雇用・労働市場対策、GDPの4.6%に
―2009年、膨らむ財政支出

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年5月

2008年後半に始まった経済危機の影響で雇用情勢が悪化したため、失業手当などの所得保障費が大幅に増加していたことがわかった。今年1月末に発表された政府報告書によると、2009年の雇用・労働市場対策に関する全体の支出は871億ユーロ。これはGDPの4.6%に相当する。

所得保障と税制優遇、ほぼ同規模

雇用・労働市場対策費は、求職者等困難な状況にある者を対象にしたもの(特殊雇用契約や求職者の職業訓練、失業手当などの所得保障制度)と、雇用促進・安定を目的とし、特定のカテゴリーの労働者を対象とした労務費の軽減(低賃金労働者や超過勤務手当に対する税・社会保険料負担の軽減や特定の地域や産業に対する税制上の優遇)に大別される。2009年の雇用・労働市場対策費のうち、457億ユーロが前者、414億ユーロが後者に要した支出であった。

積極的雇用政策、GDP比0.7%に

求職者(失業者)や雇用の不安定な者を対象とした対策は、(1)無業時の所得保障(失業保障制度や早期退職制度による各種手当支給)、(2)労働市場に関する公共サービス(求職者に対する職業紹介事業や個別の指導など)、積極的雇用政策(職業訓練や特殊雇用契約、身体障害者の雇用に対する助成、失業者による起業に対する支援)の3種類に分類される。

経済危機に対応するため、政府は、2008年第4四半期以降、部分的失業(注1)や特殊雇用契約の利用の促進、零細企業に対する雇用促進助成金の支給、若年者に職業訓練を受けながらの就業を促すことなど、様々な雇用支援策を打ち出した。その結果、このような求職者等困難な状況にある者を対象にした雇用・労働市場対策費は2009年に457億ユーロとなり、前年比で16.7%の増加となった。それまで5年連続で減少していたが、一転しての大幅な増加である。そのうち、最も大きな支出額を占めるのが失業時の所得保障費で268億ユーロであった。中でも、失業保険制度による失業手当が238億ユーロに達し、これは、前年比19.9%の増加となっている。また、2008年から2009年にかけて、失業を避けることを狙い、部分的失業を促進させる制度改正が行われたが、この部分的失業者に係る支出は3.6億ユーロで、前年比20倍以上となった。

一方、雇用・労働市場に関する公共サービス関連支出は48.7億ユーロで、前年より21%増加した。このうち、旧公共職業安定所(ANPE)と全国商工業雇用連合(UNEDIC:Union nationale pour l’emploi dans l’industrie et le commerce)が統合して発足した公共職業安定所(Pôle Emploi)の運営費が30.6億ユーロ。この運営費は、失業保険制度からの拠出金及び国からの補助金で賄われている。2008年の旧公共職業安定所(ANPE)の運営費は14.7億ユーロであり、2009年1月1日以降、失業保障制度に関する運営が新公共職業安定所(Pôle Emploi)に移行したことに伴い、支出はほぼ倍増した。

また、職業訓練等の積極的雇用・労働市場政策に係る支出は前年比で11%増加し138億ユーロとなった。これはGDP比の0.7%に相当する。この積極的雇用政策のうち支出額が最も多い項目は職業訓練費で、2009年には69億ユーロとなり、前年と比べて24.8%の大幅増加であった。失業者などが起業する場合の助成額は7.4億ユーロとなり、前年比で20.6%の増。他の積極的雇用政策としては、特殊雇用契約を利用した雇用直接創出策に29億ユーロ、雇用促進策に18億ユーロ、雇用維持策に14億ユーロなどが支出されたが、これらは前年と比べて大きな変化は見られない。

税・社会保険料の軽減措置に多額の補填

フランスには、雇用維持(安定)・促進を狙っているものの、失業者等困難な状況にある者を対象としているわけではない制度も存在している。低賃金労働者や超過勤務手当に対する税・社会保険料負担の軽減や特定の地域や産業に対する税制上の優遇措置がこれに該当する。2009年にこれら制度に関連した支出は前年比で5.1%増加し413億ユーロであった。これは、GDPの2.2%に相当する。

この中で、最も大きな支出項目を占めるのが税・社会保険料の減免措置で、270億ユーロに達している。社会保険料の軽減措置による社会保険会計の歳入減少分の多くは、国の一般会計から補填されているが、2003年に制定されたフィヨン法により、時間給の低い労働者に対する社会保険料使用者負担軽減策が実施されているが(注2)、これに関連する支出が222億ユーロであった。また、超過勤務を促進させることにより所得を増やし購買力を高めることを狙って、2007年10月から超過勤務手当に係る所得税および社会保険料の労働者負担が実質的に免除、一方、使用者負担分も減額されているが、これに関連する支出は44億ユーロとなっている。

このように、経済危機後の雇用対策などの支出は大きく膨らんでおり、財政問題をより深刻化させている。景気の回復が遅れる中、雇用情勢は改善の兆しを見せていない。大統領選においては、サルコジ、オランド両陣営とも国民向けの甘いメッセージを並べた。結果勝利をしたのはオランド社会党であったが、厳しい財政状況の中、今後の舵取りは極めて厳しいものとなろう。

参考

  • 海外情報収集協力員

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