建設業における安全衛生問題
建設業における死亡事故の削減に向けた安全衛生制度の強化について、雇用年金大臣から昨年末に諮問を受けていた外部専門家の報告書が7月に発表された(注1)。
報告書は、建築申請や公的調達への参加に際して安全衛生管理体制の整備を条件に組み込むことや、建築現場の安全衛生管理に関する責任者の明確化などを提言するとともに、企業に対して、労働組合や労働者の参加を通じた安全衛生管理体制の枠組み作りを求めている。
また、行政による規制強化も今回の提言の重要な柱となっている。その一つは、安全衛生制度を所管する安全衛生庁(Health and Safety Executive)の監督強化で、体制の拡充とともに、違反企業に対する取り締まりの厳格化を検討するよう安全衛生庁に要請している。さらに、下請け・孫請け企業に対するより強力な規制の必要性を主張している。こうした企業は、自営業者を柔軟な労働力として多用する傾向にあり、労働者は低い労働条件のもとで搾取の対象となっている場合が少なくないという。このため対応策として、現在農業・食品加工業等の労働力供給事業者(gangmaster)に適用されている認可制度(注2)を建設業における労働力供給事業者にも適用することを求めている。
報告書はこのほか、建設業における技能の標準化や徒弟制度などによる人材育成の重要性にも言及している。技能水準に応じて従事できる職務を明確にするとともに、労働者の技能水準の向上を通じて、安全性を高めることが狙いだ。政府は、報告書の提言内容を検討の上、年内に方針を示すとみられる。
建設業の安全衛生は、移民労働者をめぐる問題と密接に関連している。現地メディアは、建設現場で働く外国人労働者は国内労働者の2倍の死亡リスクにさらされているとしている。これは、安全衛生庁が公表した2007年度の建設業における事故死亡者に関するデータで、外国人労働者が全体の17%(12件)を占め、建設業における外国人労働者比率(8%)の倍に達していることを指したものだ。
また5月に、議会の内務委員会(Home Affairs Committee)がとりまとめた「人の密輸」(human trafficking)に関する報告書(注3)も、建設業における外国人労働者に対する搾取などの不当な扱いの横行に懸念を示しており、上記の専門家報告書と同様、ギャングマスター制度による規制強化を提案している。
注
- "One Death is too Many : Inquiry into the Underlying Causes of Construction Fatal Accidents Presented" Donaghy, R.(2009)。なお、前後してHSEが公表した報告書によれば、建設業における事故死亡者数は1983年の140件から07年度には72件に、また08年度には53件へと記録的に減少している。ただしHSEは08年度の減少について、不況による建設業の低迷の影響も考えられるとしている。
- 2004年に、労働力供給事業者のもとで貝の採取に従事していた中国人不法労働者21名が溺死した事件をきっかけに、規制の必要性が議論されることとなった。2006年から本格的に開始されたギャングマスター制度は、農業労働や貝の採取、食品加工・包装等の作業に労働者を手配する事業者に認可取得を義務付けており、現在は1230の認可事業者が、農業以外にも建設業やサービス業などに労働力の提供を行っている。認可及び毎年の更新は、ギャングマスター認可局(Gangmasters Licensing Authority)によって実施されるが、その際の条件は、安全衛生への配慮など適正な労働条件を労働者に提供していること、不法労働者を使用していないことなど。なお、ギャングマスターのもとで働く労働者の数などは把握されていないが、移民が多いといわれる。
- "The Trade in Human Beings: Human Trafficking in the UK - Sixth Report of Session 2008–09" House of Commons Home Affairs Committee (2009)
参考資料
関連情報
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