ディーセントワークで持続可能な未来を
―ILOアジア太平洋会議、京都で開催

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2011年12月

ILO(国際労働機関)の第15回アジア太平洋地域会議が12月4日~7日の5日間、京都市で開かれた。日本で同会議が開かれるのは1968年以来43年ぶり。アジア太平洋地域はこの数十年、経済発展を遂げる一方、貧富の差が拡大している。我が国も前の68年会議のような高度経済成長のときと違って、所得の二極化の様相を見せている。野田首相が出席しあいさつするなど日本政府もこの会議には強い関心を示した。会議では、ディーセントワークの機会の創出を通じての持続可能な未来の構築を確認した。

1.2006年会議を振り返って

前回の14回会議(2006年8月釜山)では、「アジアにおけるディーセントワークの10年(2006-2015年)」が設定された。すなわち、(1)仕事を創出し、競争力と生産性のある持続可能な企業の促進、(2)若年雇用の展望改善、(3)労働力移動、(4)労働市場のガバナンス、(5)ディーセントワークのための地域開発の5つの目標が定められた。この計画が発足してから5年が経過している。今回会議では、釜山における公約について、まず、その進展状況が確認された。

2006年8月以降、アジア太平洋地域の加盟国によって68の条約が批准された。しかし、この地域のILO中核的条約の批准状況は他地域と比較すると依然として低い。移民労働者は、労働者の中で最も脆弱な立場であることは変わりないが、それでも彼らの権利に対する意識・行動は以前よりは向上が図られた。社会的保護、児童労働の撲滅、若年者の技能向上に対する投資は増大した。2007年に2つだったディーセントワーク国別プログラム(DWCPs)は、太平洋地域の6つを含め、現在20のプログラムが実施中であり、21のプログラムが活動計画中である。これらのプログラムにおいては、雇用政策、職業訓練制度、社会的パートナーの能力強化、労働安全衛生および児童労働の撲滅などの活動を取り扱っている。

他方、釜山会議以降の5年間に、この地域では多くの大規模な自然災害―洪水、地震、津波、サイクロン、台風―がおき、各地で甚大な被害を被った。災害の予防と対応策において、雇用・社会政策が最も重要な部分であることが、大震災に見舞われた日本において改めて確認された。同地域におけるILOの協力の中でその重要性は高まっている。

2.所得と富の不平等が拡大

アジア太平洋地域は、世界で最もダイナミックな地域である。同地域における多くの国々の急速な経済成長は、そこで暮らす人々の家計収入を増大させ、数億人にのぼる人々を極度の貧困から脱却させた。しかし、急激な成長にもかかわらず、多数のワーキングプアと巨大なインフォーマル経済を減少させるのに十分なディーセントワークが創出できているとは言い難いのが現状。一世代のうちに、アジア太平洋地域は飛躍的な経済進歩を遂げた。同地域は、国際的な市場での競争がもたらす、あらゆる機会と挑戦とともに、一段とグローバル経済に統合されつつある。

世界規模の経済と雇用の危機を経て、同地域は素早く立ち直った。しかし、現在、他地域における新たな金融の混乱が、同地域の経済的・社会的発展を再び脅かしている。危機以前でも、急速な経済成長は、多くの国の経済で不均衡な広がりを見せ、所得と富の不平等は拡大した。何億人もの人々が最下層の貧困から脱出した一方で、同地域は、依然として世界のワーキングプアの73%を占めている。多くの国々が、自然・人的災害に対して脆弱なままだ。社会的保護制度については、最近、進展がみられるものの、大多数の人々に効果的に適用されるまでは至っていない。この地域が極めて多様性に富んだ地域であることを考慮し、相互協力していくことが将来にとって不可欠である。

3.ディーセントワークの創出に向けて

アジア太平洋地域は世界で最も人口が多く、労働力も急速に増大している。必要なことは、ディーセントワーク創出の奨励により、段階的にインフォーマル経済の規模を縮小させることである。地域にある巨大な潜在的生産力を拡大し、貧困を撲滅するために活用しなければならない。

また、ジェンダーの不平等、特に仕事の世界における女性の不均等な処遇は、依然として現代社会の主要な問題となっている。ジェンダー平等によってもたらされる社会的・経済的恩恵を獲得する上で、優先課題として取り組まなければならない。

国内の地方から都市部へ、さらに国境を越えて移動する移民労働者は、同地域の繁栄に寄与しているが、搾取や差別的処遇において最も脆弱な立場に置かれている。同地域には、家事労働に従事する最多数の労働者が存在している。彼らが社会の経済的な機能に果たす役割の重要性にも関わらず、家内労働に従事する移民労働者はとりわけ劣悪な労働条件と人権の侵害にさらされている。

一方、若者の多くが人間らしいな生活に不可欠なディーセントワークを見つけることができないでいる。また他方で、同地域の数千万人もの学校に通うべき児童が労働を強いられている。

