国籍取得の手続き緩和を通達
―高学歴若年者を優遇、有期・派遣でも可能へ

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2012年12月

ヴァルス内相は10月16日、国籍取得の手続き(注1)に関する新たな通達を出した。サルコジ大統領時代に厳格化していた帰化申請の手続きを緩和することを目的としている。申請に必要な要件の1つの「安定した就労生活」の項目では、申請者が有期雇用や派遣の契約労働者であっても、それ自体を国籍取得の障害としないとしている。また高学歴の若年者を対象に以前よりも国籍取得を促す内容となっている。

帰化件数は大幅減少、前大統領の姿勢が影響

国民議会(下院)に10月に提出された移民等に関する報告書(注2)によると、2010年以降帰化件数が大きく減少している。2010年に6万5305人であった帰化件数(注3)は、翌2011年には4万6479件となり約29%減少した。この間の帰化申請件数は2010年8万245人、2011年8万2000人と微増となっている(図1参照)。また、2012年の上半期の帰化件数は1万7873件で年換算にすると23%の減少となる。この傾向が続けば帰化件数は、2010年から2012年までの2年間に45%もの減少となる。

図1: 帰化申請件数と許可件数の推移図1: 帰化申請件数と許可件数の推移、2005-2011年

出典:政府発表資料より作成

この背景には再選を狙ったサルコジ前大統領が、極右政党支持者の票を取り込むため移民排斥傾向を鮮明にしたことがある。帰化申請を受け付ける県庁で申請書類の不備などの理由で、帰化申請を棄却するケースが見られるという。例えば、出生証明書の翻訳不備を理由に審査手続きに入る前に却下されるケースもあったとされている。

帰化申請に必要な4要件

フランスでは、外国人が国籍取得の申請をする場合、原則として次の4要件が必要となる。(1)成人(18歳以上)であること、(2)申請時とそれ以前の5年間フランスに居住していること、(3)安定した就労生活を送っていること、(4)フランス社会に定着していること(フランス語力や共和国の価値に対する理解があること)などである。

手続きとしては、国籍取得希望者が必要書類を居住地の県庁へ提出し(手数料として、55ユーロを納付する必要がある)、書類審査を受け、面接調査(聞き取り調査)、最終審査などを経て、18カ月以内に結果が通知されることになっている。

「安定した就労生活」要件の中身を緩和

このような状況を踏まえて、ヴァルス内相は、2012年10月16日付けで、国籍取得手続きに関する通達(注4)を出した。この通達では、従来の帰化審査の過程で帰化申請者の実際の状況を無視している場合があったり、有資格者の帰化条件を意図的に厳しくしていることもあったことを認めている(注5)。その上で、帰化申請書類の審査は、民法典21-16条及びそれ以下の条項で定められる条件に基づいて行われており、国籍付与(帰化)の基準が透明性を持ち、公正なものでなくてはならないとしている。

この通達では、(1)安定した就労生活、(2)25歳以下の若年者、(3)新卒者・学生、(4)国籍取得に必要なフランス滞在年数、(5)65歳以上の語学力の評価について、(6)フランスの歴史及び文化、社会に関する知識と、フランス共和国の原則及び基本的な価値に関する理解についての評価などに関する詳細を定めている(注6)。

安定した就労生活を送っていることは、フランス社会に定着していることを示す大きな根拠である。ただ、この通達では近年、経済・社会的危機(景気低迷)は、多くの市民を襲っているが、不安定な雇用状況の者や無職の者、あるいは職業訓練の予定がない者にとって、帰化申請が不可能なわけではないとしている。つまり、国籍付与の判断は帰化申請時点に限られた申請者の状況のみではなく、職業経歴全てを考慮して下されるべきというわけだ。また、有期雇用契約(CDD)や派遣で就労している場合も、十分かつ安定した収入を得ている場合には、国籍取得上それだけでは障害とならないとしている。

その上で、職業経歴における一貫性と就労意欲を評価しなくてはならない。逆に、継続的な就労が困難な者、扶助制度へ反復的に頼る場合、あるいは滞在期間に占める非労働力の期間が長いことは、「申請者のフランス社会への定着」(民法典21-24条)に合致していないと判断される。ただ、継続的な就労が困難であるなどの場合でも、今後、帰化を申請することは可能であり、保留扱い(時間を置いて、国籍の申請をするようにとの勧告)の対象となる。

さらに、申請者が学生の滞在許可証を所持している場合には、従来、安定した職業についていないということと判断されていたが、学生であること自体が国籍取得に不利ということは「今後はない」としている。ただし、学生の滞在許可証所持者でも他の帰化申請者と同様に、安定した就労生活を明白に証明できるときのみ、帰化を申請することができるとしている(注7)。

