移民2世の「成功」要因を詳細分析
― 社会統合めざし、DIWが調査報告

カテゴリー: 外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2012年5月

移民家庭出身の若者の労働市場への統合はドイツも含め欧州各国の大きな課題となっている。移民第2世代が学歴や職歴などで成功を収めるためには何が必要で何がきっかけとなっているか。ドイツ経済研究所(DIW)は2月、その要因と関係を詳細に分析した調査報告を発表した。メンター(相談者)との出会いやドイツ独自の職業訓練であるデュアルシステムの活用を「成功」の要因の1つに数える一方で、早期の段階での学校の振り分けが不平等の原因となっている、との見方も示している。

トルコ・アラブ系移民の若者の学歴・就労移行調査

移民家庭出身の若者は、そうでない同世代の者と比べて学術的な職業に就くことが少なく、不安定な就労状況に置かれることが多い。ドイツ経済研究所(DIW)は、移民第二世代の若者を労働市場へ統合するための成功要因を探るために、社会経済パネル調査(SOEP)のクロスセクションデータなどを用いて分析した。

図表1は、職業訓練を希望している若者の1年後の状況を比較したものである。これによると、トルコ系とアラブ系の若者の方が、移民の背景を持たない若者より自身の希望通りになる割合が低いことがうかがえる。

図表1:職業訓練ポスト応募者の1年後の状況(自己評価)
(移民の背景を持たない者とトルコ・アラブ系の比較)

図表1:職業訓練ポスト応募者の1年後の状況(自己評価)

注:端数処理のため、合計が100%にならない場合がある

出所:職業教育訓練研究機構(BIBB)2011.

最大の問題はドイツの学校制度

ドイツの学校制度は、初等教育期間を経た時点で、種類の異なる学校を選択し、就学する分岐型が主流となっている。日本の小学校に相当する基礎学校(グルントシューレ)の4学年を終えた時点で、中等教育期間をどこで学ぶかについて将来の方向性を決断しなければならない。その後2年の観察指導期間を経て中等教育前期段階で、「基幹学校(ハウプトシューレ)」、「実科学校(レアルシューレ)」、「ギムナジウム」の3つのコースのいずれかに進むのが一般的である(この3つの学校形態を包含した「総合制学校(ゲザムトシューレ)」もあるが、数は多くない)。

多くの教育研究者は、この早い進路分けが、移民の子どもたちと、そうでない子どもたちの間に不平等が生じる重大な原因であると見ている。

実際にドイツ経済研究所(DIW)の調査でも、移民の子どもの約半数が「基幹学校(ハウプトシューレ)」に通った後に、職業への移行に対し問題を抱えている一方で、移民の背景を持たない子どもが同様の経路をたどるのは15%弱と非常に少なくなっている。

また、大学進学を前提とした「ギムナジウム」で学ぶトルコ系の子どもは11%強しかいないのに対して、移民の背景を持たない子どものその割合は34%を占めていた。

なお、ドイツでは低学歴の非就業者の大きな集団が存在するが、そのうち4分の1が移民の背景を持ち、その大多数をトルコ系の女性が占めている。

メンターとの出会いや転居が改善要因に

今回の調査では、社会経済パネル調査(SOEP)以外に、教育や職業の上で成功した移民第二世代(18~35歳)に直接インタビューを行った結果、移民の子どもたちの成功につながる社会的要因は複数存在していることが明らかになった。例えば、「家族の高等教育の価値に対する理解」、「教師などのメンター(相談者)の存在」、「転校や転居による異なる環境との接触」などである。

高学歴を得たインタビュー対象者の多くが挙げていたのは、メンターの影響である。 多くの場合は教師であり、彼らがメンターとしての役割を果たし、就学時および職業移行時に若者の支えとなってモチベーションや自信を与えていた。また、メンターの多くは他の社会的環境の出身で、そのことが若者に別の視点を開かせることにつながっていた。

インタビュー対象者の多くは、移民の割合が高く失業率や貧困率が高い地区の出身だったが、転校や転居によって「社会的および文化的に異なる地区へ移動」した者は、それが自分に新しい視点や可能性を開いた決定的な変化であったと振り返っていた。インタビュー対象者の大多数は、地理的移動性が非常に限られており、自らの環境以外での経験が乏しいため、移転などの外的要因がなければこうした機会はほとんど得られないとDIWでは分析している。

学校や職業訓練のやり直し機会の可能性

もう一つの大きな成功要因は、学校教育や職業訓練を「やり直せる(セカンドチャンスの機会)」可能性である。ドイツの場合、デュアルシステム(注1)に代表される独自の職業訓練制度を通じてより容易な労働市場への参加が可能となっており、学歴または職歴に問題のある場合でもこのやり直すことができ、これが一部では成功に結び付いているのではないかと、DIWでは見る。

もっとも現在の職業訓練制度がすべてを成功に導いているわけではなく、改善すべき点もあるが、今後より多くの移民の背景を持つ若者を労働市場に統合させるために、デュアルシステムなどの職業訓練制度を積極的に活用していくことが望ましいと結論付けている。

参考資料

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