派遣労働者の均等待遇、10月から義務化

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2011年11月

EU派遣労働指令をうけた法整備として、10月より派遣労働者規則が施行された(注1)。規則施行後から起算して12週間の就業期間を経た派遣労働者に、直接雇用された場合と同等の基本的な労働条件などを保障する内容。これまで規制の緩やかだった分野での規制強化であることから、影響を巡っては様々な議論がある。

「同等の被用者」との均等待遇を保障

派遣労働者規則の対象は、派遣事業者から派遣先企業に派遣される労働者のほか、仲介業者を介して派遣される労働者を含む。なお、例えば自らの所有する有限会社から派遣される「本来の」請負労働者や、請負契約に基づく労働者は適用が除外される(ただし、就業の実態が考慮される)。また、派遣事業者が派遣労働者を直接雇用する場合は、規則の適用に関する逸脱が認められる(後述)。

就業開始から12週間を経た派遣労働者に均等待遇の権利が認められる基本的な労働条件は、当該の仕事に従事するために直接雇用された場合に保障されるであろう給与水準(注2)や、労働時間、時間外労働、休憩、休息時間、夜間労働、休日、祝日など。一方、整理解雇手当、法定の基準より良い条件で提供されている傷病手当、出産休暇手当、父親休暇手当、養子休暇手当、年次有給休暇、職域年金等は除外される(注3)。このほか、社内食堂や託児所などの設備、輸送サービス等の利用、空きポストに関する情報提供を受ける権利については、初日から認められる。

比較対象となる「同等の被用者」は、同じ事業主の監督の下で働いており、同一もしくは同等の職務(例えば資格・スキルなどで比較)に従事し、基本的には同一事業所内で働く者(居ない場合は他の事業所でも可能)である必要がある。均等待遇に関する権利を確立するためには、派遣労働者側が「同等の被用者」を特定しなければならない。

就業開始からの期間は、一日当たりの労働時間にかかわらず就業日数により算定される。派遣業務間の(もしくは単一の派遣業務内における)空白期間が6週間以上となる場合か、実質的に異なる職務への変更の場合は加算が停止され、就業再開後は再び1週目からの算定となるが、理由によっては加算の中断・再開が認められるほか(注4)、妊娠や出産休暇、父親休暇、養子休暇により就業しない期間は、中断ではなく就業期間に繰り入れられる。

履行確保の手段としては、政府の設置する監督機関(Employment Agency Standard Inspectorate)による検査のほか、派遣労働者自身が雇用審判所に申し立てるといった方法がある。意図的な違反(注5)が認められた場合は、派遣労働者に対して2週間分の賃金を下限とする未払い賃金等の支払いのほか、違反事例(派遣労働者)当たり最高で5000ポンドの罰金が課される。規則は、基本的に派遣事業者が責任を負うこととしているが、派遣事業者が派遣先での均等処遇の状況に関する情報の取得とこれに基づく法令順守の努力を行ったことが認められれば、その限りではない。違反事業者に対しては最長で10年の業務停止が課される可能性がある。

規制強化の影響に関する議論・企業の対応

規則施行の影響を巡る国内の議論は様々だ。イギリス商業会議所(BCC)は、政府の影響評価における年間15億ポンドの負担増(注6)との試算を引いて、景気の先行きが不透明な中で企業に対してこうした負担を強いることに強く反対している。また法律事務所Allen & Overyの調査によれば、企業の三分の一は規制導入に伴い派遣労働者を削減すると回答しており、最大で50万人(国内の派遣労働者140万人の約三分の一強)の派遣労働者が12月半ばまでに仕事を失う可能性がある。同様に、人材コンサルティング業の業界団体であるARCも、6割の企業が年末に向けて派遣労働者の削減を検討しているとの調査結果を報告しているという。

ただし、派遣事業者の連合体であるRECの調査では、むしろ82%の企業が派遣労働者を増員もしくは維持すると回答している。また、大手派遣事業者などからは、規則の影響は懸念するにあたらないとの意見もある。派遣労働者の5割程度は就業期間が12週を超えないこと、多くの派遣労働者が既に正規従業員と同等の待遇を受けていること、さらに「同等の被用者」は当該職務で経験の浅い従業員との比較で足りるほか、給与額が個別の契約毎に交渉される企業では均等待遇の範疇外となると考えられることなどを理由に挙げている(注7)。

一方、一部では均等待遇の回避を目的として、派遣事業者が派遣労働者と期間の定めのない雇用契約を結んで直接雇用する動きもみられる(注8)。この場合、派遣先企業での給与等に関する均等待遇義務は発生しないが、派遣事業者が雇用主として、派遣業務のない期間についても給与(空白期間に先立つ12週間における平均給与の5割で、最低賃金を下回らない額)を支払う義務がある。支払いは最低でも4週間、雇い止めを行わない場合はそれ以降も継続しなければならない。RECは、直接雇用によるこうしたケースについて、政府のガイダンスにも明記された適法な手段であり、派遣労働者もより安定した雇用を得られるとしてこれを評価しつつも、派遣事業者の責任や経費負担の増加による影響を懸念している。

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