域内のいくつかの国々は、人口の高齢化と減少する生産年齢人口の問題に直面している。また、壊れやすい自然環境に対して、経済開発が及ぼす影響についての認識を強めている。気候変動の影響と地球緑化に地域全体で取り組む努力には、ディーセントワークへの機会を増大させる潜在的可能性があると考えられている。ビジネスが、労働者とともに、持続可能な経済および社会環境を活用して事業を展開することができれば、この地域が必要とするディーセントワークの機会が創出されるであろう。

4.社会対話はディーセントワーク実現の重要な手段

アラブ諸国における最近の動きは、社会的排除、ディーセントワークの欠如、基本的権利の否定がもたらす結末を端的に表している。社会正義、尊厳、基本的権利の尊重、経済的排除に終止符を打つことへの広範な要求は、ディーセントワークの実現に向けた取り組みの重要性を強調しているといえる。

国際労働基準は、国と市民が社会的・経済的・政治的に、より一層包摂的になることを支援する上で重要である。社会対話は、紛争を解決するのみならず、持続可能な企業の育成、ディーセントワークの機会の拡大、社会的保護制度の構築、労働者の権利を守る雇用環境の整備を前進させる上で重要な手段となる。

社会的対話と労使協力は、「アジア太平洋におけるディーセントワークの10年」という目標を達成するための合言葉でもある。ILOは、ディーセントワークの実現に向けた戦略的目標に基づき、国情の違いも考慮した具体的かつ実際的措置を通じて、地域横断的にディーセントワーク国別計画の実行を加速させ、さらに中核的労働基準の批准と実施の促進も強化していくとしている。

これらの結論は、2015年までの「アジア太平洋におけるディーセントワークの10年」の更なる展開の指標となる。

5.政策的優先課題

ILOは、2006年の「アジア太平洋におけるディーセントワークの10年」を基礎として、2015年までの期間に向けた以下の政策的優先課題を掲げた。その適用に関しては、国情によって異なることもあり得るが、基本的にこれは同地域の多様な国々が共有すべきものとしている。

(1)経済・雇用および社会政策

ディーセントワークおよび完全雇用が、強靭かつ持続可能で均衡のとれた成長と包摂的な開発に向けた政策の中心に据えられるように働きかける。公平で仕事を豊かに生む戦略を促進するために、ILOのグローバル・ジョブズ・パクトに基づく政策パッケージを設計する。ディーセントワークの機会の増加、所得向上、生活・労働条件の改善の基礎として、経済全体の生産性向上を推進するため、次のような取り組みを行う。

  • ILO基準を基礎とする団体交渉および最低賃金制度の発展の促進
  • 貧困および所得と富における広範な不平等の低減
  • 各国の実情に応じた、効果的な「社会保護の床」の構築
  • 国内のハイレベル討議への政労使参加の促進
  • 関連する国際機関および地域機関への支援

(2)持続可能な雇用、技能開発

地域に必要なディーセントワークの機会を創出するため、持続可能な企業のための環境づくりを改善する。労働および環境基準を維持する、透明性をもち、周知されたビジネスのための環境を促進する。ILOの多国籍企業および社会政策に関する原則の三者宣言の活用を促進し、次のような取り組みを行う。

  • 若年労働者の起業家精神の促進
  • 協同組合を含む良質の公共サービスおよび社会的経済の促進
  • ディーセントワークに合致する農村および農業の発展を支援
  • 男女別に集計された労働市場統計を作成し根拠に基づく政策を策定
  • 雇用サービス組織の強化
  • 必要に応じて雇用集約的な投資を強化
  • 若年層の持続可能な雇用やディーセントワークを享受できる機会の創出
  • 若年層のエンプロイアビリティの強化
  • インフォーマル経済における労働者の主流経済への統合
  • グリーンジョブの促進
  • 労働安全衛生の改善

(3)労働における権利と社会対話

中核的労働基準およびILOのガバナンスに関する条約批准を促進し、履行する努力を強化する。また、紛争の予防および解決のための社会対話の制度および手続きを改善し、必要に応じて構築する。さらに次のような取り組みを行う。

  • 社会対話および団体交渉に係る労使団体の能力を向上させる。
  • 社会対話を十分に活用し、低炭素経済への移行に伴う労働市場の変化を予期し、これに対処する。
  • 労働安全衛生、最低賃金、その他の労働条件を含む法律の履行を確実にするために必要な労働監督を強化。
  • 募集・採用慣行を改善し、移民の権利を保護するために、送出国、受入国間の対話および二国間協定を含む労働移動に関する技術支援および協力を拡大する。また、移民に関するILOの文書ならびに家事労働者条約(第189号、2011年)および付属の家事労働者勧告(第201号、2011年)を促進する。
  • 障害を持つ人々、児童労働に従事する少年少女、人身取引や強制労働の犠牲者、HIV/エイズ感染者、原住民、基本的権利が否定されている職場で働く労働者など、脆弱な労働者のニーズに対処するための取り組みを強化する。

(4)ILO活動の展開

2016年に向けた政策の優先順位を考慮し、作業計画を見直す。完全かつ生産的な雇用と、「すべての人にディーセントワークを」を促進するために、社会的パートナーの全面的な関与のもと、アジア開発銀行やアジア太平洋における国際連合を含む地域・国際機関との協力関係を強化する。

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