低賃金労働者が10年で約2割増
―「雇用の奇跡」の陰で

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年8月

ドイツは2000年代に入り、雇用と労働時間の柔軟化を進めてきた。90年代の高失業率を是正するためには硬直した労働市場の改革が必要と判断したためだ。2008年の金融危機の際には、それが功を奏し、大量の失業者を出すことなく雇用を回復させ、他国から「雇用の奇跡」と呼ばれた。しかし、その陰で、低賃金労働者の数が拡大しており、過去10年で約2割も増えている。

労働者の5人に1人が低賃金

「低賃金労働者」とは、時給が平均名目賃金の3分の2未満の労働者を指す。デュイスブルク・エッセン大学労働資格研究所(IAQ)のカリナ研究員とヴァインコップフ研究員は、この基準にしたがって社会経済パネル調査を分析した。それによると、2010年の場合、時給9.15ユーロ未満が低賃金労働者に該当し、学生や年金受給者を含めて792万人の数に達していた。全労働者の23.1%を占め、2000年の663万人と比較すると約2割も増えている(図1)。

低賃金労働者の平均時給をみると、旧東独地域で6.52ユーロ、旧西独地域で6.68ユーロと、基準額の9.15ユーロを大きく下回っていた。さらに時給6ユーロ未満で働く労働者は250万人強にのぼり、うち80万人はフルタイム労働者だった。月給に換算すると約1000ユーロにしかならず、低賃金労働者の約3分の1弱が劣悪な労働条件で働いていたことになる。

図1.低賃金労働者数の推移

図1.2000-2010年における低賃金労働者数の推移

出所:IAQ2012

低賃金リスクが最も高い僅少労働者

両研究員の分析によると、低賃リスクが最も高いのは僅少労働者だという。僅少労働(ミニジョブ)とは、収入が月400ユーロ以下で、所得税と社会保険料の労働者の負担分が免除される制度(使用者は免除されず、3割分を負担する)。2003年の「ハルツ改革()」で、僅少労働の報酬の上限を325ユーロから400ユーロに引き上げた代わりに、週労働時間の制限(上限15時間)を解除し、時給の下限を事実上廃止した。このために、以降、この雇用形態は急速に拡大した。

前述のIAQによると、僅少労働者の71%は低賃金で働いており、そのうち36%は時給6ユーロ未満、25%弱は時給5ユーロ未満で働くなど、極端な低賃金が拡大している。

労働組合は、ハルツ改革を完全に否定していないが、特に改革による柔軟化の成功例とされている僅少労働の状況には以前から懸念を示している。ドイツ労働総同盟(DGB)は、「僅少労働者の3分の2は女性で、多くがサービス分野で働いている。僅少労働の急増は社会保障義務のあるフルタイム雇用への橋渡しにはなっていないのが実情だ」と主張している。また「僅少労働が生活を保障するには十分な所得をもたらさないことから、むしろ女性の経済的な従属性を強める結果となり、労働市場の性別による分断化が進むのではないか」との懸念も表明している。

また、IAQの分析によると、僅少労働者に続いて低賃金リスクが高いのは、有期で働く若年労働者や外国人労働者となっていた。

低賃金の改善に法定最低賃金導入を

IAQは、低賃金労働の拡大を抑制する方策として「全業種に対する法定最低賃金の導入」を提言している。「時給8.50ユーロの法定最低賃金が導入されれば、雇用労働者の5人に1人が賃上げの恩恵を受け、さらに性別では男性の15%弱、女性の約25%が、地域では旧西独地域の17%、旧東独地域の60%強の労働者の待遇が改善される」と推計している。そして、導入時のポイントとして、「業種を限定するのではなく、全ての業種と全ての労働者に適用することが重要だ」と結論付けている。

参考資料

  • Bocklerimpuls 6/2012, 9/2012, Niedriglohnbeschaftigung 2010: Fast jede/r Vierte arbeitet fur Niedriglohn, IAQ-Report 1/2012, IAB-Discussion Paper 01/2012, JILPT資料シリーズNo.79(2010)「欧米における非正規雇用の現状と課題」ほか各ウェブサイト

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