移民制度再構築の青写真発表
―大統領府

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2011年6月

5月10日、オバマ大統領は移民法改革に関し、「賃金低下を招くことにつながる低賃金労働者を利用するような地下経済はいらない」とのスピーチをテキサス州エルパソで行った。同日、大統領行政府ホワイトハウス事務局は「21世紀移民制度構築のための青写真(a Blueprint for Builiding a 21st Century Immigration System)」を発表した。

不法移民の合法化登録へ道筋

この焦点は4つある。1つめは国境警備に関する連邦政府の責任を高めること。2つめが不法移民労働者を違法に活用する事業主の責任を追求すること。3つめが移民法制度を改善することで経済競争力を強化すること。そして最後が不法移民労働者に合法的な移民として登録する道を開くことである。

その背景には、移民労働者の賃金が相場よりも不当に低いために米国生まれの労働者の労働条件を引き下げているとともに、これらの労働者を活用する違法な事業主が法令を遵守する事業主の利益を損ねているとの指摘がある。

また同時にこの方針は3段階の意味を持つと考えて良い。第1に国境警備を強化することで新たな不法移民の流入を防ぐこと。第2に、すでに不法移民労働者として米国企業に雇用されている労働者に合法的な移民労働者としての道を開くこと。第3に、低賃金労働を移民労働者特有のものではなく米国の問題として捉えて状況の改善にあたるということである。

これに対して、共和党は国境警備の状況を改善して新たな不法移民労働者の国内流入を食い止めることに懐疑的である。一方、民主党、労働組合、人権問題活動グループ、アメリカ商業会議所は大統領の打ち出した施策を好意的に受け止めている。

AFL-CIO、ワーカーセンターと連携

このような政府の方針に対し、労働組合のナショナルセンターAFL-CIO(アメリカ労働総同盟産別会議)は、オバマ大統領が移民法改革に関するスピーチを行ったのと同じ5月10日、新たな連携を発表した。それは、全国労働関係法(NLRA)の下では労働組合とされないものの、実質的には労働組合と変わらない組織である全国家庭内労働者連盟(National Domestic Workers Alliance)と全国出稼ぎ労働者連盟(National Guest Workers Alliance)との提携契約である。

NLRAは労働組合の成立要件として、従業員の要求に基づいて使用者が自主的に認める場合(カードチェック)と、従業員の過半数の賛成がある場合の2通りしか認めていない。そのため、小規模事業主に雇用される労働者や頻繁に転職を繰り返す労働者、請負労働者、雇用主と職場が異なる派遣労働者などは、NLRAの下では労働組合を結成する権利がないか、もしくはその可能性がほとんどない。しかし、だからといって、これらの労働者を保護する組織が存在していないわけではない。

これら労働者の受け皿となる組織はワーカーセンターと呼ばれ、NLRAではなく内国歳入法典第501条C項3号に基づく免税非営利法人(NPO)として活動している。501条C項3号の法人は宗教、教育、慈善、科学、文学、公衆安全用の試験、子供や動物虐待防止を目的とする。一方、労働組合は501条C項5号に分類される。ワーカーセンターはNLRAが改正されない限り労働組合になることはできない。そうであっても、NPOとして労働組合と実質的に変わらない活動を行なっている。その内容は、会員に対する法的扶助、権利擁護、労働教育などから場合によっては使用者との労働条件交渉や会員に対する職業訓練の実施などにおよぶ。

ワーカーセンターと労働組合は組織化対象とする労働者や活動内容に重複するところがあることから、利害が対立することがあった。しかし、AFL-CIOは法的には労働組合ではないこれらの組織と連携して活動を行うこととしたのである。その方針が最初にだされたのは2006年である。このときは、全国日雇い労働者ネットワーク(the National Day Layborer Organizing Network)と提携契約を結んだ。

移民報改革、提携の方向への支えに

ワーカーセンターは労働組合が組織することが難しいか、法的にできない労働者を主として組織している。家政婦、日雇い労働者、請負労働者、派遣労働者など形態はさまざまであるが、低賃金という状況は共通している。また、これらの労働者は不法滞在の移民であることが多い。したがって、未払賃金や最低賃金以下の賃金しか支払われていないとしても問題を公にすることを躊躇する傾向にある。この結果、彼らの低い労働条件が米国生まれの労働者に波及している可能性が否めない。

したがって、大統領が今回発表した移民法改革は、ワーカーセンターの活動を正当化するだけでなく、米国生まれの労働者の労働条件を改善するものにつながる。つまりは、AFL-CIOとワーカーセンターとの提携の方向を支えるものになると言えよう。

高度外国人材相当の能力育成に向け、国内労働者に職業訓練給付

不法移民労働者を合法化するとともに、高度な知識と技能を身につけた外国人が国内に留まる道を広げるとする移民法改革の一方で、国内労働者に対して高度外国人材相当の能力を育成する教育訓練を助成する動きも始まった。

大統領は、5月10日のスピーチの中で米国内の大学で教育をうける外国人についても言及し、高度な知識と技能を身につけた外国人が国内に留まる道を広げるべきだとした。このような外国人が国内に留まれば起業家として雇用を新たに創出する可能性がある一方で、本国に帰国すれば米国企業を脅かすライバルになる可能性がある。

米国労働省はH1Bビザ相当の技術スキルを訓練するプログラムに対して2億4000万ドルの競争的助成金を支給すると公表した。

これは学士以上の資格を有する科学者、技術者、コンピュータプログラマーといったH1Bビザを保持する外国人と同等の能力を育成することが目的である。労働省によれば、従来の技能を向上させる、もしくは新たな技能を獲得させることで訓練を修了した労働者が高賃金の職に就くことを期待している。一つのプログラムに支給される助成金はおよそ100万ドルから500万ドルの範囲となっている。総額2億4000万ドルの予算のうち、1億5000万ドルは実際の職務を通じた訓練(OJT)を実施するために費やされる。総額のうち4千5百万ドルがヘルスケア産業へ、6000万ドルが長期失業者向けの職業訓練に充てられることが計画されている。また、これらの助成金は民間および公的セクターのパートナーシップ構築のためにも費やされる。

参考資料

  • Obama Says Overhauling Immigration Laws Is an Economic Imperative for the Nation, May 10, Daily Labor Report
  • Dol’s $240 Million Grant Competition Will Fund High-Skill Training for Workers, May 2, Daily Labor Report
  • AFL-CIO Signs Partnership Agreements With Groups for Domestic, Guestworkers, May 10, Daily Labor Report

参考レート

  • 1米ドル(USD)=81.10円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2011年6月2日現在)

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