公的年金制度改革
―6月24日にも大規模スト

カテゴリー:高齢者雇用労使関係勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2010年7月

公的年金の受給開始年齢を現行の60歳から62歳に引き上げることを柱とする公的年金制度改革。政府案に対して野党および労働組合が一斉ストを呼びかけ、5月27日に抗議行動を実施したが、デモ参加者は全国で40万人(警察発表、労働組合発表100万人)と、1995年や2003年の年金改革時と比べてかなり少なかった。巻き返しをねらう主要労働組合は6月24日にも大規模ストを実施、ストへの参加者は80万人(警察発表、労働組合発表190万人)であった。フランス国鉄SNCFやパリ交通公団RATP(地下鉄)では、ストによりダイヤが大幅に乱れ、公立学校や官公庁にも影響が及んだ。政府はこの公的年金改革案を盛り込んだ法案を7月13日に閣議決定し9月には国民議会(下院)で審議を開始させたい意向である。

○なお、政府が発表した改革の17項目は次のとおり。

「公的年金改革の17項目」

<就労期間の延長>

  1. 年金開始年齢を毎年4カ月ずつ引上げ、1951年生まれは2018年に62歳から開始となるようにし、同時に年金減額終了年齢を2歳引き上げる。
  2. 公務員と特別制度の受給開始年齢を次のように引き上げる。
    1. 現在年金受給開始年齢が60歳に定められているすべての公務員について、2018年に62歳に引き上げる。
    2. 現業公務員に関しても同様に引き上げる(現行の受給開始年齢が50歳の場合には52歳、55歳の場合には57歳とする)。
    3. 特別制度の受給権開始年齢を2017年から引き上げる。
  3. 2003年の法律に沿って、2020年までに保険料納付期間を平均寿命に応じて延長する。
    1. 1953年と1954年生まれに関して41年3カ月にする(INSEEの現在の推定では保険料納付期間は2020年に41.5年になると見込まれる)。
  4. すべての被用者に均一な努力を求めるのではなく、比較的過酷な職業生活を送っている被用者が他の被用者よりも早期に退職できるように考慮する。
    1. 18歳前に働き始めた被用者の場合、現行措置と同じように保険料納付期間が最低期間+2年であることを条件として、58歳から60歳の間に退職する(全体としてこの措置の対象になるのは、2011年には5万人、2015年には9万人と見込まれる)。
    2. 過重労働を考慮する。
      1. 認定された職業的消耗(同じ影響をもたらす職業病または労働災害)のために20%以上の身体的消耗のある被用者に関しては、定年年齢60歳を継続する。
      2. 被用者の身体的消耗を回避するため、過重労働防止を促進する(過重労働を記録する個別健康手帳を設ける)。

<高齢者雇用の促進>

  1. 55歳を超える高齢求職者の採用に対して1年間雇用助成を実施する。
  2. 退職前に技能継承を促進するため、高齢者と若年者間のチューター制度を強化する。

<財源を確保し公共部門と民間部門の調和改善により制度の公平さを高める>

  1. 公的年金制度の運営に充てる財源を増やし、2011年までに37億ユーロの増収とする。
    1. 追加収入措置を実施
      1. 所得税の最高税区分に適用される1%の税金を設ける。
      2. 動産譲渡益と不動産譲渡益に対する税金、配当金と利息に対する所得税免除定率税を1ポイント引き上げる。
    2. ストックオプションに対する税金を引き上げる(使用者負担分を10%から14%、被用者負担分を2.5%から8%に引き上げ)。
    3. 主に退職した経営者に支給される確定給付の付加年金(retraites chapeaux)に対する税金を引き上げる。
      1. これまでは企業が支払う年金の1000ユーロ未満は免税であったが、今後は1ユーロから課税する。
      2. 年金受給者に課せられる14%の社会保障税を設ける。
    4. 個人の配当に対する税額控除と企業配当に関する経費の割当分の上限設定を廃止する。
    5. 社会保障諸税と同じように、動産譲渡益には2万7000ユーロではなく1ユーロから課税されるようにする。
    6. 負担軽減の計算は現在毎月適用されているが、使用者が当該年1年間に支払う給与と手当に適用されるよう年1回の適用とする。
  2. 公共部門制度と民間部門制度の調和の促進
    公務員と特別制度での公的年金開始年齢引上げと保険料納付期間延長の適用を補足して、次のことを実施する。
    1. 公共部門の保険料率を10年かけて民間に合わせる(7.85%から10.55%へ)。
    2. 2012年以降、15年の就労期間のある子供を3人持つ親に対する年齢制限のない早期退職措置を廃止する。ただし2012年に既に3人の子がある親が15年の就労期間経過後に退職できる可能性は継続する。
    3. 公務員が保証最低額を受給するには、民間部門と同じ「最低保障額」獲得規則が適用される。

<連帯制度の改善>

  1. 若年者の労働市場参入困難を考慮し、失業補償を受けていない失業者の補償適用を改善する。補償を受けていない失業者が連帯制度で認定を受ける四半期数を50%増やす(4四半期から6四半期に)。
  2. 女性の公的年金を改善する。産休中に受給する休業補償手当が年金計算の基準給与に算入されるようにする。給与の不平等に関する状況診断をしない企業は処罰される。
  3. 農業年金問題を解決する。
    1. 農業最低年金の適用条件を緩和することにより、女性の農業経営者がこの制度の適用を受けやすくする。
    2. 納付保険料が少ない農業従事者が、単身なら少なくとも709ユーロの収入を得られるようにするため、高齢者最低生活保障手当の規則を変更する。これに関して、農業従事者による高齢者最低生活保障手当の受給申請を促進するため、農地と農場はその特殊性を考慮して相続財産からの回収から除外される。

<フランス国民による公的年金制度の理解の促進>

  1. 新しい被保険者の最初の四半期の認定時に、公的年金制度、特に年金受給権の獲得規則と受給権に及ぼし得る影響に関する情報を提供する。
  2. 公的年金に関して早期に適切な選択ができるよう、45歳を「年金個別検討ポイント」とする。
  3. すべての年金制度をカバーするオンラインシステムを設ける。

<2018年に均衡を達成>

  1. 就労期間の延長と 収入増加のすべての措置によって、公的年金制度は2018年に均衡を回復できるであろう。
  2. この期間中の累積赤字は全額社会保障債務償却金庫(CADES)に移転される。CADESは年金準備基金(FRR)の資産と収入を所有することになる。FRRは、CADESに代わって資産と収入の運営管理を継続する。
  3. 改革を成功させ年金制度を将来的に存続させるための不可欠な指標、特に高齢者の就業率、制度の財政状態、融資保証率のフォローを担当する公的年金制度方針決定委員会を設ける。

参考資料

  • 資料出所:Les Echos.fr紙(5月27日、28日、6月6日、16日、24日)他、海外委託調査員

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=111.48円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年7月8日現在)

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