最低賃金、若者向けは据え置きに
―雇用に配慮、制度導入後で初めて

カテゴリー:労働条件・就業環境

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2012年3月

政府は3月、全国最低賃金の改定額を発表した。成人向けの基本額を6.19ポンド(11ペンス増)に引き上げる一方、21歳未満の若者向けの額については、悪化の続く雇用状況を考慮のうえ、1999年の制度導入以降初めて据え置きとした。

改定額は、最賃制度に関する政府の諮問機関である低賃金委員会(Low Pay Commission)の提言を受けたものだ。同委員会は政府に提出した報告書の中で、景気の低迷や公共部門における賃上げ凍結などの影響で、今年の消費者物価上昇率は2%、平均賃金上昇率は2.4%程度に留まると予測、さらに労働市場の状況にも改善は見込めないとの見方から、成人向け基本額の改定幅を1.8%に抑えた。一方、雇用状況の悪化が続く若年層については、本来は賃金水準よりも景気動向による影響が大きいとの可能性を示唆しつつも、若年労働者が企業にとって少しでも魅力的に映るよう、「不本意ながら」据え置きを提言するとしている。ただし、2010年より新たに導入したアプレンティスシップ(見習い訓練)の参加者向けの最賃額については、2011年も順調に参加者が増加していることを根拠に、基本額と同等の引き上げ案を示した。

政府はこれらの案を受け入れ、基本額を6.19ポンド(11ペンス、1.8%増)、アプレンティス向け額を2.65ポンド(5ペンス、1.9%増)とする一方、18-20歳層および16-17歳層向けに設定されている額については、それぞれ現行の4.98ポンドと3.68ポンドを10月以降も維持することを決めた。

今回の改定、とりわけ若者向け額の据え置きの是非をめぐっては、労使やシンクタンクの間で意見の相違が見られる。低賃金委員会に使用者側として参加しているイギリス産業連盟(CBI)は、委員会が使用者側の意見を聞き入れて、基本額の改定幅を控えめに設定したことを賞賛、また若者向け額の据え置きも、企業が若者を雇い入れやすくなるとして歓迎している。また、イギリス商業会議所(BCC)は、若者向け額の据え置きには賛同するものの(BCCは2011年の改定をめぐり、若者向け額の引き下げを政府に要望していた)、基本額の引き上げ幅については高すぎると不満の意を示している。このほか、制度を所管するビジネス・イノベーション・技能省や、シンクタンクのCIPDも、低賃金委員会に対して若者向け額の据え置きを求める意見を寄せていた。

一方、イギリス労働組合会議(TUC)は、「最賃の若年雇用への影響は実証されていない」として、若者向け額の据え置きは不当であると主張、企業の雇用に対する躊躇は、政府の景気回復を実現する能力に確信が持てないことによるとしている。また現地報道によれば、シンクタンクのIESやNIESRも、最低賃金額が企業の雇用に影響するとの意見には懐疑的で、据え置きは雇用創出につながらないとみている(注1)。

最低賃金額の推移
  1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
最賃額(£) 3.60 3.70 4.10 4.20 4.50 4.85 5.05
増加率(%)   2.8 10.8 2.4 7.1 7.8 4.1
未満率(%)* 0.9 0.9 1.3 0.9 1.0 1.0 1.0
対平均賃金比率(%)* 35.7 34.7 36.5 35.9 37.7 38.5 38.5
対賃金中央値比率(%)* 45.4 44.2 47.2 46.5 48.1 49.4 49.7
  2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
最賃額(£) 5.35 5.52 5.73 5.80 5.93 6.08 6.19
増加率(%) 5.9 3.2 3.8 1.2 2.2 2.5 1.8
未満率(%)* 1.0 0.9 0.8 0.9 0.9    
対平均賃金比率(%)* 39.6 39.2 39.8 39.6 40.2    
対賃金中央値比率(%)* 51.0 50.6 50.7 50.9 51.7    

* 統計局(Office for National Statistics)の労働時間・所得統計調査(Annual Survey of Hours and Earnings)に基づき、低賃金委員会が推計したもの。

出典:National Minimum Wage - Low Pay Commission Report各年版

参考資料

参考レート

関連情報