ミニジョブ、報酬上限額の引き上げを閣議決定
―月額400ユーロから450ユーロへ

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年11月

メルケル首相率いる中道右派連立政権は9月19日、ミニジョブの上限額を現行の月額400ユーロから450ユーロに引き上げることを閣議決定した。現在、連邦議会において法案審議中で、早ければ2013年1月1日からの実施が見込まれている。

ミニジョブ労働者数750万人、増加傾向に

ミニジョブ(僅少労働)とは、収入が月400ユーロ以下の場合に、所得税と社会保険料の労働者の負担分が免除される制度である(使用者は免除されず、疾病保険と年金保険、税金分として一律30%の負担義務がある)。2003年の「ハルツ労働市場改革(注1)」で、ミニジョブの報酬上限を325ユーロから400ユーロに引き上げた代わりに、週労働時間の制限(上限15時間)を解除し、時給の下限を事実上廃止した。このために、以降、この雇用形態は急速に拡大した。

最新の統計によると、2011年12月時点でミニジョブ労働者は計750万人と、前年比較で12万人増加し、2003年のハルツ改革以降と比較すると約200万人増加している。このうち、ミニジョブの専業従事者は490万人で、本業のほかに税負担のない副業としてミニジョブに従事する者は260万人であった。

また、現在ミニジョブ労働者が多い産業は、主に小売業、飲食店、宿泊業である。保健・医療施設や福祉施設、ビル清掃業などでも多数のミニジョブ労働者が働いている。

引き上げによる国家コスト、最大3億ユーロ

今回の主な引き上げ理由として、「過去10年間にミニジョブの上限額は一度も引き上げられたことがなく、インフレ調整の観点からも450ユーロに引き上げるのが妥当なため」と政府は説明している。同時に、400~800ユーロの月額報酬に応じて労働者にも段階的に社会保険負担が発生する「ミディジョブ(累進ゾーン)」も450~850ユーロに引き上げられる見込みである。

併せて、「原則保険加入免除、希望に応じて満額分の保険加入も可能」としていた法定年金制度に関して「原則年金保険への加入義務、希望に応じて免除も可能とする」制度に変更したい考えだ。

地元紙の報道によると、連邦労働社会省が策定した草案から、今回の引き上げによる社会保険料収入と税収減少によって発生する国家コストは、最大3億ユーロと見積もられている。

野党と労組「低賃金層拡大の恐れ」と批判

今回の改革案について連立与党である自由民主党(FDP)のフォーゲル広報担当官は、「ミニジョブはさまざまな異なる年齢層の人々に人気のある、少しでも余分に稼ぐための手段であり、不法労働の撲滅に重要な寄与をしている。今回のミニジョブの所得上限の引き上げは、ミニジョブ労働者の所得を向上させる効果がある」と説明をしている。

一方、野党の左派党(Die Linke)や労働組合は、これについて懐疑的な見方をしている。

左派党は、「ミニジョブ労働者の時給は非常に低く、低賃金セクターを固定させる要因となっている。ミニジョブ労働者の所得向上のためには所得上限の引き上げではなく、法定最低賃金を導入すべきだ」と主張している。

ドイツ労働総同盟(DGB)幹部のブンテンバッハ氏は、「ミニジョブが社会保険加入義務のある仕事への橋渡し(跳躍台)にならないことはすでに証明されている。それどころかミニジョブは、―特に女性にとっては― 貧困高齢者という末路をたどる労働市場政策の袋小路になっている」と述べた上で、「ミニジョブ労働者の平均所得はたった260ユーロであり、所得上限を引き上げても現状は変わらないばかりか、かえって低賃金セクターを拡大する恐れがある」との懸念を表明した。

参考資料

  • Deutscher Bundestag(02.10.2012), Minijob-Zentrale(18.07.2012), Handelsblatt (19.09.2012, 20.09.2012)

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