政府、職業訓練高校を改革
―学歴偏重の風潮是正へ

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2012年7月

韓国では、2008年に高校生の大学進学率が83.8%に達し、「学歴インフレ」といわれる様相を呈した。大学生の就職は困難を極め、大学卒業生が従来高校生の就職していた低技能の職を奪うようになった。韓国政府は、学歴を過度に重視する社会の風潮を是正するため、職業分野の人材育成を行うマイスター高校や特性化高校などを設置し、高校生の技能教育および就職支援に力を入れている。

マイスター高校卒業予定者に求人が殺到

韓国政府は2010年、ドイツの職業教育訓練制度をモデルに従来の職業訓練高校のうち21校をマイスター高校に指定した。この年、3,600人の学生がマイスター高校に入学し、造船、機械工学、半導体製造、医療機器などの分野の専門技術教育を受けはじめた。学生の授業料は免除されている。マイスター高校の卒業生は最長4年間兵役に就くことを延期できる。

マイスター高校は、産業界の協力を得て、現場の必要性に応じた専門技術教育のカリキュラムを作成している。産業界の人材が校長を務め、民間技術者を教師として雇っている。マイスター高校は、企業と学校が雇用契約に合意して対象の学生を選考する、学校教育と現場研修を組み合わせた「雇用契約付入学」プログラムを推進している。

マイスター高校は現在35校となっており、政府はさらに数を増やしていく計画である。マイスター高校は約1,800社の企業と協力協定を結んでおり、多数の卒業予定者の就職が既に内定している。サムスン電子やLGグループの企業などは、100人規模で卒業生の採用を約束している。マイスター高校に技術教育用の機材を寄贈する企業や採用予定者に奨学金を支給し、休日に自社で職業訓練を実施する企業もある。政府は、公共機関に対しても、年間採用枠の一定割合をマイスター高校の卒業生から採用するよう呼びかけている。

李 明博大統領は、2009年から2011年の間に毎年マイスター高校を訪問し、教師と学生を激励した。李政権は、韓国の大企業に対し、大学卒業資格を持たない高校卒業生をより多く採用するよう圧力をかけ続けた。結果として、マイスター高校の卒業生には企業の求人が殺到し、労働市場における新たなトレンドを作り出した。

國民銀行、韓国産業銀行やウリィ銀行のような韓国の主要銀行も職業訓練高校の卒業生に門戸を開いた。韓国銀行連合会は、今後3年間に2,700人以上の職業訓練高校卒業生を採用すると発表した。

特性化高校の就職支援も強力に推進

韓国では、特殊分野の職業教育を集中的に実施し、専門人材の早期育成をめざす特性化高校を設置している。韓国教育科学技術部は、他の政府機関と協力して様々な産業分野の職業訓練高校を特性化高校に指定してきた。特性化高校の数は、1998年に4校が指定されて以来徐々に拡大を続け、2010年には168校に達した。教育科学技術部は2015年までに特性化高校の数を350校に増やすよう計画している。

韓国政府は、マイスター高校の普及で得た経験を生かし、産業界と特性化高校の協力を強化するための政策を進めている。企業が必要とする人材に関する情報を特性化高校に提供するとともに、政府機関と産業界の特性化高校に対する支援を拡大する制度の確立をめざしている。教育科学技術部は2011年、特性化高校の学生26万人に奨学金を支給する事業を実施した。加えて、就業能力強化プロジェクト、海外インターンシップ、現場研修プログラム、OJTインターンシップなどを通じて、特性化高校の学生の就職支援の拡大に力を入れている。

韓国政府はまた、職業高校卒業生の多くが大学に進学してしまう現状を改革しようとしている。教育科学技術部は、職業訓練高校の学生に最初に就職して専門分野のキャリアを開発し、その後、必要なら大学に進学する「就業優先、教育は後から」制度(Employment-first Education Later System)を推奨している。職業訓練校を卒業後すぐに就職した企業の従業員には、大学入学や奨学金受給の機会が与えられる。2012年から就職する特性化高校の卒業生は、業種や企業規模にかかわらず、兵役義務を延期できるようになる。

参考

  • 韓国教育科学技術部ホームページ、韓国職業能力開発院ホームページ

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