職業訓練の取組み
―政府、企業、労働組合、コミュニティ

カテゴリー:若年者雇用人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2010年11月

10月4日、大統領経済回復顧問委員会(The President’s Economic recovery Advisory Board :PERAB)と労働省はそれぞれ職業訓練に関する施策を公表した。

コミュニティ.カレッジを活用した職業訓練に関する労使のパートナーシップ

PERABは、政府、企業、労働組合等によって構成されている。今回は、ここにコミュニティ.カレッジも加わって協議された。このプログラムには、現在のところ、マクドナルド、パシフィックガス.エレクトリック、アクセンチュア、ユナイテッド.テクノロジー、ギャップの5つの企業が協力を表明している。

その内容は、民間企業がコミュニティ.カレッジを活用して労働者の職業訓練を行うというものである。たとえばマクドナルドは、店長レベルに対して現在行っている語学、理解力に関する研修を拡大する計画を持っている。その具体的な実施機関がコミュニティ.カレッジとなる。マクドナルドにとって有用な人材を育成することが目的だが、PERABはこのプログラムが労働市場で広く通用する技能を身につける機会となることを期待している。

オバマ大統領はこのような施策について、長期的な経済成長における教育投資の重要性を強調している。

コミュニティによる若年者を対象とした職業訓練

労働省はコミュニティを基盤とした職業訓練について、2010年、11年度の予算額を公表した。

このプログラムは若年者の職業訓練をコミュニティに委託して行うものである。対象となる若年者は16歳から24歳。教育や職業能力に劣っていることや、居住するコミュニティの環境の影響などにより低い所得に留まる若年者の生活水準を高めることを目的としている。

具体的な訓練プログラムは、居住するコミュニティで必要とされる家屋の建築に実際に従事することを通じて、建築作業に関する技能を学ぶことが柱となっている。高校卒業もしくはコミュニティ.カレッジの卒業資格の取得のための教育を受ける機会も提供される。これと同時に、受講者にはコミュニティ全体の生活水準を上げるためのリーダーとなることが期待されており、リーダーシップ教育も行われる。

予算額は全体で1億3000万ドル。この予算は手を挙げたコミュニティが作成した計画に基づき、分配は競争的に行われている。参加したコミュニティは128。約8500人の受講が期待されている。受講者一人当たりの予算額が1万5000ドルから1万8000ドル計上され、コミュニティ単位では3年間に70万ドルから110万ドルの助成金が支給される。

電機事業労働者の職業訓練.資格制度創設における労使のパートナーシップ

政府主導の職業訓練に加え、産業別労働組合と事業主団体が協力して行う職業訓練.資格制度の試みも始まっている。

電機事業に従事する労働者を組織する全米友愛電機労組(IBEW)は、これまで熟練工と見習工という2つの大くくりの資格で労働条件を使用者と交渉してきた。

一方、労働組合に組織されていない企業はこの資格要件に縛られずに人件費を柔軟にコントロールすることができる。また、労働者にとっては、見習工や熟練工という資格は能力要件や求められる訓練期間が長く、労働組合に組織されている企業で働くためのハードルを上げてきた。

しかし、近年は、労働組合に組織されていない企業の市場シェアが伸びている。労働者も資格要件や能力要件のハードルが低い企業を選択する傾向がみられるようになってきた。これらが労働組合に組織されている企業の労使双方の脅威となっている。

このため、IBEWは従来の見習工の職務資格を6つに分割する施策を発案した。05年からパイロットプログラムをフロリダで開始し、06年からは全国展開を始めた。一元的に決められていた見習工の賃金は職階に合わせて段階的なものへと変更される。熟練工の賃金を100とした場合、新しい職階は熟練工の40%から80%の賃金レンジになった。

資格要件に見合う技能習得のための研修はIBEWが主体となって行い、事業主団体、全国電気請負事業者協会(The National Electrical Contractors Association)が協力する。使用者側にとっては、新規採用者の技能水準が保証されるだけでなく、継続的な技能教育が行われるなどのメリットがある。

しかし、この試みにも課題がある。新規採用者は別として、従来の仕組みに慣れている労働組合員の同意を得ることが難しいことがそれである。熟練工、見習工に分類される組合員は33万5000人にのぼる一方、新しい制度にいる労働組合員は1000人にとどまっている。職階が細分化されることによって全体の賃金水準が低下するとの批判がその背景にあるからである。

教育訓練と失業

米国労働統計局が10月8日に公表した8月の雇用統計によれば、失業率は前月から変わらず9.6%。

就業者数は民間部門が6万4000人増、公共部門が15万9000人減となった。公共部門で就業者数が減少した原因は、前月に引き続いて国勢調査の終了。

労働統計局は10月12日に失業率に関連した分析結果を公表している。

これによれば、近年の景気後退により建設業や製造業といった男性が多く従事する産業が大きく雇用を減らした一方、女性が多く従事するヘルスケア産業ではむしろ雇用が増加している。

18歳以下の子供を持つ家庭をみれば、夫が失業している割合は08年の1.8%から09年の3.4%へと倍増している。統計局の分析では、産業特性だけでなく、男性よりも女性の方が教育を受ける意欲や卒業資格を得る意欲が高いため、男性よりも就職する能力が高いとしている。

参考

  • White House Announces Partnership Program To Link Employers With Community College, Daily Labor Report, Octt.4, 2010
  • More Wives Became family Breadwinners As Men Lost Jobs in Recession, Census Says, Daily Labor Report, Oct.21, 2010
  • DOL to Award $130 Million for Job Training In YouthBuild Grants to Teach Construction, Daily Labor Report, Oct.4, 2010
  • IBEW Requiring Locals to Implement New Classifications to Boost Market Share, Daily Labor Report, Oct.6, 2010
  • 米国労働統計局WEBサイトリンク先を新しいウィンドウでひらく(2010年10月8日閲覧)

参考レート

  • 1米ドル(USD)=80.61円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年11月02日現在)

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