無給での義務的就労、受け入れ数を拡大
―失業者の就労促進策の一環

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2012年7月

政府は6月、失業者を無給で企業で働かせる「義務的就労活動」を強化する方針を示した。受け入れ枠を拡大するとともに、参加拒否などに対する求職者手当の休止など制裁措置を厳格化する。失業者の就労促進策の一環として実施されているものだが、その効果をめぐって疑問視する声も出ている。

違反者には最長3年の給付停止

求職意欲に問題があると判断された失業者などに適用される義務的就労活動(Mandatory Work Activity)プログラムは、企業などで週30時間まで、4週間にわたる就業を義務付けるもの。期間中、参加者には求職者手当は支給されるが、就業に対する賃金は支払われず、また正当な理由なく参加を拒否・中断する場合、給付停止の制裁措置が科される。2011年5月の導入以降、2012年2月までに1万7000人弱がプログラムに参加したという。

制裁措置により無給の就労を義務化するこうしたプログラムをめぐっては、将来の雇用につながらないとの評価や、無料の労働力として悪用されているとの批判の声も強く、今年初めには、民間企業が相次いで不参加を表明、政府が対応を迫られる事態も生じていた(注1)。しかし、政府は引き続きプログラムを活用する姿勢を示している。

新たな強化策は、同プログラムに500万ポンドの予算を投じて年間の受入れ枠を9000人分追加し、毎年6~7万人の参加を可能にするというものだ。併せて、プログラムへの参加を回避する目的で、求職者手当の申請を一時的に中断することを防止するため、再申請を行なう受給者に対してはプログラムへの参加義務をより強く課し、また制裁措置を厳格化するという。現在は、1度目の違反で3カ月間、2度目で6カ月間、給付が停止されるが、3度目の違反に対して3年間の給付停止とする制裁措置を、新たに今年中に設ける。

一連の施策に関する発表の直後、政府は義務的就労活動の効果に関する報告書(注2)を公表した。同報告書は、義務的就労活動が導入された2011年5月から7月までの3カ月間の参加者について、非参加者との比較によりその効果を分析。プログラムへの参加から10週目の時点では、給付に留まっている者の比率に明確な差(参加者77%、非参加者82%)が生じたが、21週目にはこの差が消失しているという(双方とも74%)。報告書は、プログラムに就業促進の実質的な効果は認められなかったと結論付けている。ただし、分析対象とした期間や対象者が限定的であること、またプログラムの参加者は非参加者に比して就業への移行がより困難な層であり、結果として効果が過小評価された可能性が強いとの留保をおいている。政府も、分析結果については実態に即していない可能性を述べるに留め、求職意欲のない層や不正な受給者等に対する方策としてのプログラムの有用性を主張している。

なお関連して、6月下旬には、若年失業者向け支援パッケージ「ユース・コントラクト」(2012年4月に開始)(注3)の一環として実施している若年長期失業者の雇用に対する助成金の支給(6カ月の継続雇用に対して2275ポンド)について、拡充の方針が示された。国内の高失業地域20カ所を対象に、助成の条件である失業期間が9カ月から6カ月に短縮される見込みで、7月末の実施が予定されている。しかし、新たに対象となる若年者の数など、想定される効果は明らかにされていない。

就業体験を含む就労支援プログラム
プログラム 概要 期間
就業体験(Work experience) 就業経験のない16~24歳層で、13週間超の求職者手当受給者(16~17歳は1日目から)が対象。受け入れ先企業で週25~30時間就労、参加中は求職者手当を受給する。参加は任意だが、「甚だしい不正行為」に対しては給付停止の制裁措置あり。 最長8週間
業種別ワーク・アカデミー(Sector Based Work Academy) 求職者手当受給者(年齢制限なし)が対象。小売、ホスピタリティ、介護などの業種における基礎的な資格の取得を目標に、官民の教育訓練機関(継続教育カレッジや民間訓練プロバイダ等)による訓練と就業体験が提供され、終了時には実際の求人の面接機会が提供される。参加は任意だが、中断に対しては給付停止の制裁措置あり。 最長6週間
義務的就労活動(Mandatory Work Activity) 3カ月を超えて求職者手当を受給している者(年齢制限なし)が対象。ジョブセンタープラスのアドバイザーが必要と認めた(受給者が就職や仕事を維持する上で必要な行動に関する理解を欠いていると判断した)場合、「地域コミュニティの利益になる活動」への参加を義務付けることができる。具体的には、住宅の保守作業、古い家具の補修、非営利団体での補助的活動のほか、明確にコミュニティの利益になる場合は、営利団体での就労も含まれる。受け入れ先は、政府からの補助金を得て参加者を支援する。参加者は週30時間まで就労、求職者手当のほか、交通費・託児費用の支給が受けられる。適切な理由なく参加をやめた場合は、1回目が13週、2回目(前回の中止から12カ月以内)が26週の手当支給停止。 最長4週間
ワーク・プログラム(Work Programme) ワーク・プログラム参加者(18-24歳層は通常9カ月超、25歳以上層は12カ月超の求職手当受給者、このほか就労困難者など。プログラムへの参加は最長2年。)のうち、就労支援の一環として、プロバイダーにより就業体験が提供された者。 最長4週間
コミュニティ・アクション・プログラム(Community Action Programme) 4地域での試行の後、2013年から全国での実施が予定されているプログラムで、2年間のワーク・プログラムが終了しても仕事を得られていない求職者手当受給者が対象。週30時間のコミュニティ・ワークに従事する。参加は義務で、違反者には給付停止措置が適用される。 最長6カ月

参考:Centre for Economic and Social Inclusion新しいウィンドウDepartment for Work and Pensions新しいウィンドウウェブサイト

参考資料

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