療・福祉」(前年比11.5%増)や「運輸・倉庫業」(同5.3%増)、「科学・技術関連業」(同4.3%増)、「商業」(同3.5%増)などの増加率が、特に高かった。
平均契約期間は1.8週間
2011年の派遣労働の平均契約期間は、前年よりおよそ半日増加し、1.8週間となった(2010年は1.7週間)。しかしながら、経済・金融危機以前の2007年の1.9週間と比べると、平均契約期間は短い。2011年に締結された契約の46.0%は1週間以下の契約期間で、36.1%は1週間以上2週間未満であった。つまり、82.2%は、2週間以下の契約期間であった。ただ、2010年と比べると1週間以下の契約の比率が若干低下し(2010年には47.5%)、1週間以上2週間以下のそれの比率がやや上昇した(2010年には34.8%)。
2011年に製造業で締結された契約は645万件で、1件当たりの契約期間は、平均2.1週であった。建設業では233万件の契約が締結され、平均契約期間は2.6週であった。サービス業では、796万件の契約が締結され、平均の契約期間は1.3週であった。
ブルーカラーの派遣数、依然として低水準
2011年の派遣労働者(フルタイム労働者数換算、以下同じ)を職業階級別にみると、1.8%が(上級)管理職(Cadres)で、8.1%が中間職(professions intermédiaires=上級管理職と一般職・現場労働者の間の職業階級)、12.2%が一般事務職(employés)、41.4%が熟練現場労働者(ouvriers qualifiés)、36.5%が非熟練現場労働者(ouvriers non qualifiés)であった。派遣労働者数は、前年比で熟練現場労働者が14.4%増、(上級)管理職が13.2%増、中間職で12.4%増と比較的大きな伸びを示したが、非熟練労働者と一般事務職では、それぞれ6.3%、0.3%の増と小幅な伸びにとどまった。2011年の(上級)管理職及び中間職、一般事務職は、経済・金融危機以前の2007年の水準に近づいた(これらの3職業階級の派遣労働者数の合計は、2007年に13万3600人、2011年に12万7300人であった)。それに対して、2007年に24万8000人であった非熟練現場労働者は、2011年に21万100人、同様に、2007年に25万6200人であった熟練現場労働者数は、2011年に23万8700人と、現場労働者(ブルーカラー)は、経済・金融危機以前と比べて、依然として低い水準にある。
非熟練、男性、若年者で高い水準
賃金労働者に占める派遣労働は、製造業において7.6%であり、この数値は前年の6.7%から上昇している。建設業の比率は7.9%で、これも前年の7.3%から上昇した。サービス業での比率は1.5%で、これは前年と変化はない。
また、就業する賃金労働者に対する割合を職業別にみると、非熟練現場労働者が11.8%であり、熟練現場労働者が7.0%であり比較的高い。それに対して、一般事務職は1.3%、中間職は1.1%、(上級)管理職は0.3%と低い水準にある。さらに、男女別では、男性の賃金労働者のうち、派遣労働者の比率は4.4%で、女性の1.9%より高い水準にある。年齢階級別では、若年層(但し、20歳未満を除く)ほど比率が高い。20歳以上25歳未満の年齢層では、賃金労働者の9.6%が派遣であったのに対して、50歳以上では、1.2%に過ぎなかった。
なお、フランスにおける派遣の取り扱い件数は、アデコ、マンパワー、ランスタッドに集中しており、2011年にはフルタイム労働者換算で33万1800人分、58%が三大派遣会社によるものである。
参考文献
- FINOT Jean (Dares), « L’intérim en 2011 : croissance soutenue », Dares Analyses, 2012-042, Dares du Ministère du Travail, de l'Emploi et de la Santé, 2012 (PDF:893KB)
- 大山盛義(1999)「労働者派遣法制の研究(1)フランス法と日本法を中心に」『東京都立大学法学会雑誌』東京都立大学法学会 編、40巻、1号、pp.445~481
- 奥田香子(2004)「第2章 フランス」『ドイツ、フランスの有期労働契約法制(PDF:976.3KB)』労働政策研究報告書No.L-1
- 保原 喜志夫(1984)「オルー法とフランス労働法の新展開」『日本労働協会雑誌』日本労働協会、26巻、7号、pp.37~49
- 三富紀敬(1986)『フランスの不安定労働改革』ミネルヴァ書房
注
- 正式には、労働・雇用・職業訓練・労使対話省(Ministère du Travail, de l'Emploi, de la Formation Professionnelle et du Dialogue Social)であるが、ここでは、労働省と記す。省の正式名称は、大臣の所轄分野に応じて、しばしば変更される。
- フランスにおける派遣労働について
フランスでは、原則として、無期雇用契約(contrat à durée indéterminée:CDI) を締結して、従業員を雇用しなくてはならない。有期雇用契約(contrat à durée déterminée:CDD)や派遣での人員確保は、例外的な手段としてのみ認められている。具体的には、傷病休暇など各種休暇・休職中の従業員の一時的代替や企業活動の一時的な増加への対応、季節労働などに限られている。したがって、企業における恒常的な業務を遂行するために、有期雇用契約(CDD)や派遣労働で人材を確保することはできない。
フランスにおいて非典型的契約(contrat atypique)は、(1)有期労働契約及び派遣労働(travail temporaire, intérim、(2)パートタイム労働(travail à temps partiel)および間歇労働(travail intermittent)の2つの類型に分類される。派遣労働は、有期の雇用契約の一種であるが、通常の有期雇用契約(CDD)は企業が期限を区切って、従業員を直接雇用する契約であるため区別して扱われる。
派遣労働(travail temporaire, intérim)は、一時的な職務の遂行のために締結される雇用契約である。労働者の雇用及び賃金の支払いが、就労先企業ではなく、一時就労登録会社によって行われる。したがって、このintérimは、日本の「派遣」に近い雇用形態である。ただ、このintérimは、請負と明確に区別された概念ではない。このレポートでは、intérimを派遣労働と訳している。(海外労働情報:フォーカス2005年1月「フランスにおける派遣労働(interim)」も参照)
ただ、「travail temporaire, intérim」を派遣労働と訳すことに関しては諸説ある。保原(1984)は、「利用目的の限定等わが国の派遣労働とかなり異にするので、原語に忠実な訳語」として「一時的労働」をあてている。一方で三富(1986)は、臨時的・一時的な性格が希少化していること、派遣労働企業と利用企業と労働者という三者の契約関係から成り立っていることなどを理由として、積極的に「派遣労働」という訳語を当てている。大山(1999)も「派遣労働者と派遣元企業の間の派遣労働契約と、派遣元企業と派遣先企業との間の労働者派遣契約の2つの契約が存在し、かつ、両者には何ら契約関係は存在しない派遣先が派遣労働者に対して具体的な労務給付につき指揮命令権を行使するといった」点に着目し「派遣労働」と訳している。
フランスでは、派遣労働に関して対象業種の制限はなく、派遣労働者と派遣先の直接雇用労働者の同等待遇が法律で定められている。つまり、就労期間中の賃金や社会保障などの労働条件は、同一企業(派遣先企業)内の同様職種・地位の労働者と同等の扱いを受け、雇用形態による差別的な待遇が禁止されている。 - Volume de travail en équivalents-emplois à temps plein = 全派遣労働者の派遣労働者としての就業週数の総計を52週で除したもの、すなわち、派遣労働者が、年間を通じて、フルタイムで派遣労働者として就業していたと仮定した場合の労働者数。
2012年9月 フランスの記事一覧
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