新政権、給付制度改革案など公表

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2010年6月

5月6日に実施された総選挙の結果をうけて、最多議席を獲得した保守党と、第三党の自由民主党による新たな連立政権が誕生した。両党は、財政赤字の削減を柱として、社会保障から地方分権、国際関係、あるいは選挙制度改革まで31領域に及ぶ連立政策協定を締結した。この合意内容に基づき、今後、各種施策や制度改正の具体的な内容が順次示されることになる。

労働分野での改革の目玉の一つは、失業者や就労困難者向けの給付制度の改正で、とりわけ就労困難者を対象とした就労不能給付受給者の削減が主眼とされている。政府は、5月25日に開会した議会の冒頭で、今期の政府提出法案の一環として「福祉改革法案」の概要を示した(注1)。新たに雇用年金相に就任したダンカン=スミス保守党議員は、前政権下の一連の給付制度(注2)が、貧困層の支援という本来の目的を実現することなく、むしろ受給者を貧困に閉じ込め、給付への依存を高めさせる結果になっているとして、現在の複雑な給付制度の簡素化と、就業が(給付の受給よりも)利益となるような制度改正が必要であると述べている。こうした方策の一環として、現在の全ての就労不能給付受給者の就労能力を再評価し、就労可能な者は求職者手当に移行させる予定だ。これにより、就労可能であるにもかかわらず給付に依存している層を就労に振り向けるとともに、本来働きたいと思っている多くの就労困難者にも自立の機会を提供し、さらに貧困層に対しては就労を通じた所得水準の向上を促すことができる、と同相は主張している。

これに関連して、失業者向けの就業支援策にも改革が予定されている。前政権が失業者向けの就業支援策の中核に据えてきた「ニューディール」や、今回の不況で特に打撃を被っている若年失業者に対する雇用創出のための基金(Future Jobs Fund)、6カ月を超える失業者の採用に対する助成金制度など、全てのプログラムを廃止し、新たな支援プログラムである「ワーク・プログラム」への一本化が図られる見込みだ。特に就職が困難な失業者には失業直後から、また25歳未満の若者については最長で失業から6カ月を経て以降、民間プロバイダーを通じた就業支援が実施され(注3)、プロバイダーには成果ベースで委託報酬が支払われる。また、失業者を対象にサービス業の就業前訓練や職業紹介を行う「サービス・アカデミー」、失業者がスキルや就業機会等に関する情報交換、相互支援を行う場として地域ごとの「ワーク・クラブ」の設置などが構想されている。

一方、今後論議を呼ぶとみられるのは、EU域外からの移民の制限である。イギリスでは、08年に導入したポイント制に基づき、域外からの移民の入国に際して資格要件による制限が実施されてきたが、国内では依然として、移民の増加に対する国民の不満が根強い。このため、保守党はかねてから割当制による年間流入数の制限を主張しており、これを実行に移すべく検討が進められる見込みだ。また、将来の全ての新規EU加盟国に対して、移行措置として入国制限を設けるとの方針を示している(注4)。

このほか、連立政策協定には、柔軟な働き方を申請する権利の全ての労動者への拡大(現在は子供を持つ親や介護者など一部の労動者のみ)や、法定定年年齢の段階的廃止などが方針として示されている。各施策の具体的な内容や実施時期は、今後明らかになるとみられる。

参考資料

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