超過勤務手当の税・社会保険料減免措置を縮小
―前政権の看板政策を転換

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年8月

5月の大統領選に続き6月の国民議会選でも勝利を収め、政権基盤を固めた社会党は、公約の実行を進めている。政府は7月4日、財政赤字を今年末に、GDP比4.5%以下に抑えるため、72億ユーロの歳入増加を目指すとした法案を決定した。贈与や相続に対する課税の強化や、有配の大企業に対する課税の強化、超過勤務手当に係る税・社会保険料減免措置の縮小などが主な内容である。サルコジ前政権が決定していた消費税の税率引き上げを実施しないことも決めるなど、政権交代を印象付ける内容となっている。

社会党、国民議会議員総選挙でも勝利

フランス国民議会議員総選挙(注1)は6月10日に第1回投票が実施され、36選挙区で当選者が決定した。そのうち、社会党(および社会党系)が23人を占め、対してサルコジ前大統領の所属政党(右派)の民衆運動連合・UMP(および同党系)は7人にとどまった。決選投票は6月17日に実施され、やはり社会党など左派が圧勝し、国民議会の過半数を占めることとなった。具体的には、左派が343議席を獲得したのに対して、右派は229議席に留まった(残りは、中道政党・民主運動MODEMおよび極右政党・国民戦線FN)。社会党系は302議席を確保、現政権に閣僚を出しているヨーロッパ・エコロジー・緑の党(Europe Ecologie Les Verts)も18議席を獲得した。これに対して、右派・民衆運動連合UMP系は、改選前の319議席から大きく後退し、206議席にとどまった。同党の候補者のうち、女性閣僚として国防相や内相、法相などの要職を歴任したアリオ・マリ氏など閣僚経験者も多数落選している。社会党では、総選挙に出馬した現職閣僚は全員当選したが、2007年の同党大統領候補であったロワイヤル氏やラング元文化相などは落選した。

また、今回の国民議会選挙では、極右政党・国民戦線FNが、1986年以来26年ぶりに議席を獲得した。マリーヌ・ルペン党首は、社会党の候補者におよそ100票及ばず落選したが、同氏の姪(ジャン=マリー・ルペン前党首の孫)など3候補者が当選した。今年4月の大統領選で、ルペン党首が善戦したのに加えて、国民戦線が国会でも議席を獲得したことで、移民排斥などを主張する同党の存在感が増していることが改めて浮き彫りとなった。

オランド新政権は、今次選挙の勝利により、国民議会の過半数を占めて政権基盤を固めることに成功した。様々な公約の実現に向けた環境を整えたといえる。

財政赤字の縮小を最優先

政府は7月4日、2012年の修正予算法案を閣議決定し国会に提出した。オランド大統領は、歳入の拡大及び歳出の削減により公的財政の赤字を縮小させ、国の国際的な信用を確保し、2017年末には財政を均衡させることを公約にしていたが、この法案は、その実現へ向けた第一歩となる。

大統領府によると、現政権は、2012年当初予算と比べて、71億ユーロの歳入減を見込んでいる。そのうち、59億ユーロは、「前政権による楽観的過ぎる歳入見込み」(大統領府)が原因で、24億ユーロは、2012年の経済成長率が0.3%にとどまるとの見通しによる(注2)。しかしながら、同時に、当初予算と比べて、歳入増となる項目もあり(具体的な項目は明示せず)、それが12億ユーロであると大統領府では予測している。

この歳入減を補うため、2012年末までに72億ユーロの歳入が増加する施策が、この修正予算法案の中に盛り込まれた。これは、2012年の財政赤字をGDP比4.5%に抑制させるという目標の達成を目的にしている(2011年の財政赤字はGDP比で5.2%)。ただ、この増税は、「公正さを確保するため、負担能力のある者に求める」(大統領府)とし、低所得者などの負担増にならないように配慮するとしている。

主な歳入増加・歳出削減策は、下記の通り。

  1. 消費税の税率引き上げの中止と資産収入への課税強化

    前政権が決定した「現在19.6%の消費税TVA(付加価値税)の一般税率を、今年10月1日から1.6ポイント引き上げ、21.2%とする」という規定を廃止する。これは、消費税の税率引き上げにより、国民の実質購買力が年間106億ユーロ(大統領府試算)低下し、景気に悪影響を及ぼす恐れがあるためである。ただ、同時に制定された「一般福祉税のうち資産収入に課される税率を2ポイント引き上げ、現行の8.2%から10.2%とする」という規定は維持する。

  2. 超過勤務手当に係る所得税および社会保険料の減免措置の大幅縮小

    サルコジ前大統領の2007年の大統領選における公約として掲げていた「より多く働き、より多く稼ぐ」ことのできる社会の構築を目指して導入された超過勤務手当に係る所得税および社会保険料の減免措置を、大幅に縮小することとなった。サルコジ前大統領は、就任後間もない2007年10月から、時間外労働を促進させ、超過勤務手当が適用される給与を増加させ、国民の購買力を高めることを目的に、この超過勤務手当に係る所得税および社会保険料の減免措置を実行に移した。現政権は、この施策に対する政府の財政負担が重いものの、超過勤務時間に対する影響が限定的であるとし、今年9月1日をもって、同措置を従業員数20人以下の企業に限定することにした。これにより、およそ年間30億ユーロの歳出が削減できるとしている。

    経済誌Les Echosによると、現在およそ900万人の雇用労働者が、この減免措置の恩恵を受けている。特に、時間外労働に従事する者が多い建設業などの現場労働者や教員などで、この措置の縮小の影響が大きいとしている。

  3. 相続税及び生前贈与に係る贈与税の非課税枠の縮小

    相続税の非課税枠を、現行の159,325ユーロから100,000ユーロへ引き下げる。同様に、生前贈与にかかる贈与税の非課税枠も引き下げる。法定相続人1人当たり10年間の合計で159,325ユーロ未満としている現行の非課税枠を、15年当たり100,000ユーロ未満とする。

  4. 高額資産所有者に対する課税強化

    課税評価額80万ユーロ以上の資産所有者に対して、同額を超える所有資産額を対象に、0.55%(80万ユーロ~131万ユーロ)から1.8%(1679万ユーロ以上)を臨時課税する(2012年のみの措置)。

  5. 従業員貯蓄制度への企業の拠出金に対する課税強化

    フランスには様々な従業員貯蓄制度(epargne salariale)があるが、この制度に対する企業の拠出金に対する課税料率を現行の8%から20%へと引き上げる。

これら歳入増加・歳出削減策などを盛り込んだ2012年修正予算法案は、7月16日から国会での審議が始まった。野党となった民衆運動連合・UMPは、サルコジ大統領時代の看板であったともいえる政策(すなわち超過勤務手当に係る所得税および社会保険料の減免措置や消費税引き上げ)の縮小・廃止が盛り込まれているこの法案に強く反発しているが、国会では現与党が多数派を占めるため、法案は国会で可決され、歳入増加・歳出削減策は順次実行に移される見込みである。

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