安定雇用への細い架け橋
―IAB派遣労働調査

カテゴリー:非正規雇用

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  • 国別労働トピック:2010年8月

労働市場・職業研究所(IAB)は6月30日、派遣労働に関する調査結果を発表した。それによると、2006年時点で派遣労働をしていた人のうち、それ以前の2年間で合計1年以上失業していた人の割合は25%であったのに対し、以後2年間での割合は17%に減っていた。IABのヨアヒム・メラー所長(Joachim Möller)は「派遣労働は、太くはないが、安定雇用への細い架け橋になっている」と語っている。

労働市場との接点として機能

調査によると、派遣労働に就く前の2年間の状態は、合計で1年以上失業していた人が25%、主に派遣労働者として就業していた人が18%、主に派遣以外で就業していた人()が8%だった。これに対し、以後の2年間の割合はそれぞれ17%、31%、25%となっている(図1)。

図1.2006年に派遣労働者だった人の前後2年間における就業身分の割合

図1

  • 注:主に = 2年間の合計で1年(365日)以上。100%に足りない部分は、3つの主要なカテゴリーに分類できない不連続な職業履歴を持つ派遣労働者の割合である。
  • 資料出所:統合的職業履歴データセット(Integrierte Erwerbsbiografien)

メラー所長によると、派遣労働の雇用契約期間の大半は短期で、およそ半分が3カ月以内という。同氏は「企業は、労働力需要の揺れを吸収するために派遣労働を利用しており、それは正規従業員を保護するためでもある。結局、労働力需給に左右されるリスクを負うのは派遣労働者だ」としつつも、労働市場との接点を確保する観点から、とくに長期失業者に対し、派遣労働に就くよう勧めている。

柔軟性、安定性と社会保障の組み合わせが重要

連邦雇用エージェンシーによると、派遣労働者数は2008年6月には80万人を超えていた。この数は全雇用労働者の2.3%に相当する。しかし、経済危機のため2009年5月までに52万人にまで激減した。2009年上半期を通じて低い水準で推移した後、2009年9月には再び6万人増加し、現在も増加傾向にある。主な派遣先は、製造業49%、建設業10%、サービス業6%、公共サービス1%、その他33%となっている。現在は、主にサービス業、製造業、介護などの医療福祉分野で需要が高まっている。

IABのウルリヒ・ヴァルヴァイ副所長(Ulrich Walwei erklärte)は「労働市場政策で成果を上げ、ドイツ経済が発展するためには、派遣労働を含む有期雇用や労働時間貯蓄制度の活用など、様々な形で柔軟に対応することが欠かせない。その際に大切なのは、柔軟性と安定性、そして社会保障を上手に組み合わせることだ」と述べている。

業界団体「派遣自体が雇用」と苦言

ドイツ労働総同盟(DGB)のアンネリー・ブンテンバッハ(Annelie Buntenbach)役員は今回の調査について「派遣労働者の4人に1人が派遣以外の仕事に転換しているが、それは派遣労働が正規採用につながることを意味しているわけではない。派遣労働のまま働く人も増えている。実際に業務をアウトソーシングして、20~25%ほどコストが安い派遣労働者を雇う企業が増えており、結局は給料のダンピングにつながっている」と語った。

一方、派遣協会は今回の調査に若干の苦言を呈した。ドイツ派遣協会(BZA)のフォルカー・エンケルツ会長(Volker Enkerts)は「我々は、日ごろIABの調査結果や数値に疑念を抱くことはない。しかし、今回の調査については、派遣労働者の何割が派遣以外に転換したかを調べた点に疑問を感じる。派遣労働はそれ自体が『雇用』であり、正規採用といった派遣以外の仕事に就くことが前提である必要はない」と述べている。

参考資料

  • IAB-Kurzbericht 13/2010、 ZDF(2010年6月30日)、Staffing Industry Analystsプレスリリース(2010年6月30日)

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