最低賃金、10月から5.93ポンドに引き上げ

カテゴリー:労働条件・就業環境人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2010年4月

政府は3月24日に発表した予算案の中で、全国最低賃金の2010年10月からの改定額を示した。政府の諮問機関である低賃金委員会の答申を受けたもので、現在22歳以上の労働者に適用されている基本額を5.80ポンドから5.93ポンドに引き上げるほか、若者向けの額についても引き上げを行う。併せて10月から、現在最低賃金の適用が除外されている一部のアプレンティスシップ(企業における見習い訓練制度)の参加者に対して、新たに2.50ポンドの最低賃金額が設定される。このほか、基本額の適用年齢の下限が22歳から21歳に引き下げられる予定だ。

翌25日に公表された低賃金委員会の報告書は、不況の影響に関する分析に大部を割いている。1930年代以来ともいわれる急激かつ長期にわたる景気の縮小にもかかわらず、雇用の減少幅は想定されたよりも小さかった。委員会はその要因として、労働時間や雇用量による調整よりも、賃金や投資の抑制、在庫調整、利潤などにより調整が行われたとみている。男性や若年層の無資格者の間では雇用減が著しかったものの、女性や高齢者、障害者、エスニック・マイノリティや外国人の雇用についてはさほどの悪化はみられていない。また最賃改定の影響が特に大きい低賃金部門でも、経済全体に比して雇用状況の悪化は緩やかなものに留まっている。うち、小売業とホスピタリティ業(宿泊・レストランなど)では、消費の低迷を反映して雇用が大きく落ち込んだが、介護業や保育業、理容業などではむしろ雇用が増加している。

委員会は、景気や雇用の先行きについて慎重な見方を示しつつも、今年から来年にかけての緩やかな経済成長と賃金・物価の上昇を前提に、最賃額の引き上げを提案している。基本額5.93ポンドの引き上げ率2.2%については予測される賃金上昇率に、また18~20歳向け(注1)の額4.92ポンド(9ペンス、1.9%増)および16~17歳向けの額3.64ポンド(7ペンス、2%増)については予測される消費者物価上昇率に基づき、改定案を決めたという。

一方、政府が一昨年から委員会に諮問していた一部のアプレンティスシップ参加者に対する最賃制度の適用除外の是非については、委員会は新たな最賃額の設定を答申、政府はこれを承認して10月からの導入を決めた。現行制度においては、19歳未満または19歳以上で参加期間が1年未満のアプレンティスシップ参加者に対して最賃の適用が除外されているが、新たに、就業および訓練(職場外訓練を含む)時間に対して一律2.50ポンドを最賃額として設定する。ただし、賃金を伴わないアプレンティスシップ(注2)については、従来通り適用が除外される。またイングランドについては、週当たりの賃金額の下限が95ポンドと定められており(注3)、新たな最賃額が適用された場合に賃金が低下する参加者が生じる可能性がある。このため移行措置として、現在の参加者に対しては、週当たり賃金額の下限が維持される。委員会は、最賃額の設定によって、政府が目標とするアプレンティスシップの受け入れ企業や参加者の拡大が阻害されないよう、継続的な影響分析を諮問内容に含めることを政府に求めている。

最低賃金額の推移
  1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
最賃額(£) 3.60 3.70 4.10 4.20 4.50 4.85 5.05 5.35 5.52 5.73 5.80 5.93
増加率(%)   2.8 10.8 2.4 7.1 7.8 4.1 5.9 3.2 3.8 1.2 2.2
未満率(%)* 0.9 0.9 1.3 0.9 1.0 1.0 1.0 1.0 0.9 0.8    
対平均賃金比率(%)* 35.7 34.7 36.5 35.9 37.7 38.5 38.5 39.6 39.2 39.5    
対賃金中央値比率(%)* 45.4 44.2 47.2 46.5 48.1 49.4 49.7 51.0 50.6 50.7    

* 統計局(Office for National Statistics)の労働時間・所得統計調査(Annual Survey of Hours and Earnings)に基づき、低賃金委員会が推計したもの。

参考資料

参考レート

  • 1英ポンド(GBP)=144.19円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年4月6日現在)

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