スキル不足で求人難も、企業の訓練低調
―雇用・技能委員会が報告書

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2012年8月

技能政策に関して政府に提言する雇用・技能委員会(UKCES)は7月、2011年の企業のスキル需要や訓練の実施状況などについての調査結果を報告書にまとめた。不況期だった2年前調査に比べ、求人数の増加は見られるものの、労働者のスキル不足を原因とした充足困難が見られる。また、企業でも、スキル不足に対応した訓練が必ずしも実施されていない状況が明らかになった。

熟練工、専門職などで求人難

「雇用者スキル調査」(Employer Skills Survey)は、UKCESが隔年で実施している(注1)事業所調査で、最新の2011年調査はイングランドの7万4000事業所から回答を得ている。報告書の概要は以下の通り。

新卒者の仕事に就く準備

回答事業所の30%が過去3年以内に新卒者を採用、その多くが新卒者は「仕事に就く準備が出来ている」(well prepared for work)と評価しており、この比率は新卒者の年齢と最終学歴に比例して高まる(16歳の学卒者で59%、大卒者で83%)。17~18歳の新卒者については、通常の教育機関よりも職業訓練寄りの継続教育カレッジ(注2)の出身者をより高く評価する傾向にある(それぞれ66%、74%)。また「準備が出来ていない」と評価する理由としては、経験不足(職業的経験、人生経験が少ない、成熟度が低い)やパーソナリティの問題(態度が悪い、モチベーションが低い)など。このことは、企業が提供する就業体験が若者を益する可能性を示唆している。

スキル不足による求人難

調査期間中(2011年3―5月)、事業所の15%が合計で53万3400人分の求人を行なっており、事業所比率、求人数とも09年調査からは増加しているものの、不況前の07年調査のレベルには達していない。事業所の4%が求職者のスキル不足(スキル、資格、経験が低い)により充足困難な求人があると回答しており、求人全体の16%(8万5500人分)に相当する。スキル不足による求人難の比率が高いのは、職種別には熟練工 (33%)(注3)、専門職(22%)で、業種別には製造業(24%)、コミュニティ・ソーシャル・対人サービス(23%) (注4)など。また中小規模(25―199人)の事業所では、前回調査からスキル不足による求人が顕著に増加している(注5)。

充足困難な求人があると回答した事業所のうち、81%がその影響として、従業員の負荷が増大しモラル低下や離職のリスクを高めているとしている。またより直接的な事業への影響を挙げる回答も多い(サービス目標の達成が困難46%、新製品・サービスの開発に遅れ40%、事業運営コストの増加40%)。

従業員のスキル不足

スキル不足の従業員を1人以上抱えていると回答した事業所は全体の18%、従業員数では約130万人(全従業員数の6%相当)となり、09年調査からは減少している。職種別には、販売・顧客サービスや基礎的職業(注6)などで多く、一方で求人難が報告されている熟練工については、スキル不足の従業員の比率が前回調査から最も大きく低下している。また業種別には、ホテル・レストラン業、卸売・小売業で比率が高い。ただし、スキル不足の最大の理由は新任あるいは訓練途中であること(それぞれ46%、45%)だ。また影響としては、他の従業員の負荷の増大を挙げる事業所が49%と最多で、以下、事業運営コストの増加27%、品質維持が困難26%、など。また、全体として従業員のスキル不足に直面する事業所比率やこうした従業員の比率は低下しているが、中小規模事業所では低下傾向は緩やかとなっている。

企業における訓練の実施状況

過去12カ月の間に従業員に対して職場内もしくは職場外の訓練を提供した事業所は全体の66%、従業員1200万人あまり(53%相当)が対象となった。一人当たり訓練日数は8.3日、また一人当たりの訓練費用は約3300ポンド。ただし、費用のおよそ2分の1は訓練受講中の賃金で、外部の訓練プロバイダーへの支払いは8%。訓練受講者比率は規模の大きい事業所で高く、一人当たりの訓練日数は小規模な事業所で多い傾向にある。職種別の訓練受講者比率を見ると、介護・レジャー・その他サービスで70%と高く、管理職(44%)、管理・事務(45%)、機械操作(45%)、基礎的職種(48%)などでは比率が低い。なお、公的に承認された資格の取得を目的とする訓練を提供した事業所は全体の30%。

