シカゴ教員労組、25年ぶりにスト
―教育現場への市場原理導入が争点に

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2012年11月

シカゴ教員労働組合は10月4日にシカゴ市教育員会と労働協約を締結した。教育現場への市場原理導入が争点となり、労組は7日間のストライキを打ち、双方の妥協で紛争が収拾した。

民主党系市長、教育改革を一括提案

本来スト権を有しない教員労組が直接行動に踏み切ったのは25年ぶりのことだった。提案した市長が労組と敵対的な共和党系ではなく、労組の支持する民主党系だったことに加え、全米で3番目の生徒数の多い学区だったこともあって、この労使紛争は全米中の注目を集めた。

ストライキに至るまで労組とシカゴ市側の話し合いは3カ月以上に及んでいた。以前の協約は6月に期限切れとなっている。

ストライキに至る直前にシカゴ市が労働組合に提案していた内容は次のとおりである。

  • 4年間の協約期間で16%の賃上げ
  • 高度な専門的資格職の創設
  • 中途採用教員の処遇改善
  • 有給の産休と短期傷病休暇の創設と病気休暇持ち越し制度の廃止
  • 生徒の学力と能力育成に応じた教員評価システムの新設と、プロセスへの労組の参加
  • 業績連動給の導入
  • 低評価の教員の解雇、配転
  • 学校長権限の強化
  • 統一テストの実施による学校のランク付けと低ランク校の廃止
  • 廃校とされた学校の教員や成績評価によって解雇される教員への待機手当と解雇手当の支給
  • 年間総授業日数と1日の授業時間の増加

これらの提案は主として民主党出身のエマニュエル市長による。同市長はオバマ大統領のブレーンをしていたことも注目を集めた理由となった。

市長の狙いは公教育の現場に市場競争原理を導入することにあった。

生徒の学力と能力育成の程度により教員と学校の双方を評価する。教員には評価に連動した給与を導入する一方で、評価の低い教員を解雇するとともに、低ランクの学校は廃校にする。その評価のプロセスに労組を参加させる。これらの実施運営は学校長の権限を強化することによって実現するとした。学校長の採用には多様な人材を充てる目的から自由度を高める。

これらが労組側のもっとも抵抗するところとなり、協議が決裂してストライキとなった。この影響で35万人の生徒が自宅待機となった。

低ランク評価の「廃校」に社会的注目

労組側がもっとも問題としたのは教員への業績連動給の導入だったが、社会的な注目を浴びたのは低いランク付けをされた学校を廃校にしてよいかということであった。というのも、低ランクの学校は低所得層の多い地域に集中しているため、これらの学校が廃校されれば公教育を受ける機会の平等が失わる可能性があるからである。

市長は廃校後の教育制度として、チャータースクールに置き換えることを提案していた。チャータースクールは予算の全額を公費によって賄う一方で、その運営は教員、親、地域団体などに移管し、行政当局と生徒の学力などに関する契約を結んで行われるものである。公教育に関する法規制の適用を受けないために、教員免許を持たない者でも教壇に立つことができるほか、独自の方針によって教育を行うことができる。成果が挙がっていない場合には運営が取り消されたり、民間教育機関に委託をして事業が失敗した場合の負債は設置者が負う可能性がある。つまりは、公立学校の運営に市場競争原理を導入するものと考えて良い。チャータースクールの信奉者が少なくない一方で、教育の機会均等が損なわれたり、人種や所得階層によって分離される、学力向上の効果がみられないという批判の声も大きい。また、公立学校が廃校にされてチャータースクルーになることで、組合員の教員が非組合員に置き換えられることも懸念材料だった。

このため、民主党出身の市長を共和党側が支持するというねじれがみられたり、労組を支持する映画俳優(マット・デイモン)の活動が報道されるなど、全米中の注目を浴びていた。

成果主義導入は見送り、「廃校」は実施方向

ストライキは7日間続いたあと終結し、労組側、市長側の双方が妥協するかたちで、10月3日に組合員による投票を経て4日に新しい労働協約が結ばれた。

その内容は、統一テストと教員の評価は実施するものの業績連動給の導入はみおくる一方で、学校長の権限強化と年間総授業日数と1日あたりの授業時間の増加は実施されるというものだった。また、大きな争点のはずであった低ランク校の廃校については実施する方向で市側が新しい提案を行なうこととなった。

2010年11月の中間選挙で共和党が中央と地方の両方で大きな躍進をとげて以降、共和党首長による州公務員労組に対するバッシングが全米各州で続いている。しかし、今回は民主党出身の市長が市場競争原理を公教育の現場に導入することにより、直接的ではないにしろ労働組合の弱体化をもたらす可能性の高い政策を実施しようとしたところに特徴がある。

今回のストライキを通じて、労組は教員の賃金に成果主義を導入することを防ぐことはできたものの、公教育への市場競争原理の導入は受け入れてしまったとも言えるかもしれない。しかしながら、公立学校を廃してチャータースクールにするということへ疑問を感じている人が少なくないという状況を明らかにしたという点では効果があったといえよう。

参考

  • Bologna,Michael”Chicago Teachers Ratify Three-Year Contract Following September's Bitter Seven-Day Strike”, Daily Labor Report, Oct.4
  • “Chicago Public Teachers End Strike Prepare to Vote on School District Proposal” Daily Labor Report, Oct.1
  • Bologna,Michael”Chicago's Request for Injunction to Force
  • Teachers to Return to Schools Is Denied, Daily Labor Report, Sep.17
  • Bologna,Michael”Striking Chicago Teachers, School District Reach Framework for New Agreement , Daily Labor Report, Sep.14

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