高度外国人材の国外資格認定を簡素化
―法案を閣議決定

カテゴリー:外国人労働者

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2011年5月

メルケル首相率いる連立内閣は3月23日、国外の専門資格等を有する外国人の資格認定手続きを簡素化する法案を閣議決定した。法案が成立すれば、現在ドイツに在住する約30万人の外国人がその恩恵を受ける見込み。法案は、連邦議会および連邦参議院での審議を経て今年後半に成立すると見られている。

法案の概要

今回閣議決定された職業資格認定改正法案(Anerkennungsgesetz)は、昨年10月に政府が発表した包括的な移民の社会的統合強化案の一環として秋から検討が重ねられてきたもの。外国人労働者、特に認定に時間がかかるEU域外で専門技術を習得した熟練労働者の資格認定を簡素化することで、高度な技術を有する外国人の受け入れを促進するのが目的である。EU域内の労働者は、建築家や医師、看護師など一部の専門的職業の相互承認に関する基準などを定めた「EU専門職業資格相互承認指令(注1)」があり、資格認定は比較的容易になっている。その一方で、EU域外の外国教育・訓練機関で資格を得た者は公式に認定されるまで、試験・実習・面接など一連の過程を経なければならず、場合によって数年かかるケースもあった。こうした事態を改善するため、改正法案では申請から認定まで全ての手続きを3カ月以内とすることを定めている。
 法案では、約500の職種が認定対象となる予定だが、その中には、職業訓練法(BBiG)に基づく約350の国家公認訓練職種(注2)も含まれている。
 法案が成立すれば連邦政府ではなく、州政府が主に規制している教師や技術職も影響を受けることになり、資格認定に向けた関連州法の整備が検討されている。

約30万人の有資格外国人に恩恵

政府は、法案が成立した場合、国外資格の認定を受けることができずにいるドイツ在住の約30万人の外国人(注3)が恩恵を受けると推定している。30万人のうち、約25万人が職業訓練修了レベル、約2万3000人がマイスターもしくは熟練工レベル、約1万6000人が大卒などの高等教育修了レベルとなっている。今後は認定手続きの簡素化によって、ドイツ国外にいる熟練労働者の受け入れ促進につながることも期待されている。

好景気で不足する熟練労働者

ドイツは欧州の中でも低い失業率が続き、好調な景気回復の中で深刻な熟練労働者不足に陥っている。ドイツ商工会議所(DIHK)は、現在約40万人の熟練労働者―特にエンジニアや機械工など―が不足しており、その影響ですでに約1%の経済成長率が喪失、継続すれば今後さらなる経済への悪影響があると主張している。DIHKの試算によると、好景気のほか、少子高齢化が急速に進展する中で、今後15年間に約500万人の労働力が不足する。そのため熟練した技能を持つ外国人労働者が必要だとしている。でなければ何百万人分もの税収入や投資が減り、ドイツの年金・医療制度にも大きな支障が生じると予測する。
 また、ドイツ医師労働組合(Marburger Bund)によると、医師不足も深刻で、ドイツ全土の病院で約1万2000人、一般開業医は約3000人不足していると言う。

法案適用に懸念の声、職種限定案も

一方、最大野党の社会民主党(SPD)からは、国外の資格が非常に多種多様なため、実施段階で混乱が生じるのではないかと懸念する声が上がっている。法案成立後の実際の適用に当たっては、国外資格を持つ外国人が、資格認定の有無について問い合わせや申請をする専用の中央窓口が設けられる予定である。認定担当者は、世界中の職業資格や認定基準に関するデータベースを用いて各人の資格認定の有無を3カ月以内に判断する。また、その際に資格そのものがドイツ国内で通用するのか、それとも若干の職業訓練を受講した上で認められるのかを各人に告げる。
 ドイツ使用者連盟(BDA)のフント会長は、国外資格認定の簡素化を歓迎しながらも「国内労働者のより良い就労機会を確保するため、外国人労働者に対する国内労働市場の開放に当たっては職種などを絞る必要があるのではないか」と、若干の懸念を示した。
 フォン・デア・ライエン労働社会相は、不測の混乱を避けるため、外国人労働者を必要とする専門職種を予め限定してリスト化する「ポジティブリスト」を別途設けることを提案しており、主に電気、機械、自動車分野の熟練労働者や医師、看護師等を想定職種としている。
 このように、国外資格認定の簡素化法案には様々な懸念の声が挙がっているため、そのまま現在の政府案が成立するかどうかは不透明な状況である。

参考

  • Bundesministerium für Bildung und Forschung (Pressemitteilung 037/2011)、The Associated Press(Wednesday, March 23, 2011)、Deutsche Welle(23.03.2011、17.11.2010)

関連情報