若者就業支援策、規模の面で不十分
―議会特別委の報告書、改善を要請

カテゴリー:若年者雇用

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  • 国別労働トピック:2012年10月

議会の雇用年金特別委員会は、若者の雇用促進策として政府が2012年4月に導入した「ユース・コントラクト」について検証する報告書を公表した。報告書は、政策自体の意図は評価しつつも、政府の掲げる過大な目標の達成は困難と予想、若年失業問題への対応策としては規模の面から不十分であるとして、改善を要請している。

対象範囲の拡大やニーズに合わせた支援など要請

ユース・コントラクトは、若年失業者や無業者に就業機会や訓練を提供することを目的に、2012年から3年間で9億8000万ポンドを投じる政策パッケージで、既存の就業支援策の拡充を含む複数の施策からなる(注1)。報告書は、主要なスキームに関する検証結果を次のようにまとめている。

まず、16-17歳のニート(教育訓練も受けておらず、求職もしていない層)に対して一人当たり2200ポンドを上限に教育訓練を提供するスキームについては、支援の手が及びにくい層を対象しているとして実施を歓迎している(注2)。ただし、良好な教育機会を持たない層に限定した現在の対象を、それから外れる多くの層にも拡大するよう求めているほか、支援額についても本来必要な集中的支援に十分かどうか明らかではないと指摘している。

次に、ワーク・プログラム参加者(若年層の場合、失業期間が9カ月以上)を6カ月以上雇用する雇用主に2275ポンドの雇用助成を行なうスキームについては、実際の雇用創出効果は限定的と見られるにもかかわらず目標とする雇用創出数が16万人と過大であること、若年層の失業が特に悪化している地域や障害者等の雇用を促進するには助成額が小さいこと、失業率の高い黒人やマイノリティ・グループについてはさらに特化した支援策が必要と考えられることなどを指摘している。対象をワーク・プログラム参加者に限定することについては、対象者へのアプローチが容易であるという利点を認めつつも、同プログラムの受託事業者を通じた提供が、ジョブセンター・プラスを通じて実施する場合に比して費用対効果の面で優れているかを監視する必要があるとしている。

また、ジョブセンター・プラスによる就業体験プログラムの拡充についても、25万人の追加的支援という目標は現実的ではないと指摘、量的な拡大ばかりでなく質の向上にも注力すべきであるとしている。併せて、既に就業経験のある若者の参加は非生産的であるとして、最も有効とみられる就業経験のない層に対象を絞って実施するよう努力を求めている。

報告書はさらに、関連する政策領域として教育訓練から職業への移行の問題に言及している。イギリスでは2015年に、義務教育年齢(職業訓練を含む)を18歳に引き上げる予定だが、政府の諮問による専門家レビュー(注3)は、教育訓練コースの質の問題から、若者が良質な教育訓練も雇用も見つけられないまま受講と失業とを繰り返していると指摘している。委員会報告書は、18歳までの教育訓練の受講を義務化する場合、質的向上の取り組みが不可欠であるとしている。また、教育訓練に関するサービスに複数の省庁や多くの官民の組織が関与していることで、費用増やユーザ側の混乱を招いているとして、これを整理するとともに専用のヘルプライン(電話窓口)の開設を提言している。

社会保険料を免除する「ミニ・ジョブ」導入の議論も

このところの雇用状況は若干の改善傾向を見せているものの、若年失業率は依然として高い状況にある。このため政府は、ユース・コントラクト以外にも若年失業者の就業促進策の可能性を検討しているところだ。例えば今年中には、若年層向けの就業体験プログラムの強化策がロンドンでパイロット実施される。6カ月以上の有給の仕事での就業経験を持たない求職者手当受給者に対して、週30時間×13週の無給の就業体験への参加を義務付け、参加しない場合は給付を停止する。

また若年失業者に限定された施策ではないが、現地報道によれば、政府内部では現在、ドイツで実施されている「ミニ・ジョブ」を導入する案も検討されているという。同制度は、月400ユーロまでの賃金の仕事に従事する場合、労働者の社会保険料を免除、雇用主の社会保険料率も一定にして就業促進をはかるもの。また月額400ユーロを超えて800ユーロ(「ミディジョブ」と呼ばれる)までは、社会保険料負担が段階的に引き上げられ、800ユーロ以上は通常の料率が適用される(注4)。ドイツでは、2003年の導入から4年間でおよそ100万人の雇用増につながったという。与党保守党の一部のグループが、財政負担のない規制緩和を通じた景気浮揚や若年失業対策として以前からこの制度を支持していたもので、財務相も検討する意向を示しているという。

ただし、ビジネス・イノベーション・技能省は制度の導入に消極的とみられている。ドイツに比してイギリスの課税下限額は高く、これをさらに上回って優遇しにくいことが主な理由だ。また、制度の影響をめぐり批判的な意見もある。例えば、ドイツでは包括的な最低賃金制度がないため、ミニ・ジョブによる時間当たり賃金額が非常に低くなりがちで、結果として清掃やホテル・レストランといった分野で新たなワーキング・プア層を生み出しているという。また、ミニ・ジョブは試用期間として有用との議論もあるが、実際には安定雇用への移行はほとんど見られないこと、むしろ従来のフルタイムの仕事がミニ・ジョブに分割され、フルタイムの雇用機会の減少につながっていることなどが指摘されている。労働組合Uniteのマクラスキー書記長は、同制度が新たな底辺層を生み出し、一層の社会の分断を招きかねないとしている。

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