外国人留学生、審査基準緩和の通達
―経済危機で厳格化に激しい批判

カテゴリー:外国人労働者

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2012年1月

政府は1月12日、外国人留学生の審査基準を緩和するとした通達を出した。昨年5月出された外国人留学生の身分変更審査を厳格にする旨の通達により、高学歴の学生ですら、就労が認められないケースが続出し、批判が出ていた。今回の通達で昨年5月以前の状態に戻ることになる。

昨年5月に留学生の審査を厳格化

ゲアン内相(移民相も兼任)は昨年5月31日、外国人の労働許可に慎重を期す旨の通達を出した。これは一般にゲアン通達Circulaire Guéantと呼ばれる。この通達は、「歴史的に見ても稀にみる厳しい経済危機」の状況下で、「既存の求職者(失業者)の就職が、最優先課題」とし、新たな移民労働者を抑制することを求めたもの。具体的には、労働許可申請に対して、極めて高度な能力を必要としない職種の場合は、とりわけ厳格に審査をすることを求めた。また、学生から、労働者への身分変更に関しても、慎重に審査をするように義務付けている。

2006年以降、修士号(フランスでは、通常、学士号取得に3年、修士号取得に2年を要す)及びそれに相当する学位(例えば、エリートを輩出する高等専門教育機関のグランド・ゼコールの修了証。これも、高校卒業後、通常、5年を要す)以上を取得した留学生に対して、学位取得日から6カ月間、就職活動のための滞在及び就労が認められていた。また、就職先が最低賃金(SMIC)の1.5倍以上に相当する給与を支払い、かつ職種が学校での専攻内容と関連している場合には、賃金労働者としての滞在許可証の交付を受けることができた。

しかしながら、ゲアン通達は、この制度の適用を、極めて限定的にすることを求めた。具体的には、この制度の適用は、出身国へ帰国を予定していることが前提で、出身国にとって有益な職であるかを確認するように指示している。これは、少なくとも建前では、発展途上国の優秀な学生は、いずれ帰国し、出身国の発展に寄与すべきであるという考えに基づくものだ。さらに、ゲアン通達では、フランスに合法的に滞在している者(学生としての滞在許可証などを所持する者)であっても、労働許可への審査の簡略化を禁止するとした。

ゲアン通達による影響

この通達により、フランスを代表する大企業から採用が決定している高学歴留学生でも、労働許可が下りない事態が続出した。その数は、少なくとも数百人に上ると考えられている。そこで、ゲアン通達の撤回を求めて、昨年10月13日、ソルボンヌ(パリ大学)の前で、およそ500人の留学生が、また、11月12日にも、数百人の留学生が、労働省近くで、抗議活動を行った。この高学歴留学生をフランスの労働市場から締め出す措置に対して、教育機関(大学やグランド・ゼコール)、企業、与野党などからも、「フランスの国益損失」、「経済的な打撃」との批判の声が上がった。特に、今年4月の大統領選及び6月の国民議会議員選挙を控えて、「ゲアン通達は、文化・政治・経済的な誤り」(社会党国民議会下院議員ミシェル・デト氏)などと、野党から激しい批判が上がり、選挙戦の争点の1つにもなりかねない様相を呈していた。

新通達の内容

そこで政府は、今年1月12日、新たな通達を決定する。ゲアン通達は、ゲアン内相とベルトラン労働省の連署であったが、今回の通達では、その2人に、ヴォキエ高等教育・研究相が加わった。新通達は、国の魅力や国内企業の競争力を高めることを目指して、国内の高等教育機関で修士号及びそれに相当する学位以上を取得した者に対して、特別な方法で、労働許可の申請を審査することを求めるとした。

具体的には、修士号(及びそれに相当する学位)以上を取得した留学生に対して、学位取得日から6カ月間、就職活動のため滞在及び就労を認めるとともに、学位取得前でも、企業が採用を決定した時点以降、就労できるように変更した。また、労働許可を求める際に、学位と職種の適合分野などを明らかにした証明書(高等教育機関の代表と採用企業によって作成)を提出することが可能となった。これは、雇用労働者としての滞在許可証の交付審査を円滑に行う目的である。また、その他の身分変更願いに関しても、フランスにおける高等教育制度の魅力を損なわないように(すなわち優秀な学生を世界中から集めることができるように)、また、国内企業の極めて高度な専門的能力のニーズに対応できるように(すなわちフランス企業の国際競争力を失わないように)、適切に審査することを求めている。特に、外国との取引を行う際の人材が必要な場合、新たな市場の獲得のために、ある国の実態や言語、文化などに精通している者を採用する場合(例えば、経済発展の進む中国に進出したい企業が、中国人留学生を採用する場合)、学業を支援した企業がその学生の雇用を望む場合(例えば、企業が留学生に奨学金を給付し、学業修了後、その留学生を採用したい場合)、出身国の大学と国内大学の協定に基づいて留学していた場合などは、それを評価しなくてはならない。すなわち上記のような場合、雇用労働者としての滞在許可証の交付の事由になり得るとしている。さらに、昨年6月1以降に提出された書類を、この条件に照らして、優先的に再審査することも求めた。また審査中は、国外退去処分を下すことも禁止している。

このように、新たな通達によって、修士号以上の学位取得者は優遇されることとなった。つまり昨年5月31日のゲアン通達以前の状態に戻ったとも言える。ただしヴォキエ高等教育・研究相は、「フランス国内での就職先が決まった留学生全てに対して、賃金労働者としての滞在を許可するわけではない」と指摘した。同相は、「数学を専攻していた留学生が、マクドナルドの店員として採用される場合は、賃金労働者としての滞在許可証は交付されない」ことを例に挙げ、高等教育機関での専攻と就職先での業務内容が関連することが滞在許可証交付の条件であることを強調している。

出所

  • 海外委託調査員

関連情報