操短手当、再び2012年3月末まで延長

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  • 国別労働トピック:2010年5月

ドイツ政府は4月21日、操業短縮手当制度(注1)(操短手当)の申請期限を2012年3月末まで延長する閣議決定をした。操短手当は、すでに2009年11月25日の閣議で、2009年末から2010年末に期限を1年延長している。今回はそこから再度1年3カ月延長することになる。

延長の経緯

フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)労働社会大臣は、記者会見で「操短手当の延長で、企業は今後より安定した経営計画を策定することができる。また、労働者は短時間労働に移行することで突然の失業を回避することができる」と述べた。同大臣は当初、閣議決定より3カ月長い2012年6月末までの延長を求めていた。しかし、今年に入り予想外に失業率が低水準で推移したため、最終的に2012年3月末までの延期を了承した。

景気後退を理由とする操短手当の受給者数の推移をみると、2009年4月と5月のピーク時には、約150万人強が受給していたが、その後は減少に転じて2009年末時点で約80万人強だった(図1)。

図1.景気後退を理由とする操短手当の受給者数の推移 (単位:人)

図1

資料出所:連邦雇用エージェンシー「Bericht der Statistik der BA」(2010年2月)

注:社会法典第3編第170条に基づくもの

トムソン・ロイターによると、このような操短手当受給者数の減少に加えて、直近3月の失業率が8.0%(季節調整値)と2009年2月以来の低水準になったことも、再延期で生じる助成金支出増大の懸念を払しょくする効果があった。連邦政府は、2010年の平均失業者数を370万人と予測していたが、低水準の失業率を受けて約30万人減の343万人とした。約16億ユーロの予算節減となる。

失業抑制、技能維持に効果

操短手当は、労働市場政策の助成措置の一つである。企業が経済的要因等から操業時間を短縮して従業員の雇用維持を図る場合、連邦雇用エージェンシーに申請すると「操業短縮」に伴う賃金減少分の一部(減少分の60%、扶養義務がある子供を有する場合は67%)が補填される。操短手当自体は1969年に創設されたものだが、2008年秋以降の世界的な経済危機に対応するため時限措置で制度拡充を図ってきた。今回は、今なお経済危機の影響が労働市場で続いているとの判断から、2012年3月末まで延長された。

操短手当は、柔軟な労働時間制度の併用を通じて失業率の抑制に一定の効果があるとされている。実際に経済危機以降、厳しい経済情勢が続く中、ドイツの失業率の上昇幅は他国より小さい(図2)。

図2.ドイツ、欧州連合、ユーロ圏の失業率推移比較(2005-2010)

図2

資料出所:連邦雇用エージェンシー「Der Arbeits- und Ausbildungsmarktin Deutschland」(2010年3月)

注:EU27…欧州連合加盟国(2010年3月時点で27カ国)

注:EZ16…欧州連合に加盟し、ユーロを導入している諸国で形成される経済圏(同16カ国)

また、操短手当は、企業内の技能維持にも一定の効果があるとされている。企業は、操短手当を利用して熟練従業員を解雇せずに短時間労働に移行することで、熟練者の持つ技能を社内に留めることができる。景気が回復して増産する場合は、新たに採用して教育する手間と費用が省ける上、即座に以前と同質の製品が生産できるという利点がある。

過渡的措置、対象限定の必要性

不況時に効果的な操短手当であるが、拡充制度の相次ぐ延長に悪影響を懸念する声もある。ハンスベックラー財団のザイフェルト氏(Dr. Hartmut Seifert)によると、ドイツでは操短手当のことを「ドラッグ(薬、麻薬)」と表現することがある。薬のように効果があるが、使用法を誤れば麻薬のように高価で常用の危険性があるからだ。AFP通信によると、2009年は操短手当に約50億ユーロという多額の財政が投入された。2010年は約30億ユーロの支出が見込まれている。

労働市場・職業研究所のビースナー主任研究員(Dr Frank Wießner)によると、操短手当の悪影響を最小限にするために重要な要素は二つある。一つは操短手当を過渡的措置とするために、一時的な景気後退を理由に申請する企業に絞ること、もう一つは操短手当の対象者をもし不況が長期化すれば再雇用が困難な労働者に絞ることである。

参考資料

  • 労働市場・職業研究所(IAB)、連邦雇用エージェンシー(BA)、連邦労働社会省(BMAS)、AFP(2010年4月21日)、Dow Jones Newswires(2010年4月21日)、Thomson Reuters(2010年4月21日)、世界の厚生労働 2010、執筆者のザイフェルト氏(Dr. Hartmut Seifert)へのインタビュー(2010年3月19日)

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=118.60円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年5月10日現在)

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