ロマの強制送還
―移民暴動の対応をめぐり論争が激化

カテゴリー:外国人労働者

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2010年9月

フランスの中・南東部で起きた移民が関与した事件が暴動へと発展、この対応策に関し議論が起きている。サルコジ大統領が打ち出したのは違法キャンプの撤去や不法滞在者の強制送還、さらには違法者の国籍はく奪など。これら移民の排斥にもつながる対応をめぐって国内外で論争が激化している。

移民の事件、暴動に発展

一つ目は、警察官に射殺された事件の容疑者の居住区で7月16日から18日の3夜にわたり起きた暴動。事件が起きたのは16日、イゼール県ユリア―ジュ・レ・バンのカジノに強盗に入った容疑者のうちの一人が警察官により射殺された。このため容疑者が住んでいたグルノーブルのヴィルヌーヴ地区で警察への反感が高まり、車や公共施設が焼き討ちに合うといった暴動に発展したもの。CRS(フランス共和国保安機動隊)、Raid(フランス国家警察特別介入部隊)、GIPN(フランス国家警察介入部隊)の治安部隊200人が暴動の鎮圧に動員された。

二つ目は、17日から18日にかけてロワール・エ・シェール県サン・テニャン村で起きた暴動。一人の若者が憲兵隊の検問を突破しようとし、2発の銃弾を受けて命を落とした。次の夜、憲兵隊は頭巾で顔を覆った50人ほどの一団に襲われる。車に火が放たれ、店舗のショーウィンドが破壊されるなどし、一部住民と憲兵隊の小競り合いは二晩続いた。事件を起こしたのはキャンピングカーなどに居住する移動生活者だった。この地区にはルーマニアやブルガリア出身のロマ人が多く居住していた。

閣僚会議で対応を協議

時を同じくして発生した2つの事件に関し、サルコジ大統領は7月21日と28日、対応を協議すべく閣僚会議を招集した。閣僚会議後のプレスリリースでサルコジ大統領は、「少数の放浪民のこうした無責任な行動は断じて許されざるべきものであり、二度とこのような事件が起こらないようにするため必要なあらゆる措置をとる」とフランス国内のすべての者には共和国法が適用されることを念押しした上で、断固とした対応をとることを強調した。

東欧からフランスに入国する放浪民の多くは違法キャンプで移動生活をしており、密売、売春、犯罪や児童搾取の温床にもなっていると言われる。大統領はこうした違法キャンプを3カ月以内に撤去するよう指示、合わせて撤去措置の効果をあげるため法改正を開始することを明らかにした。また加えて、フランスに不法滞在する東欧移民の国外退去も要求、強制退去を可能にする移民法の改正にも言及した。

また30日の演説ではグルノーブルの事件に触れ、「グルノーブルの市民は大きなショックを受けている。治安を速やかに回復しなければならない。警官のとった行動は正当防衛であった。法治国家において警察に対し戦闘用火器を向ける行為は断じて許されない。犯罪者にはいかなる手心も加えることなく全員を捕え告訴する」と強い口調で暴動を起こしたグループを非難した。その上で同県の新しい知事に警察の出身であるエリック・ル・ドゥアロン氏を任命したことを明らかにし、さらに、治安要員の生命を脅かした外国出身者に対しては、フランス国籍をはく奪することを宣言した。

国内外から批判の声が

大統領のこうした発言に対しては国内でも一部に批判の声があがっている。社会党スポークスマンのブノワ・アモン氏は、「治安の悪化は2007年以降警察官を含む治安要員を削減してきたことが招いたもので、自らの失政を棚上げした陳腐な演説」と大統領の演説を批判、外国出身者の国籍はく奪については「とりわけ深刻」と評した。

また、政治学者のローラン・ケイロル氏はサルコジ大統領の言動は選挙戦略の一環と見る。「雇用分野で成果をあげられない分、治安対策と移民政策で有権者の支持を回復することが狙い」と分析。また、「ル・ペンの支持者を取り込む戦略では」との見方もある。

一方、EUはフランスの対応は行き過ぎという姿勢を見せている。9月頭にフランスは加盟主要国に対しロマ問題に対応する移民サミットを提案したが、本来加盟国政府間で解決を図るべきと、EUはこれに難色を示した。さらにイタリアもフランスの決定に追従する動きを見せたため、EUは移民制限の動きが各国に拡がらないかを懸念している。

こうした中、国連の人種差別撤廃委員会は8月27日、フランス政府に対し、「ロマに関する全ての公的政策が協定(いかなる人種主義的差別をも撤廃させる国際協定、フランスを含む177カ国が署名している)の内容に沿う形になるよう配慮し、特に集団的な本国送還は避けるよう」勧告した。同委員会は「フランスにおける差別的な政治的言説」と、「ロマ人に対する人種主義的差別行為」について懸念を示している。この要求への対処については、フランスには1年間の猶予が与えられた。国籍はく奪の可能性については、同委員会は「こうしたことがもとで差別が蔓延するのではないか」と懸念を示しており、フランス政府に「人種差別的行為」を自粛するよう強く求めている。一見フランスの内政に干渉しているようにも見えるが、これらは、ロマ問題がフランスのみの問題としてではなくヨーロッパレベルの問題として捉えられていることを示している。

増える本国送還

フランスでは現時点で、2009年の9,875人に対しすでに8,313人(1月1日以降)のルーマニア及びブルガリア出身のロマ人が本国へ送還された。ベッソン移民相はブルガリア、ルーマニアへの本国送還が増加傾向にあることを認めている。

政府は8月30日、強制送還などを規定する国内治安方針法(Loppsi法)をより厳格化する修正案を発表した。オルトフー内務相は、「法律を厳格化することでロマ人をキャンプから容易に立ち退かせることができるようになる」と述べている。一方ベッソン移民相も、「公的秩序を乱す窃盗や攻撃に対し強制送還状をより容易に交付」でき、「短期滞在の許可を利用して法の抜け道をかいくぐり長期滞在を企てている者に対する処罰」が可能となる移民法の修正を準備していることを明らかにした。9月末より国会で討議される予定。

こうしたやり方についてフランス人の世論はいま二つに割れているようだ。CSA(フランスの世論調査機関)が8月24日から25日にかけて18歳以上の成人1000人に対し行ったアンケート調査によると、48%が本国送還を支持し、42%が反対(無回答10%)であったという。今後の行方が注目される。

参考

  • 政府プレスリリース、Les Echo誌、海外委託調査員

2010年9月 フランスの記事一覧

関連情報