全人代常務委員会で『社会保険法』を採択

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全国人民代表大会常務委員会は10月28日、『中華人民共和国社会保険法』を採択した。2007年末以降3年を費やして審議されてきた同法案は第17回会議で成立、2011年7月1日より施行される。

国家統計局が今年2月に発表した統計によると、09年末の中国の人口は13億3千万人となった。中国でも一人っ子政策の影響などで高齢化が進んでおり、65歳以上人口が全体の8.5%を占めたほか、都市人口比率が46.6%と半数に迫り、都市化が進行している模様だ。人口は2030年代前半にピークとなり15億人に達すると見られている。こうした中、社会保険制度の対象範囲も拡大を続けている。2010年6月末時点で、都市部就業者の年金保険制度の対象範囲は2億4500万人、農村部も含めた基本医療保険は12億5000万人、労災保険は1億5300万人、モデルケースで試験的実施が開始されたばかりの新農村保険も6000万人近くに達している。しかし社会保障政策についてはこれまで、各地方、各部門で独自の政策を実施してきたことから、都市部と農村部間、地域間、組織間において制度の一貫性がないことが問題視されていた。全国的かつ包括的な社会保険の「基本法」制定は、近年における重要な課題であったといえる。

全人代常務委員会が採択した『社会保険法』は、立法形式で確立された初めての社会保険制度の包括的枠組みとなる。社会保険の原則に始まり、各種保険の対象範囲、社会保険の待遇項目ならびに適用条件、社会保険取扱機関、社会保険基金の監督、各種社会保険の保険料徴収・保険金受取等について明確な規定が行なわれている。同法はまた、基本年金保険、基本医療保険、労災保険、失業保険、出産保険といった各種社会保険制度を国が構築し、市民が老後の生活、疾病、労災、失業、出産といった状況において法に基づき国ならびに社会から支援を受ける権利を保障すべきとしている。

同法によれば、失業保険金の基準は、省、自治区、直轄市の人民政府が決定するが、都市部住民の最低生活保障基準を下回ってはならないものとされている。また、労災保険、出産保険については、いずれも使用者側が保険料を負担し、従業員は納付の必要がないことを定めた。

また基本年金保険については、労働者の平均賃金、物価動向等に基づいて基本年金保険を調整するメカニズムを構築するとした。労働者が別の地域で就業する場合、その基本年金保険は本人とともに移転し、保険料の支払期間は累計して計算される。個人が法定の退職年齢に達した場合、基本年金はそれぞれの期間について別々に計算された上で統一的に支給される。なおこれは、公務員および公的部門従業者の年金保険についても同様の定めとなっており、具体的な手順等は国務院が定めるとしている。

同法はさらに、労働組合が法に基づき労働者の合法的権利を保護することを定めている。労働組合には、社会保険に関する研究に参画し、社会保険監督委員会に参加し、労働者の社会保険の権利・利益と関係する事項について監督を行う権限があるとされた。地方の人民政府は、使用者側代表、労働組合代表、保険加入者代表、専門家等から構成される社会保険監督管理委員会を設立し、社会保険基金の収支、管理、投資運営の状況を掌握し分析して、社会保険業務に対してコンサルティング意見を提示し、社会的な監督を行うものとしている。

また社会保険基金については、予算を通して収支のバランスを実現するが、社会保険基金に支払い不足が生じた場合には、県レベル以上の人民政府が補助を行うことも規定された。

なお、同法に基づき、基本年金保険基金は今後段階的に全国的な統一的準備を実施していくことになる。その他の社会保険基金でも省レベルの準備が徐々に進められていく予定だ。いずれも具体的なスケジュールや手順は国務院が定めるとしている。

参考

  • 海外委託調査員、『中国労働保障報』、2010年10月29日、第3版

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