最低賃金、中部各地域で上昇
―沿岸部と労働者獲得競争の様相―

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年5月

今年に入り、中部地域での最低賃金の引き上げが相次いでいる。昨年は主に沿岸部で最低賃金が引き上げられていたが、経済発展と労働力人口の頭打ち、および沿岸部の高賃金を嫌う工場の内陸部移転に伴い、中部での賃金が上昇しつつある。中部出身の出稼ぎ労働者が出身地に帰郷する傾向も現れはじめ、沿岸部と中部が労働者を奪い合う様相となっている。

中部地域で相次いでで引き上げ

本年はこれまでに重慶市・四川省・甘粛省・陜西省・寧夏回族自治区など、中部で相次いで最低賃金が引き上げられている(表)。昨年は主に沿岸部で最低賃金が上昇したが、本年は中部・沿岸部の双方で引き上げられている。中部地域での引き上げ率はほとんどの地域で20%を超えており、政府の第12次五カ年計画(2011-2015)での目標である「年率で13%以上」を超えている。一方の沿岸部での引き上げ率は、例えば北京市が8.6%増(1160元から1260元に)、上海市が13.3%増(1280元から1450元に)と相対的に小さい状況だ。

最低賃金法により、各市省は少なくとも2年に1度最低賃金を調整する事となっている。2011年1月以降、未だ最低賃金の引き上げを実施してないのは海南省、黒竜江省、チベット自治区の3地域であるが、いずれの地域でも現在、その改訂が検討されている。

表:2012年の中部における主な最低賃金引き上げ
  改定後 改定前 上昇率
重慶市 1050元 870元 20.7%
四川省 1050元 850元 23.5%
甘粛省 980元 760元 28.9%
陜西省 1000元 860元 16.3%
寧夏族自治区 1100元 900元 22.2%
  • *いずれも月額、地域内に複数の基準がある場合は最も高い値を掲載
  • *社会保険料・住宅積立金を含むか否かは地域ごとに異なる。また社会保険料の負担率も異なる
  • 出所:各市省政府

出稼ぎ労働者の行動に変化の兆し

改革開放以来、「先富論」に基づき沿岸部が先に発展してきた。それに伴い賃金・最低賃金も、相対的に沿岸部で大きく上昇し、沿岸部と内陸部および都市と農村の格差は拡大する一方であった。沿岸部では輸出目的の工場が立ち並び、当初は沿岸部のみで労働力需要を賄えていたが、やがてそれでも不足し始めると、内陸部の出稼ぎ労働者を受け入れる形で労働力を補った。内陸部の地方政府としても、出稼ぎ労働者の送り出しは当該地域の失業削減と個々人の収入増加につながるため、積極的にサポートしていた。

しかし、ここ2、3年は企業の工場が内陸に移転し始めており、状況の変化が見られる。

原因は沿岸部での賃金高騰だ。ここ6、7年で沿岸部の最低賃金は軒並み2倍近くに急騰している。これを嫌った企業は、相対的に賃金水準が低い内陸部へと工場の移転を進めている。ここ数年で内陸部における労働需要は高まりつつあり、徐々に労働需給も逼迫しつつある(図)。

そのため内陸部出身の出稼ぎ労働者、とりわけ中部地区出身者の行動に変化が見られる。中国統計局が4月に発表した報告書「2011年中国農民工調査観察報告」によると、出稼ぎ労働者のうち、出身の省以外で出稼ぎを行っている者の割合は、西部地区出身者では2010年の56.9%から2011年は57.0%と微増している。一方、中部地区出身者では2010年の69.1%から2011年は67.2%と減少した。中国全体でも省外出稼ぎ労働者が244万人減少している一方で、省内出稼ぎ労働者は772万人増加している。

かつては沿岸部に労働者を送り出していた中部の地方政府も、現在は労働者の確保に努めるべく、方向を転換しつつある。例えば重慶市では、重慶で働く農村戸籍の出稼ぎ労働者に対して、一定の条件を満たした場合に都市戸籍の付与を認めて、社会保険や教育の機会を提供している。2011年には、他地域から重慶市に出稼ぎに来る労働者の数が、重慶市から他地域に出稼ぎへ行く労働者の数を初めて上回った。

一方の沿岸部では労働者の減少が統計にも現れ始めている。広東省統計局によると、2012年第1四半期の省内の就業人口は前期比で11.23万人、0.9ポイントの減少となった。当局は最近の傾向として、新たに広東省に流入する労働者が減少していると分析している。

図:陜西省の求人倍率の推移(単位:倍)

図:陜西省の求人倍率の推移(単位:倍)(2009-2011年)

出所:陜西省政府

将来的には沿岸・内陸格差は縮小する見通し

現状では、平均賃金や最低賃金で沿岸部・内陸部間に明らかな格差が存在するが、将来的には縮小する見通しだ。四川統計部の未部長は「中西部地域の最低賃金は、過剰な労働供給が終了して需要が増大するのに伴い、大きく引き上げられていくだろう。四川においては、生産年齢人口は未だ減少していないので、移住労働者が四川から沿岸部へ移動しても、それが四川の労働需給に圧力を加えているわけではない。しかし、将来的には四川の経済発展に伴い沿岸部への労働力移動も減少して、沿岸部との賃金格差も縮小すると予想される。その状態になるまでは、いくらか時間がかかるだろうが。」と述べている。

一方の沿岸部においては、本年も北京市や上海市で最低賃金が引き上げられているものの、一部に高止まり、据え置きの傾向が見られる。

例えば広州市では、作年末に最低賃金の引き上げ案が提示され、年明け1月からの実施は確実と見られていたが、見送られた。その後、度々引き上げの機運が高まり、その憶測を伝える現地報道も見られたが、5月現在では未だ引き上げられていない。現在の1300元から1500元にまで引き上げる案が出た際は、広州市人的資源社会保障局の担当者が1500元という額について、「平均賃金の約30%なので、経営者の脅威にならないだろうと考えている。」と述べていた。しかし、輸出向け製品を製造する工場経営者を中心に、現在の最低賃金の水準を超える額での経営では他国との価格競争に太刀打ち出来ない、という声が上がったこともあり、引き上げは延期された。広州市を含む広東省は中国全土でも賃金が最高水準である(広東省深セン市の最低賃金は全国最高の1500元)。本年の第一四半期の平均賃金も前年同月比で13.0%上昇しており、引き続き増加傾向にある。

参考資料

  • 各市省政府、統計局、チャイナデイリー

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