EU派遣労働指令の法制化作業を開始

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  • 国別労働トピック:2009年6月

昨年11月にEUで成立した派遣労働指令の国内での法制化に向けて、政府はコンサルテーション(一般への意見聴取プロセス)を開始した。焦点は、指令の求める派遣労働者の均等処遇の対象とすべき労働者や事項の範囲など。関係者などからの意見をふまえて、年内の法制化を目指している。

就業開始から12週間後の均等待遇など提案

イギリスは、EU加盟国の中でも派遣労働者の活用が進んでいる国の一つ。国内の派遣労働者は130万人(就業者数の4.5%)で、うち22%がビジネス・サービス、20%が製造業、18%が運輸・レジャー・小売業などに従事している。また、若年層やエスニック・マイノリティなどが多くを占める。政府は、労働市場の柔軟性を確保すると同時に、失業者に対してはより安定した雇用への道筋を提供する方策として労働者派遣を捉えており、規制緩和などを通じて活用促進をはかってきた。一方で、悪質な派遣事業者による搾取が近年問題となっており、規制強化の必要性が議論されてきたところだ(当機構海外労働情報2007年10月2008年6月参照)。さらに、昨年からの不況で業績の悪化に直面する企業の間では、対応策の一環として派遣労働者の削減による人件費の圧縮が広く実施されているとみられる(注1)。

派遣労働指令は、成立から3年後の2011年12月までにこれに対応する法整備の実施を加盟各国に義務付けている。基本的な内容は、同じ仕事に直接雇用される労働者と同水準以上の労働条件(労働時間、時間外労働、休憩・休息、夜間勤務、休暇・祝日、給与(pay))を、派遣労働者に保障するというもの。

法案作成にあたるビジネス・企業・規制改革省(BERR)は5月、法制化に関する政府提案やその他の論点に関して一般から意見聴取を行うコンサルテーションを開始した。意見聴取のポイントを盛り込んだコンサルテーション文書における政府の主な提案の一つは、派遣労働者に対して均等処遇の権利を付与する時期だ。指令は、派遣労働者に対する均等処遇の権利付与の時期を原則的に就業初日からとしているが、全国・産業レベルの労使間の合意に基づき、一定の猶予期間(qualifying period)を設定することを認めている。政府と労使(TUCおよびCBI)は、既に指令成立に先立って、就業開始から12週間後とすることを合意する文書を発表しており(注2)、政府はこれに沿って12週間後の権利付与を提案している(注3)。

次に適用対象とする労働者の範囲については、職業紹介事業者を通じて企業に直接雇用される労働者や自営業者を除外したいとしている。また、均等処遇を義務化する範囲については、長期的な雇用関係を前提とした報酬制度(例として利益分配制度)を除外する方針を示している。さらに、原則として派遣事業者が均等原則の順守に努める責任を有するべきことを提案している。このほか、訓練受講や設備の利用、紛争処理の方法など、幅広い事項に関して意見を求めている。

なお同文書におけるBERRの試算では、派遣労働者の時間当たり賃金額は、期間の定めのない雇用者に対して10%低く、特にフルタイム労働者との間ではこの差が21%となっている(注4)。指令の国内法制化で均等処遇が義務付けられれば、企業等での派遣労働者に係る賃金コストの増加分は全体で9%、特にビジネス・サービスや製造業では、それぞれ35%と24%の増加になるとBERRは推計している。

参考資料

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