金属労使、操短手当の拡充を要求
―政府、静観の構え

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年12月

金属産業の労働組合(IGメタル)と使用者団体(ゲザムトメタル)は、操業短縮手当について、給付期間を現行の6カ月から24カ月に延長し、適用対象を正規労働者(直接雇用の労働者)だけではなく派遣労働者にも拡大するように、政府に求めている。労働市場が比較的安定しているとして、政府はしばらく静観の構えでいる。

手当制度の拡充、08年危機で効果発揮

「操業短縮手当(Kurzarbeitergeld)」とは、操業短縮に伴う労働者の収入低下に対してその一部を補償する助成策の一つである。企業が経済的要因等から操業時間を短縮して従業員の雇用維持を図る場合、連邦雇用エージェンシーに申請すると操業短縮に伴う賃金減少分の一部(減少分の 60%、扶養義務がある子供を有する場合は 67%)が補填される。操短手当自体は1969年に創設されたものだが、2008年秋以降の世界的な経済危機に対応するため、時限的措置として給付期間を従来の6カ月から18カ月に延長した。その後、2009年初夏には新たな措置の中で最大24カ月に延長し、2009年末、および2010年5月にも拡充措置の延長がなされた。この制度拡充の結果、操短労働者数は、2009年に大幅に増加したが、2010年の景気回復とともに再び減少に転じた。なお、現在は従来の6カ月の給付期間に戻っている。

この制度は、「労働時間口座(注1)」などの柔軟な労働時間制度等と併用することで失業率の抑制に一定の効果があり、企業内の技能維持にも一定の効果があるとされている。企業は、操短手当を利用して熟練従業員を解雇せずに短時間労働に移行することで、熟練者の持つ技能を社内に留めることができるからである。景気が回復して増産する場合は、新たに採用して教育する手間と費用が省ける上、即座に以前と同質の製品が生産できるという利点があり、操短手当制度は近年、他国から高い評価を受けている。

欧州危機が波及、成長鈍化の兆侯

連邦統計局は11月8日、今年9月の輸出高(稼働日数・季節調整済)が前月比で2.5%減少し、昨年末以来最大の落ち込みとなったことを発表した。特にEU域内向けが大幅に減少しており、欧州債務危機の影響が及び始めてきたとの見方が強まっている。同じく鉱工業生産や製造受注の最新値も、徐々に悪化し始めており、設備生産能力の稼働率も年頭から下がり続けている。欧州経済研究センター(ZEW)が11月13日に発表した景気期待指数も、前月から4.2ポイント下落し、マイナス15.7ポイントに悪化した。

特に自動車や自動車部品産業の一部が欧州販売実績低迷の影響を受けており、関連企業を中心に、景気後退に備えて操短手当を申請する動きが出始めている。

申請件数、増加傾向だが危機時より低水準

連邦雇用エージェンシー(BA)によると、操短手当の申請件数は8月の2万4000件から9月は4万7000件へとほぼ倍増している。しかし、規模は月間で数万人に留まっており、最大だった2009年2月の新規数48万人(基幹産業)にははるかに及ばない(申請から給付確定までは3~4カ月かかる)。

さらに、金属・電気産業では、今年5月1日から4.3%の賃上げで労使が妥結しており、10月の政府景気見通しでも、今年の成長率は0.8%増、来年は1.0%増と、引き続き市場は安定するとの予測が出されている。そのため連邦労働社会省の広報担当者は「必要があれば迅速に適切な措置を行う」と述べるに留まっている。

労使「危機の前に迅速な対応を」

フィリップ・レスラー経済相は、「市場は現在安定しており、対応が必要になるのはまだ当分先のことだ」との見方を示している。

一方の金属労使はともに、操短手当の迅速な拡充を求めており、使用者団体(ゲザムトメタル)のライナー・ドゥルガー会長は「現在はまだ危機の様相は見られないが、政府は危機を待つだけでなく、成長鈍化を回避するために早急に操短手当を24カ月に拡充すべきだ」と主張している。IGメタルのベルトルト・フーバー委員長も「特に中小企業の労働者のために、操短手当の給付延長を早く実施して欲しい」と述べた。その上で、「派遣労働も通常の社会保険加入義務があり、正規労働者と同様に操短手当の適用を受けるべきだ」としている。派遣労働者への拡大適用については、使用者側も労組の主張を支持している。

参考資料

  • Der Arbeits- und Ausbildungsmarkt in Deutschland(Oktober 2012), ZEW Aktuelle Pressemitteilungen(13.11.2012 ), Gesamtmetall-Informationen für die Presse 33/2012(13.11.2012), The guardian(8 Nov. 2012), Badischen Zeitung(22. Oktober 2012), Frankfurter Allgemeine Zeitung (18.10.2012),Financial Times Deutschland (10.10.2012), Industry Week (Oct. 9, 2012)

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