操短手当、2010年も継続へ

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  • 国別労働トピック:2010年1月

2010年の新申請分は、18カ月の支給期間

ドイツ政府は、11月25日の閣議で、現行の操業短縮(操短)手当制度()を当初予定から1年延長して2010年末までとする決定を行った。

ただし、支給期間は現行の24カ月から18カ月に短縮される。つまり2010年以降に申請を行う場合は支給期間が18カ月となるが、2009年末までに申請を完了すれば24カ月にわたり操短手当の受給が認められる。今回の制度延長の閣議決定がなかった場合、6カ月しか操短手当の支給が認められない旧来の規定が適用されることになっていた。

評価がある一方で、常態化懸念の声も

今回の政府による操短手当制度の延長決定について、労使ともに「労働市場の安定化に貢献するもの」と評価する声がある一方で、操短手当制度の延長による悪影響や制度の常態化を懸念する声がある。

ライプチヒ商工会議所の会頭は、「不況時に必要な構造調整が遅れ、操短手当制度の延長により、例えば転職すればフルタイムで働ける専門労働者が解雇されないまま不本意に現在の企業のもとで短縮労働を行っている可能性がある」というコメントを発表している。

また、ドイツ銀行のセバスチアン・クブシュ調査員は、「万が一、操短手当制度が2011年以降も継続して常態化すれば、必要な労働市場調整が進まず、企業の競争力や生産性が低下する可能性は否定できない。現に製造業におけるアメリカ、イギリス、ドイツの労働生産性の推移をみると、ドイツだけ回復が非常に遅れている」と報告書の中で分析している。

図表1. 製造業における労働生産性の推移
(1人あたりの労働生産性、2007年第1四半期=100)

図表1

資料出所: ドイツ連邦統計局、イギリス国家統計局、アメリカ労働統計局

注: イギリスのみ発表月が異なるため、2007年第1四半期=100となる月がずれている。

柔軟な労働時間制度が貢献

操短手当制度が失業対策に一定の効果をあげているという評価の根底には、ドイツの労働時間口座制度の普及がある。経営者は、操短手当を申請するにあたり、労働時間口座制度を活用し、有給休暇の調整を行うなどの手段を尽くしたことを証明する必要がある。

実際に、金融危機後、他国と比較してドイツの失業率が緩やかに推移している要因について、労働市場・職業研究所(IAB)のオイゲン・シュビッツナーゲル研究員は、操短手当制度自体の効果に加え、労働時間口座制度とフレックスタイム制度の普及の効果が大きいと分析している。ドイツでは、コアタイムを含む1日単位のフレックス制度ではなく、労働時間口座を設定して1カ月単位(またはそれ以上)で労働時間を調整することが一般的に行われている。この口座制度によって残業分をプラス、早退をマイナスとして月末に収支の差引を0にする方法である。また、季節によって受注状況が大きく変動する業種の場合、1年間単位で労働時間の収支を合わせることも認められている。この制度は、経営者にとっては残業代を支払う必要がなくなるという利点があり、従業員にとっては景気の良い時には残業時間を自分の「労働時間口座」に貯蓄しておき、景気が悪く、労働時間が短縮されるような時には、この口座から残業時間分が差し引かれて給与そのものは減らないという利点がある。つまり、操短手当には、労働時間口座制度が有効に機能するといえる。

使用者連盟は解雇規制緩和要請を控える方針

なお、2009年10月の新政権発足以来、操短手当の継続とともに労働関係者が注目していた解雇規制緩和の議論は、当面の間沈静化する模様である。

ハンデルスブラット紙によると、有識者の多くは政府と同様に「経済危機から完全には脱却しておらず、来年以降失業者がさらに増える可能性もある」とみている。このように雇用情勢の厳しい見通しが続く中、ドイツ使用者連盟(BDA)のディーター・フント会長は、ビジネス誌のインタビューに応えて「メルケル首相が解雇規制制度を変更する考えはないと述べていることを重く受け止め、今後ふたたび解雇規制の緩和を議論に取り上げるつもりはない」述べている。

今回の操短手当制度の継続により、専門家は2010年に新たに失業するとみられる50万人以上の労働者が一定期間解雇を免れることができるとみている。しかし、この間に発注状況の改善などの経済回復ができなければ、2011年末の労働市場はさらに深刻な状態を迎えることが予想される。

参考資料

  • 執筆者のオイゲン・シュビッツナーゲル(Dr. Eugen Spitznagel)氏へのインタビュー(2009年12月3日)
  • 連邦労働社会省HP、海外委託調査員月次報告
  • ドイツ銀行調査報告書(英語版:09年12月3日)
  • Handelsblatt紙(09年11月21日)

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