給付制度統合と給付条件引き締めで就労促進
―福祉改革法案

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2011年3月

政府は2月、「福祉改革法案」を議会に提出した。現行の複数の給付制度を統合し、受給者にとって就労が利益となることを目指す新制度「ユニバーサル・クレジット」の導入を柱に、給付支出の抑制につながる各種の制度改正や、取り締まり体制の強化などが盛り込まれている。

低所得者向けの給付制度(注1)を統合した新制度「ユニバーサル・クレジット」は、2013年からの導入が予定されている。政府によれば、現行の諸制度は受給者が就労に移行する際の障壁となってきた。各種給付が異なる基準で支給されること、一定時間以上就労する場合には異なる給付制度への再申請が必要となること、また就労による収入の増加に対して給付の減額率が高いことなどがその理由だ。このため新たな制度は、就労の拡大が常に所得の増加につながるよう、単一の基準の下で必要に基づく各種の給付を行うことが大きな目的として掲げられている。(海外労働情報2010年11月・12月記事参照)

一方、障害者に対して追加的な生活費用の補助を行う障害生活手当(注2)については、より支給対象を限定した個人自立手当(Personal Independence Payment)に置き換えられる。受給者の急速な増加と支出額の増大への懸念から、制度改正が議論されていたもので、対象範囲や基準、支給額については今後検討される予定だ。

このほか、昨年中(6月の予算案および10月の歳出計画)に示された改革案に基づき、不正受給や誤給の防止のための取り締まり体制の強化や、受給要件として義務付けられた支援プログラム等への参加を怠った(例えばジョブセンター・プラスから紹介された仕事を断った)場合に最長3年間の支給停止とするなどの罰則強化が盛り込まれている。さらに、世帯あたりの支給額に週500ポンド(注3)の上限を設けるほか、雇用・生活補助手当の受給者のうち就労に移行しやすい層(後述)に対する手当の支給期間を1年に限定する予定だ(注4)。

政府の推計によれば、「ユニバーサル・クレジット」の導入により270万世帯の所得が改善、うち100万世帯以上(85%が最貧層)で週25ポンドの所得の増加が見込まれ、貧困世帯の児童35万人を含む100万人近くが貧困から脱することができる。一方、新制度への移行により損失を被るとみられる170万世帯については、移行前の所得額を下回らないよう補足的な手当が支給される。新制度は現行制度に比べて年間26億ポンドの費用の増加となるが、4年後には給付制度全体で55億ポンドの節約につながると政府は述べている。

一連の制度改革案に対して、シンクタンクや労働組合、障害者支援団体などからは、経済も雇用も依然として低迷が続く中でこうした給付削減や条件の厳格化を行えば、貧困問題の一層の深刻化を招きかねないといった批判が強い。

就労困難者向け給付制度の受給者を削減

また、これらの制度改革と並行して、政府は旧来の就労困難者向け給付制度(就労不能給付、重度障害者給付、所得補助)の受給者を雇用・生活補助手当に移行させる作業を通じた受給者数の削減を推し進めている。雇用・生活補助手当は、障害など健康上の問題自体の有無よりも、就労に必要な能力の有無に焦点を当てた「就労能力評価」に基づき、申請者を(1)就労可能なグループ(手当の受給は認められない)、(2)就労関連活動グループ(健康上の問題が軽度で就労に移行しやすい)、(3)支援グループ(重度の健康上の問題がある)に区分して、受給の可否や条件を判断するもの。2008年の導入以降、現在は新規申請者にのみ適用されているが、旧制度の受給者も再審査の上、改めて受給資格を認められた者については2014年春までに新制度に移行させる。政府は、現在約200万人いる受給者のうち50万人は就労が可能な層とみており、移行作業を通じて受給者を削減する意向だ。2011年4月からの全国的な再審査の実施に先立ち、試験的な再審査が2010年10月から国内2地域で実施され、その結果が2月に公表された。これによれば、旧制度の受給者のうち29.6%が就労が可能、31.3%は就労に向けた活動が可能と判断され、就労困難と認められた者は39%にとどまっている。

なお、新規申請分の審査を通じて受給資格が認められる比率はより小さい。制度導入後これまでの申請のうち、就労困難と判断されたケースは6%、就労に向けた活動が可能と判断されたケースが16%と合わせても2割強で、残りの半数ずつ(いずれも約40%)で、就労可能と判断されるか、審査途中で申請を取り下げるケースがそれぞれを占めている。

ただし、雇用・生活補助手当の審査をめぐっては、本来受給資格を認められるべき申請者が受給を却下されるケースが多発しているとの問題が関係者から指摘されている。雇用年金省によれば、これまでに就労可能と判断された申請者の33%が、審査結果を不服とする申し立てを裁判所に受理されており、うち40%(3万5800件)のケースで審査による判断が覆されて受給が認められている。また、政府の諮問を受けて11月に公表された専門家による答申でも、就労能力評価の現在の運用は、精神的な問題を抱える申請者への対応が不足しており、評価業務を請け負う受託事業者に対する監督を強化すべきといった指摘がなされている。政府は答申内容を受けて、審査に係る条件の緩和に向けて対策を講じる意向だ。また併せて、雇用・生活補助手当の年間新規申請者数のおよそ半数(30万人強)を占める長期疾病による休業の対策のため、既存の産業衛生サービスなどに1200万ポンドの追加予算を投じるとともに、専門家に対して既存制度の改正に関して検討を依頼する。こうした休業者に対しては現在、雇用主と政府の負担により手当が支払われているが、政府によれば、経済への損失は年間1000億ポンドにのぼるという。

参考資料

参考レート

  • 1英ポンド(GBP)=133.29円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2011年3月8日現在)

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