欧州委員会、加盟国の雇用対策に190億ユーロの支援など提案

カテゴリー:雇用・失業問題若年者雇用人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2009年8月

欧州委員会は6月、加盟各国における雇用対策の奨励と、EUによる財政支援などに関する方針案をとりまとめた。操業短縮等による雇用の維持・創出や、職業教育訓練を通じた技能水準の向上、雇用機会へのアクセスの改善を柱とする内容。2009~10年にかけて各国において実施される雇用対策に、欧州社会基金(European Social Fund)から190億ユーロを充てて支援するなどの方針を示している。

Eurostatが7月に発表した第1四半期のGDP成長率(第二次速報値)は、EU加盟27カ国の平均がマイナス2.4%、ユーロ圏の16カ国ではマイナス2.5%と、前期(マイナス1.7%、マイナス1.8%)を上回る縮小幅となった。対前年同期比では、それぞれマイナス4.7%とマイナス4.9%。ポーランド(0.4%増)とキプロス(0%)を除く全ての加盟国でマイナス成長となり、輸出の落ち込みと、設備投資の減少が大きく影響しているとみられている。

前後して発表された27カ国の5月の失業者数は2146万2000人(うちユーロ圏16カ国は1501万3000人)で、前月から38万5000人増(同27万3000人増)、この1年では511万1000人増加している。失業率は27カ国が8.9%、ユーロ圏が9.5%で、いずれも前月から0.2ポイント増、対前年同月比で2.1ポイントの増加となった。失業率が高かったスペイン(18.7%)やラトヴィア(16.3%)などでは上昇が続く一方、低水準のオランダ(3.2%)やオーストリア(4.3%)などでは横ばいで推移している。

25歳未満の若年者については、27カ国平均で19.5%(対前月比0.3ポイント増、対前年同月比4.5ポイント増)、ユーロ圏でも19.6%とほぼ同水準だが、国別にみるとスペインの36.9%が飛びぬけて高い。また男女別では、27カ国については男性も女性も8.9%で等しいが、ユーロ圏でみると、男性の9.3%に対して女性では9.7%と女性の失業率が高い。

域内の景気動向には楽観的な見通しが出始めており、雇用状況の悪化も緩やかになりつつあるものの、失業者の増加が止まらない現状に、欧州委員会や加盟各国政府、欧州議会および労使団体などの間では、対応策に関する議論が進められている。

欧州委員会は6月、景気対策の促進と加盟各国の協調に関する提言を盛り込んだ昨年11月の「欧州経済再生プラン」に続き、不況の影響で困難に直面する労働者や企業に対する雇用対策の実施を促し、これを支援するための方針案として、「雇用のための共同の取り組み」("Shared Commitment for Employment")をとりまとめた。加盟国に奨励する施策、またEUレベルの支援策として提案されている主な内容は以下のとおりだ。

  • 失業に直面する若年層に対して、EU全体で500万件以上の見習訓練制度(apprenticeship)の場を提供する。
  • 長期失業と技能の逸失を防ぐため、失業者に対する早期(20歳未満なら1カ月以内、25歳未満なら2カ月以内、25歳以上なら3カ月以内)の訓練を実施する。
  • 最も就業が困難な層の再就職支援として、例えば非賃金労働費用(社会保険料等)の引き下げや、雇用に対する助成、家事・看護サービスなどの単純労働の就業機会の提供などを実施する。
  • 自国以外の他の加盟国で求職活動をする失業者に対して、最低6カ月間の失業給付を支給する。
  • 事業再編に際して、企業、労働者や組合等に実際的な支援パッケージ(practical toolkit)を提供する。
  • 在職・転職者に対する職業訓練、起業支援、公共職業紹介の拡充などの支援策の実施費用を全額補助するため、欧州社会基金の支出予定額を前倒しで措置し、190億ユーロを充てる。従来、同基金の補助を受ける場合には、支援対象となる中央政府や地方自治体には支援額と同等額(地域の状況や事業内容によっては、それ以下の割合)の予算措置が求められるが、これを2010年まで免除する。
  • 既存のEU予算から1億ユーロ、欧州投資銀行などから4億ユーロの計5億ユーロにより、起業や零細企業に対する融資を行うマイクロファイナンスを立ち上げる。
  • 操業短縮や教育訓練の実施に欧州社会基金などから支援を行う。
  • 欧州委員会は、産業部門ごとの労働市場の現状と将来に関する技能ニーズを分析する。
  • 小規模企業に対して、技能維持のためのガイダンスを実施する。
  • 域内他国における求人情報提供ネットワーク(EURES)のサービスを拡充する。

欧州委員会の提言について、EUレベルの労働組合連盟である欧州労連(ETUC)は、「大規模な雇用危機に直面しているにもかかわらず、欧州委員会は通常の政策で対応しようとして」おり、「不足しているのは労働供給ではなく経済における需要である事を全く理解していない内容」と強く批判している。ETUCが提言する対応策の一つは、環境対応事業にGDPの1%を毎年投資して経済を活性化することだ。同時に、雇用安定に向けた労働者保護の実施を主張しており、その一環として社会的サービス(福祉、介護など)における良質で安定した雇用の創出、企業における「ジョブシェアリング」に対する一層の支援、また特に不安定雇用に直面する労働者に対する失業給付増額・支給期間の延長だ。ETUCのモンクス書記長は、「企業に対して賃金以外のコストの引き下げなどを通じた支援を提供しても、問題は解決しない。むしろ経費削減競争を引き起こし、現在緊急に必要性が高まっている社会保障制度の財政を圧迫するだけだ」との声明を発表している。

一方、経営者団体は欧州委員会案を評価している。欧州手工業・中小企業連合(UEAPME)は、需給両面のバランスの取れた提言であるとして、見習訓練制度などによる職業訓練の活性化や、マイクロファイナンスの実施を歓迎。ただし後者については、融資が必ずしも積極的に行われない可能性を危惧している。また同じくEUレベルの経営者団体であるBusinesseuropeは、起業支援や社会保険料の引き下げなどの施策は、雇用の維持・創出にとって極めて重要だとしてこれらを支持しているが、欧州委員会が操業短縮による雇用維持を強く推奨する点については、実施するにしても短期にとどめるよう欧州委員会に求めている。

「雇用のための共同の取り組み」は、6月の雇用・社会政策担当相理事会で承認され、現在は欧州理事会と欧州議会の採択を待つ状態にあるが、欧州委員会は既に具体策の提案を始めている。その一つが、7月初めに示されたマイクロファイナンス制度の導入案だ。これにより従業員10人未満規模の企業や、失業者および非就業者で自営業を始めたいが融資を受けられない者を対象に、2万5000ユーロ未満の融資を2010年から実施する予定。提案文書によれば、現在、新たに起業される企業の99%は零細・小規模企業で、うち三分の一は失業者によるものだという。また7月下旬には、欧州社会基金の条件緩和と手続きの簡素化に関する提案を発表している。

参考資料

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  • 1ユーロ(EUR)=136.87円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2009年8月7日現在)

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