求職者の基礎保障給付金算定方式に違憲判決

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  • 国別労働トピック:2010年3月

ドイツ連邦憲法裁判所(BVerfG)は2月9日、ハルツ第4法(Hartz IV)による求職者の基礎保障給付金(注1)の算定方式が憲法(基本法)に抵触しており、根本的に改めるべきだとする違憲判決を下した。

判決の概要

裁判の原告は、社会法典第2編に基づく失業給付Ⅱを受けている子どものいる三世帯であり、同給付金を受け取っている170万人の子どものために裁判を起こしたとしている。原告の主張は、「子どもへの給付額は、必要最低限の額に達しておらず、最低限の生活を保障した憲法の規定に違反している」というものであった。

現行の給付額は、大人1人あたり月359ユーロで、6歳~13歳の子どもの場合は、成人の70%にあたる月251ユーロと算定されている。判決は、大人と異なり、この年齢の子どもは、成長が早くて衣服や靴を年に何回も買い替えなければならないことや、補習や習い事などの費用も全く考慮していないとして、原告の主張を全面的に認めたものであった。

連邦憲法裁判所のハンス-ユルゲン・パピエ(Hans-Jürgen Papier)長官は、判決で「現行の給付金算定方式は、子ども特有の支出について全く考慮されておらず、現実的ではない」と述べ、子どもは単に大人の70%と算定されるべきではなく、子どもに特有の事情と必需品について、再度調査すべきであるとした。

また、今回の判決では、大人の算定方式自体についても「抽象的な数値を一方的に当てはめる算定方式」から「包括的な統計手法を用いた信頼性の高い算定方式」に改めるように命じている。ドイツテレビ協会ZDFによると、今後給付額がどのように改定されるかについては不透明であるが、この判決の結果、子どもの給付額だけでなく、大人の給付額も増額される可能性があると報じている。

判決に対する各界の反応

労働社会省のフォン・デア・ライエン(Ursla von der Leyen)大臣は、メディアの取材に答えて「今回の判決は、子どもに教育の可能性を与えるために社会は何をすべきか、という問いであり、子どもの社会参加に向けた新しい視点である」と述べた。この発言は、今後労働社会省が前向きに制度改正に取り組む意向を示しているが、今回の判決によると政府は遅くとも2010年末までに新しい算定基準を設定しなければならない。

各党は、連邦憲法裁判所の今回の判断を歓迎しているが、給付額を引き上げるかどうかについては意見が分かれており、判決の政治的解釈に関する議論が始まっている。

左派党(DIE LINKE)のグレゴール・ギジ(Gregor Gysi)党首は、複数メディアの質問に答えて「求職者基礎保障を定めたハルツ第4法と、この制度を導入した社民党(SPD)への批判は正しかった。」とした上で、「連邦憲法裁判所が、社民党に対して、人間の尊厳と社会福祉国家の原則を侵害したことを証明したのは史上初めてのことだ」と述べている。社民党のフベルトゥス・ハイル(Hubertus Heil)副議員団長は、同じくインタビューに答えて「この制度は、労働市場改革の一環として失業扶助と社会扶助を統合したもので、この政策の正しさを否定するものは誰もいない。しかし、今回連邦憲法裁判所が判断したように新しい算定基準は必要である」と述べた。

また、社会福祉団体(Sozialverband VdK)のウルリケ・マッシャー(Ulrike Mascher)理事長は、地元メディアの取材に答えて今回の判決を「社会的弱者の勝利」だとして、「子どもへの大幅な給付金の引き上げを期待している」と述べた。

今後、社会保障費負担増の可能性も

労働市場・職業研究所(IAB)は、仮に社会福祉団体が求める通りに給付額を引き上げた場合(要求額:大人月420ユーロ、子ども月300ユーロ)、国の社会保障費負担は年に約100億ユーロ増加すると試算している。また、ドイツ公共放送のドイチェ・ヴェレは、現在国家予算の赤字総額は約1000億ユーロにも達しており、今後給付額を引き上げた場合、ドイツ国民に何十億ユーロもの増税を強いる可能性があると報じている。

しかし、財務省の広報担当者は、懸念されている社会保障費の拡大については、「判決は透明性の高い算定方式を求めているにすぎず、給付金の引き上げには必ずしもつながらない可能性もある」というコメントを出しており、最終的にどのような給付額になるかは具体的に分かっていない。

参考資料

  • Deutsche Welle(2010年2月10日)、ZDF(2010年2月10日)、連邦雇用エージェンシーHP、連邦労働社会省HP、IAB-Kurzbericht (11/2008)、海外委託調査員報告
    求職者の基礎保障に関する参考関連記事(2008年2月号

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=121.25円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年3月4日現在)

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