不法滞在者、一部合法化も違法労働への罰則を強化

カテゴリー:外国人労働者労使関係

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  • 国別労働トピック:2010年1月

正規の滞在許可証の発行を求めるサンパピエ労働者たちによるストライキ運動が広がりを見せるなか、ベッソン移民相は11月24日、不法滞在労働者の合法化に関する新基準を県知事に通達、26日には違法労働に対する罰則強化案をダルコス労相と共同で発表した。

サンパピエ労働者のスト拡大

フランスでは、「サンパピエ」と呼ばれる正規の滞在許可証を持たずに不法に滞在する外国人が数十万人にのぼり、その大部分がレストランや建設・土木、清掃の仕事に就いているとされている。こうしたサンパピエ労働者達が、合法化を求めて10月12日から派遣会社やレストラン、工事現場などでストライキを実行した。移民支援団体や人権擁護団体だけでなく、CGT(労働総同盟)やCFDT(民主労働同盟)などの労組もストライキを支持、その後も抗議運動は拡大し続け、サンンパピエ労働者の参加者数はおよそ2000企業の5400人にのぼった。

不法滞在労働者の合法化に新基準

これに対して、ベッソン移民相は、11月24日、不法滞在労働者の合法化に関する新たな基準を決定、県知事に通知した。新基準によれば、正規滞在許可証を持たない労働者で合法化を申請したい者は、最低5年間フランス国内に滞在しており、企業に最低12カ月雇用されていることを証明しなければならず、雇用主による最低1年間の雇用契約に関する書類も揃える必要がある。さらに、「人員が不足している」職業に限られる。

ベッソン移民相は、不法滞在の労働者を全て一括して合法化する意向がないことを強調する一方で、この新しい基準により、1000人程度は合法化されるとの見通しを示した。これに対して、労組側は、「サンパピエ労働者たちは、既に統計にもカウントされており、ニューカマーではない」「人員が不足している職業で人手が必要だということを認めるならば、なぜそのうえ5年間の滞在証明までも要求されるのか」と強い反発を示した。

不法滞在者を雇用する企業への罰則強化

さらに、ベッソン移民相は、11月26日、不法滞在の労働者を雇用する企業に対する罰則強化案をダルコス労相と共同で発表した。同案には、不法滞在の労働者対策だけでなく、社会保険料や所得税の支払いを免れることを目的とする届け出のない就労や虚偽の届け出による就労、研修生として採用して賃金を低く抑えるなどといった特別な就労形態の乱用への対策も含まれている。

この罰則強化策が実行された場合、労働許可証を持たない外国人(滞在許可証を持たない外国人や滞在許可証は所持しているものの労働許可を得ていない外国人)労働者を雇用するなど、雇用に関する不正行為が認められた企業は、県知事により強制的に閉鎖されることになる。また、各種の公的手当受給権を5年間停止、前年度受給した公的手当の返還、賃金労働者の数に比例した罰金の割増なども求められる。なお、こうした企業の不正行為のために職を失うことになる賃金労働者(労働許可書を持たない外国人労働者)に対しては、企業が補償金として6カ月分(現行では1カ月分)の賃金を支払うことになる。

これに対し、CGPME(中小企業総連盟)は、不法滞在者であると知りながら雇用する使用者へ罰則を科すことは基本的に賛成であるが、中小企業の経営者は、偽造の証明書を見抜く専門家ではなく、不法滞在者とは知らずに雇用する場合もあり、様々な状況への配慮なしに、罰則を一律に設定することは公平ではないとする見解を示した。

不法滞在の労働者に対する国民の意識

こうしたなか、調査会社Ifopが11月26日と27日の2日間にわたり、フランスに居住する18歳以上の955人を対象に、不法滞在の労働者に対する国民の意識について電話調査を実施した。調査結果によると、78%が、「不法滞在の労働者はフランス経済にとって重要な役割を果たしている」と考えており、64%が「不法滞在の労働者を状況に応じて、合法化すべき」、24%が「全ての不法滞在労働者を合法化すべき」であると回答している。フランスでは、失業率は高いものの、重労働とされる建設・土木業、清掃業やレストランでは、慢性的な労働力不足が続いており、不法滞在者の多くがこうした産業で就労している。今回の調査結果の背景には、「不法滞在の労働者はフランス経済に大きな影響を与えている」とする国民の認識があるとされる。

ナショナルアイデンティティに関する議論

現在、フランスでは、「ナショナルアイデンティティに関する議論」と題する討論会が全国各地で開催されている。これは、ベッソン移民相の「ナショナルアイデンティティの価値や、フランス人であることについて大々的な討論をしたい」という10月26日の発言から始まったもので、インターネットでも特別サイト(http://www.debatidentitenationale.fr/新しいウィンドウ)を設けて議論が行われている。

同サイトには、12月初旬の段階で、4万件以上の書き込みがなされ、ベッソン移民相は「成功している」と満足の意を表明しているが、「移民差別につながる」「過度の愛国主義を煽る恐れがある」「フランス人としてのアイデンティティを決めるのは政治権力ではない」「来春の地方選挙で極右派の指示を得るために過ぎない」とする意見も多い。

議論は、1月31日まで実施され、結果は、2月4日のシンポジウムで発表される予定である。

参考

  • 労働・社会関係・家族・連帯省発表資料(Commission Nationale de lutte contre le Travail Illéga , Jeudi 26 novembre 2009)
  • 移民・同化・国民アイデンティティ・開発省発表資料(COMMUNIQUE:Eric BESSON lance un grand débat sur l’identité nationale, le 26 octobre 2009/ Eric BESSON ouvre le grand débat sur l’identité nationale, le 2 novembre 2009)
  • Le Monde(2009年10月26日、28日、29日、11月18日、23日)
  • L’Humanité(11月30日)

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