前回調査時には、企業が不況対応として求人を抑制する一方で、従業員訓練の充実によりスキル需要の充足を図ったため、訓練を提供した事業所や受講者の比率が高まったとみられる。結果として、2011年調査における訓練受講者比率や訓練日数は、前回調査に比して若干減少しているが、小規模(25-99人)事業所では前回調査から僅かに訓練日数が増加しており、他の規模に比してスキル不足の解消が進んでいない(従業員の訓練が依然としてスキル不足への対応の重要な手段となっている)可能性がある。

また、訓練を提供しなかった34%の事業所のうち、23%では訓練外の育成を実施している。すなわち、職務への適応状況を上司が監督、他の従業員の仕事を観察する機会を与える、本来の職務範囲を超える仕事を与えて達成度をフィードバックする――など。

訓練提供の有無と製品・サービスの質との関連を見ると、革新的(高品質、高カスタマイズ)で価格依存性の弱い製品やサービスを提供していると回答した事業所は、訓練を提供した比率が高い(71%)。一方、逆に革新性が低く価格依存性の強い製品・サービスを提供する事業所における比率は平均を下回っており(47%)、訓練を提供しなかった事業所の大半がその理由について「必要がないため」と回答している。こうした事業所で働く従業員は教育訓練の機会を逃しているといえる。

スキル需要、訓練の実施状況の推移
  2005 2007 2009 2011
求人のあった事業所比率 17% 18% 12% 15%
求人総数 573,900 619,700 385,700 533,400
うちスキル不足により充足困難な求人 143,100 130,000 63,100 85,500
(求人総数に占める比率) (25%) (21%) (16%) (16%)
従業員のスキル不足を抱える事業所比率 16% 15% 19% 18%
スキル不足の従業員数 126万人 136万人 170万人 132万人
(全体の従業員数に占める比率) (6%) (6%) (7%) (6%)
訓練を提供した事業所比率 65% 67% 68% 66%
うち職場外訓練を提供した事業所比率 46% 46% 51% 47%
訓練を受講した従業員

1200万人
(全体の従業員数に占める比率) (56%) (53%)
受講者一人当たりの訓練日数 8.5日 8.3日
受講者一人当たりの訓練費用 £2,550 £2,775 £3,050 £3,300

企業の積極的な取り組みを要請

学卒者のスキル不足は、主として経営側から、これまでも繰り返し指摘されてきたところだ。最近でも、例えば経営者団体のCBI(イギリス産業連盟)が6月に公表した会員企業調査の結果によれば、会員企業の42%が学卒者の読み書き計算能力の欠如を補うための教育を実施している(注7)。あるいは昨年のBCC(イギリス商業会議所)による中小企業調査でも、スキル不足への不安から、学卒者の採用に積極的とする企業は限定的だ(注8)。

また、地方自治体の連合体であるLGAが6月に公表した報告書(注9)は、継続教育カレッジ等が企業のスキル需要に対応した訓練コースを提供していないと批判している。多くの若者が美容・理容やホスピタリティ、マスメディアなどのコースを修了するが、対応する求人の数は限られており、むしろ人材不足の状態にある建築・エンジニアリング、環境産業などの分野の修了者が少ないという(注10)。

UKCESは、経済成長の原動力である中小企業におけるスキル不足が景気回復の妨げとなっている可能性を指摘、教育訓練の重要性を主張している。ただし同時に、近年の若年失業者の増大に対応するためにも、過度なスキルの偏重は控えるよう企業に求めている。7月に公表した報告書「The youth employment challenge」によれば、若者向けの仕事である販売や基礎的職種の雇用が近年減少しており、また就業経験をより重視する小規模企業の増加などで若者の就業機会が狭まっている。しかし、就業経験を積んだ学卒者(座学と企業などでの就業を組み合わせたコースの修了者)の比率はむしろここ15年減少が続いているという。このため、就業経験や学歴などを過度に偏重せずに幅広く若者を採用し、育成を行なうことや、アプレンティスシップ(注11)や就業体験などの受入れを通じた若者の支援など、企業の積極的な取り組みを求めている。

参考資料

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