EU域外の外国人医師・技術者に対する「優先権審査」を免除

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2011年8月

政府は6月22日、「専門人材の確保に向けた戦略案(Konzept zur Fachkräftesicherung)」を閣議決定した。その中で、EU域外の外国人の医師と技術者(機械・自動車・電子工学分野)に対し、国内労働者を優先就労させるための「優先権審査」を除外することを決めている。

受け入れ手続きを迅速化

労働市場テストに相当する「優先権審査(Vorrangprüfung)」は、連邦雇用エージェンシー所管の中央外国・専門職業仲介局(ZAV)が当該職業ポストに適した国内労働力の有無を確認し、該当する求職者がいない場合にのみ外国人の就労を認めるもので、国内求職者の就労優先と保護を目的とした審査である。これまではEU域外の外国人医師や技術者に対して就労を認める前に、ZAVが「優先権審査」を行う必要があった。残る審査は、当該外国人の労働条件(特に給与額)が、同等の専門技能を持つ国内労働者の労働条件と同一かどうかという点だ。連邦雇用エージェンシー(BA)は今回の決定を受けて、今後は48時間以内に対象外国人の就労可否を判断することを目標に設定した。BAは、優先権審査の免除による承認の迅速化で、深刻な医師と技術者不足が短期間で解消できるのではないかと期待している。

急速な少子高齢化と専門人材不足への懸念

ドイツでは現在、「医師」と「技術者(機械・自動車・電子工学)」の不足が深刻である。政府は急速な少子高齢化がこのような事態に拍車をかけるとの懸念を強めており、このままいくと2025年までに約650万人の労働力が不足すると予測している。

政府は少子高齢化に伴う専門人材確保のために大きく二つの柱を立てている。一つは女性や失業者など国内の潜在的労働力の最大活用、二つめは高度な専門技能を持つ外国人の積極受け入れである。
 二つめの長期的視野に立った外国人の専門人材の確保に向けて、今回の閣議では優先権免除のほか、ドイツの大学を卒業した留学生の就業規制の緩和や外国人の滞在要件の緩和なども決定された。滞在要件の緩和は、継続滞在権(期間の定めがない定住許可)取得の要件である年間最低所得(6万6000ユーロ)が高すぎるとの批判が経済界を中心に出されており、政府は約4万ユーロへの引き下げを検討している。

労社相は外国人専門人材の獲得に強い意欲

フォン・デア・ライエン連邦労働社会相は、「専門人材の確保は国内、EU、世界的な労働市場で行われている。もしドイツが今後も欧州トップの経済大国としての地位を守りたいのであれば、このいずれの市場からもトップの専門人材を集めることが必要である。これによって、より低技能の労働者にも多くの雇用が生まれる」と述べ、高度専門人材の積極受け入れに強い意欲を示した。ただ、高度な技能を有する外国人の定住許可要件である「年収6万6000ユーロ以上」を引き下げる案については、「国際基準に従って給与に関する何らかの基準額は必要で、特に他の欧州諸国がどのような申し出をしているかを詳しく調査するなど、家族がいる外国人がドイツで十分に暮らせるか等、様々な要因を検討する必要がある」との慎重な姿勢をみせた。

専門人材の確保に向けて政労使が共同宣言を発表

閣議決定が行われた22日には、政労使トップによる三者会談も開催された。その内容はドイツの長期的成長と雇用展望をテーマに、今後数十年以上に亘る安定的な「専門人材の確保」に焦点を当てた話し合いであり、その結果「ドイツにおける熟練労働者の基盤確保のための政労使共同宣言」という形で発表された。この中で政労使が専門人材の確保に向けてそれぞれの分野で責任を持ち、国内の潜在的労働力の技能育成や活用を最大限に重視しつつ、専門技能を持つ外国人労働者の獲得を強化していくことで合意した。

参考情報

  • Bundesagentur fur Arbeit (Pressemitteilung,19.07. 2011, 22.06.2011), Bundesregierung (Pressemitteilung, 22.06.2011)

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  • 1ユーロ(EUR)=112.64円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2011年7月26日現在)

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