「専門人材の確保」で政労使が会合、共同宣言を発表

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2011年8月

政府、労働組合、使用者団体の代表は6月22日、国内の経済成長や雇用展望を話し合うための三者会合「労働の未来(Arbeit der Zukunft)」を開催した。会合では景気回復や少子高齢化の影響で不足が懸念されている「専門人材の確保」を中心に話し合いが行われ、政労使が積極的にこの問題に取り組むことで一致。会合後、三者の合意内容は「共同宣言」という形で発表された。

共同宣言の概要

今回発表された「ドイツにおける熟練労働者の基盤確保のための政労使共同宣言」では、経済成長や技術革新による国際競争力を維持するには専門人材の確保が欠かせず、すでに不足している保健衛生、社会福祉、MINT(数学、情報科学、自然科学、工業技術)分野で外国人専門人材を積極的に受け入れることが重要だとしている。

ただ、受け入れに当たっては、分野別・地域別の需要分析を詳細に行った上で、まず国内の潜在労働力(例:女性、中高年労働者、障がい者、移民の背景を持つ者、不利な立場にある若者、学校未修了者、低資格者、長期失業者)を最大限に活用する総合的な戦略を策定する必要があるとし、次の6項目に及ぶ具体的戦略を提示している。

(1)女性の労働参加の拡大に向けた取り組み

女性の労働市場参入を拡大するために、性別による賃金・機会格差の課題に取り組む。また女性(ひとり親の場合も含む)の就業率、特にフルタイムでの就業率を高めるために「家庭」を意識した労働時間制度の構築や労働条件の改善を行い、「時間主権性(注1)」の促進、企業におけるファミリーフレンドリー策の促進、需要に応じた保育支援の拡充などを行う。

(2)中高年労働者が持つ資格・技能の活用に関する取り組み

中高年労働者がより長期かつ健康に働けるような取り組みを強化する。具体的には、企業と労働者に対する関連アドバイスの提供、病気を抱える人の労働市場への再統合を促進するための給付支援、各年齢層における継続教育や少子高齢化に即した労働体制の拡充、徐々に退職へと移行するためのパートタイム就労モデルの構築などを行う。

(3)教育・訓練制度の改善に向けた取り組み

教育制度全体(保育園から大学まで)の改善、高水準の職業訓練、労働市場の需要に応じた技能資格・認定制度への改善、不利な立場にある若年者や障がいがある若年者の職業訓練機会の提供を積極的に行う。さらに生涯学習による高度な資格取得を支援し、社会人の大学進学を促進し、大学における研究と職場における実務の相互乗り入れが可能な制度を構築する。

(4)失業者の就労支援に関する取り組み

失業者の潜在能力をこれまで以上に活用することで失業を減らし、職業紹介や労働市場政策によって、資格別・地域別の労働力需要に応じた迅速かつ包括的な就労支援を実施する。このほか労働者個々の要望と労働市場の需要を適合させるための効果的な継続教育、再教育、さらに職種転換の促進についても重点的に取り組む。

(5)障がい者の就労支援に関する取り組み

障がい者の就労を促進し、労働市場における障がい者の潜在能力を開拓する。そのために障がい者の企業現場における職業訓練や職場導入を強力に支援する。

(6) 移民の背景を持つ者、若年者、留学生の支援に関する取り組み

すでにドイツ国内で居住している移民の背景を持つ者の潜在的能力を最大限に活用する。若年者に対しても教育制度全体を通じて有効な支援をしていく。また、外国で取得した教育修了資格や職業資格の認定については、効率的で透明性の高い手続きを確保するために必要な制度の改善を行う。同時に外国人専門人材移住に関する既存の障害を撤廃し、積極的な受け入れ環境の醸成、移住関連の法的条件の改善、需給の適合化などに取り組む。また、外国人専門人材の労働条件・報酬が同レベルの国内労働者と同一の条件で就労できるよう政府、使用者、労働組合は積極的に取り組む。また、技能を有する外国人専門人材を獲得するだけでなく、ドイツの大学を卒業した留学生に対してもドイツで長期就労できるよう法的枠組みを改善し、彼らに対して将来的な展望を提供する。

上記6項目の取り組みによる専門人材の確保に向けて、政労使の三者は今後、労使協定や関連法制の整備などの面で協力し合いながら、今後も具体的な取り組みに向けた対話を継続していくことを共同で宣言した。

会合後の三者のコメント

政労使の各代表は会合後に記者会見を行い、今回の合意に概ね満足とのコメントを発表した。
 メルケル首相は冒頭、会合の成果を強調しながら「専門人材の確保には、将来に向けたより良い教育、生活、資格・技能、高齢者の継続雇用など、政府を含む関係者が取り組まなければならない内容は多岐にわたる。また、少子高齢化の進展によって専門技能を持つ外国人労働者の受け入れは不可欠であり、彼らにとって魅力的な移住先国となる必要がある。指摘されているように、ドイツは過去において移民の積極的な受け入れ国ではなかったが、今後はそうする必要がある」と述べた。フント使用者連盟(BDA)会長は現行のEU域外の外国人の継続滞在要件(年間所得6万6000ユーロ以上)が高すぎる点をまず強調した上で、「今後は国内・国外という区別はせずに、双方の専門人材を活用できるようにすることが必要」との認識を示した。また、ゾンマー労働総同盟(DGB)会長は、まずは国内潜在能力活用のために積極的労働市場政策に一層取り組むよう求めた上で、「専門人材の確保に当たっては、EU域内の政治・経済・労働組合の人々に配慮しつつ他のEU諸国の動向、特に若年失業率の高い国に目を配る必要がある」と発言した。

参考情報

  • Gemeinsame Erklärung zur Sicherung der Fachkräftebasis in Deutschland(22.06.2011), Bundesregierung (Pressemitteilung, 22.06.2011)

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=112.64円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2011年7月26日現在)

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