教育期間など条件に25歳以下でも特別扱いに

25歳以下の若年者であって、少なくとも10年間フランスに居住し、少なくとも5年連続でフランスにおいて就学した者は、帰化申請において特別に扱うべきであるとしている。というのは、職業経歴が豊富でなくともフランスに長期間居住していること、フランスにおいて教育を受けていること及び国籍取得の手続きを行う意思があることによって、民法典21-24条において要求されているフランス社会への定着が明確に推定できるためであるとしている。ただし、このような若年者によって提出された申請も、他の申請者と同様に総合的な審査の対象となるとしている。というのは、非行歴などに関しては審査対象となり、帰化申請を棄却する根拠となり得るからである。

無期雇用の新卒・高学歴学生を優遇

若年者のうち学業修了後、有期雇用契約を経ずに経済的な自立につながる無期雇用契約を締結できる者もいる。彼らが将来有望であることを考慮すべきであり、(安定した就労生活の根拠となる)複数年の職業経験は(国籍取得申請の際に)必要としないこととしている。

通達では「我が国にとって高い潜在能力をもった者」、つまりフランスに多大な貢献する可能性のある者も、国籍取得に優遇するべきであるとしている。具体的な例として、ポリテクニークや高等師範学校といったグランゼコール(注8)の生徒を挙げている。また、博士課程在籍者のうち、有期雇用契約で教育・研究活動に一時的に従事している者も、その対象になり得るとしている。

学生の場合フランスに定住していることや一定の収入があること、フランスに貢献する分野での専門能力、その他業績、推薦状などに基づいた候補者の素質・能力など、それぞれの状況を総合的に評価して国籍付与の判断するように求めている。その上で前述のように、学生の身分であるというだけで、帰化への障害とはならないと明記している。

国籍取得に必要な滞在年数5年

民法典21-27条において、フランスでの滞在が非合法である場合は国籍を取得することは出来ないと規定している。また、国籍を申請する時点だけでなく、申請前の5年間について正規滞在である必要がある(民法典21-17条)。ただし、フランスの高等教育機関で学位を取得した者の場合は、2年間の正規滞在が証明出来れば国籍の取得申請が可能である(民法典21-18条)。

帰化申請に必要な居住年数は、正規に滞在している期間のみを対象としている。ただこの通達では、今後は過去に不法滞在の期間があったとしても、そのことによって自動的に帰化が棄却されるわけではないとしている。

65歳以上の語学力評価の免除

サルコジ政権時の2011年11月30日付の内務相(当時、移民相も兼務)による通達(注9)では、国籍を申請する者に対して十分なフランス語力を要求している。具体的には、DELF (教育省認定のフランス語検定試験) (注10)や特定の職種に関する基本的能力を証明する国家資格である職業適性証CAP(注11)、高等学校・大学の学業修了証(学位)などをフランス語力の証明書類として提出する必要がある。

しかしながら、今回の通達では65歳以上の帰化申請者に対しては、語学力の評価を免除することが可能であるとしている。というのは、高齢の移民には低学歴者が比較的多くいる上に、65歳以上の就業率は極めて低い状況にある中で、65歳以上で安定した就労生活を送っていること自体が高く評価できるためである。一定の職業経歴がある年金生活者は、語学力が不足していたとしても安定した就労生活が送れると判断できるからである。

百科事典的な文化の理解ではなく

民法典21-24条は、国籍申請者に対してフランスの歴史及び文化、社会に関する十分な知識があることを求めている。サルコジ前政権はこの規定を強調し、一部の移民が「フランス的な生活」に適応できない懸念があるとして、帰化希望者にフランスの文化や歴史を問う試験を課す計画を打ち出していた。当初は今年7月1日から実施される予定だったが、5月に行われた大統領選で社会党政権が誕生したことによって計画は宙に浮いていた。今回の通達はサルコジ政権の計画を廃案にしたかたちとなっている。新通達では歴史や文化の理解は詳細で百科事典的な知識を申請者が持っていることを確認するのではなく、基本的な市民権(国籍を有する国民としての権利)を確認するために十分な知識が必要だとしている。

帰化申請者がフランスの歴史及び文化、社会に関する知識を持っているかどうかの確認は、面接調査のやりとりの中に文化や歴史に関する話題を織り混ぜて判断すべきであるとしている。模範的で画一的な回答ができることを求めているわけではないことを謳っている。また、共和国の価値(国の理念、例えば、自由・平等・博愛の国であるというようなこと)を理解しているかどうか判断するために、市民の権利と義務に関する議論も行うべきであるとしている。その上で、質問に対して、正確に回答しなかったことを、帰化申請の棄却又は留保の理由にしてはならないとしている。つまり、これらに関する知識が十分でなかったとしても、帰化の許可は、他の要件も加味して、総合的に判断すべきであるということを強調している。

参考

(ホームページ最終閲覧:2012年11月27日)

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