金属産業の派遣労働者に特別手当
―IGメタルと派遣事業主団体が合意

カテゴリー:非正規雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年7月

金属産業で働く派遣労働者に対する特別手当の導入について、IGメタル(金属産業労組)は5月22日、2つの派遣事業主団体と合意した。正規労働者と派遣労働者の格差是正を目的とし、同一の派遣先企業での就労期間によって、給与の15%~50%の手当を受けとる。金属産業で初めて導入されたこの制度が他産業に広がるかが注目される。

就労期間で段階的に増額

今回IGメタルが、事業主団体のBAP(人材サービス 業者全国使用者連盟)およびiGZ(ドイツ労働者派遣事業協会)と合意して導入が決定した特別手当は、各人の同一企業における就労期間によって以下の通り段階的に増額される。

  • 第一段階:6週間後、給与の15%分の特別手当
  • 第二段階:3カ月後、同20%
  • 第三段階:5カ月後、同30%
  • 第四段階:7カ月後、同45%
  • 第五段階:9カ月後、同50%

実際の額は、未熟練者で月186~621ユーロ、熟練者で月246~819ユーロになると見られ、対象産業で働く24万~28万人の派遣労働者が恩恵を受ける見込みである。また、協約期間は、2012年11月1日から2017年12月31日までとなっている。

処遇問題が政策課題に

ドイツの派遣労働は1972年の労働者派遣法(AüG)制定以降、一貫して規制緩和の流れの中で発展してきた。 特に2002年のハルツ改革で派遣期間の上限撤廃など大幅な規制緩和を行った結果、企業にとって派遣労働の利用価値が高まり、2004年から2008年にかけて派遣労働者の数は約40万人から約80万人に増加した。その後は世界金融危機の影響を受けて2009年6月末に約60万人に減少したが、景気回復とともに再び増加し、現在は約90万人以上にのぼると見られている。

ハンスベックラー財団(WSI)経済社会研究所顧問のハルトムート・ザイフェルト博士は、「派遣労働者は景気変動の緩衝材としてレイオフされるリスクが高いことに加え、正規労働者より賃金水準も低い。企業にとっては、不況時の大量解雇の際にも対象者の選択で社会的対立を起こすことのない、解雇コストもかからない存在」と分析する。

労働組合は、こうした派遣労働者の増加が正規労働者の待遇悪化につながることを懸念しており、派遣労働者が多い産業を代表するIGメタルを中心に、近年派遣労働者の実質的な均等待遇を求める活動を強化してきた。

一方、政府は派遣労働を「失業者の労働市場へのブリッジ(橋渡し)」と捉えており、特に長期失業者や低資格の者が労働市場に参入しようとする際の新たな就業機会としての役割に期待している。しかし、一部の使用者寄りの労働組合が不当に低賃金の労働協約を締結したり、同一企業で正規従業員が安価な派遣労働者に代替される事態が生じる(注1)など、派遣労働をめぐる問題は増加している。このような事情を背景に、政府は派遣労働者の処遇改善を重要な政策課題と捉えており、フォン・デア・ライエン労働社会相も「派遣労働者の処遇改善について労使が合意できないならば、今後は政府による制度設立もあり得る」と言及していた。

他産業に波及するか?

今回の合意についてIGメタルの交渉担当者ヘルガ・シュバイツアー氏は、「完全とは言えないが、賃金格差が大幅に解消され、派遣労働者の同一賃金に向けて大きく前進した」と述べて成果を強調した上で、「今後も派遣労働者の条件・規制強化に取り組んでいく」とコメントした。

一方、派遣事業主側のトーマス・ボイマー氏は「特別手当導入によって派遣労働者の人件費が上昇するため、今後は特に低技能労働者の就労機会が減るだろう。我々にとって重要な顧客である金属関連の企業では派遣の採用を控える動きがあるかもしれない。だが、いずれにしても労使自治は守られ、政治家らの要求は満たされた」と述べた。

フォン・デア・ライエン労働社会相は、「労使はともに派遣労働者の公正な処遇に向けて重要な決定をした」と評価した上で、「この労使合意は他の指針となるものであり、他産業も同様の協約を締結することを期待する」とのコメントを発表した。

このような特別手当が今後、他産業の派遣労働者に対しても波及するかどうかが注目される。

参考資料

  • IG Metall Aktuelle Pressemitteilungen(22.05.2012 - Nr. 39/2012), Interessenverband Deutscher Zeitarbeitsunternehmen e.V. AKTUELLES(22.05.2012), International Metalworkers' Federation(23.5.2012),Staffing Industry Analysts(22 May 2012)

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