連邦参議院、最賃関連2法案を可決
―改正法成立へ

カテゴリー:外国人労働者労働法・働くルール労働条件・就業環境

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2009年4月

連邦参議院(上院)は2月13日、最低賃金関連2法案(労働者送り出し法および最低労働条件法)を可決した。法案は昨年7月閣議決定に至った後、数々の修正審議を経て、ようやく成立に至った。最大の争点だった労働者派遣業は、労働者送り出し法の適用対象から除外された。もう一つの争点だった実施監督については、最終的に連邦税関当局に一元化されることで収束した。2つの改正法は、いずれも協約自治を補完するかたちでの最賃設定手法を定めたもので、従来から存在する労働協約法の一般的拘束力宣言制度と併せると、最賃設定手法が全部で3つ存在することになる。今回の改正を踏まえ、同国の最賃設定手法をあらためて整理してみた。

3つの最低賃金設定手法

1.労働協約法第5条:一般的拘束力宣言

ドイツは、ナチス時代に労働条件が国家により直接規制された歴史から、第2次大戦後は賃金決定を含む労働条件決定は「労使自治」による労働協約システムに委ねられてきた。だが、近年の組織率や協約適用率の低下による労使自治システムの弱体化に加え、東西統合、グローバル化による競争激化、近隣諸国からの低賃金労働者の流入などの影響で、労働協約だけに委ねて賃金の下限を定めることが困難になった。こうした流れで、あくまでも労働協約システムを補完する格好ではあるが、今回の改正法が成立した。

まず、従来から存在した部門ごとの最賃設定手法として、労働協約法第5条に定める一般的拘束力宣言制度を用いた協約拡張メカニズムがある。労使が申請する場合、(1)部門の労働協約が労働者の50%以上をカバーしていること(2)労使代表各3人で構成する協約委員会の同意(労使団体から各々3名の代表により構成され、多数決または少なくとも使用者代表1名の同意があること)――を条件として、連邦労働社会相が当該協約について一般的拘束力宣言を命ずる。当該協約が部門の最低賃金を定めている場合、この方式によって最賃を設定することが可能だ。だが、協約委員会の同意を得るのは、極めてハードルの高い要件で、この手法が部門統一的な最賃設定機能を果たすことはごく稀なケースとなっている。また、この手法は、海外から派遣されてきて建設プロジェクトなどで一時的に就労する外国人には適用できないため、EU域内から流入する労働者の賃金ダンピングを阻止できない。

2.労働者送り出し法――6業種で新たに最賃設定

そこで第2の手法として浮上したのが、「労働者送り出し法(国境を越える役務供給における強制的労働条件に関する法律)」による最賃設定だ。同法は、建設事業のためにドイツに派遣されてくる外国人労働者に対する賃金ダンピングの防止を目的として、EU海外派遣指令96/71の国内実施法として1996年に制定されたもので、建設業の最低賃金率を定めた労働協約に一般的拘束力宣言を付して、当該協約を外国人労働者にも適用することができるようにした。この法律では、労使の申請があれば、協約委員会の同意がなくとも一般的拘束力宣言が出せるという点で、従来の手法よりハードルが低い。今回の改正に先立って、この手法により最賃が定められている業種は、建設業、建設関連電気・塗装・解体業、建設清掃業、郵便サービス業である。

今回の改正では、労働協約適用率が50%を上回る部門を対象に労使からの申請を受け付け、同法による最賃適用業種を拡大した。申請があったのは、警備、介護、ゴミ処理、失業者の継続訓練、業務用繊維クリーニング、労働者派遣、林業サービス――の8業種だったが、申請後の連邦作業部会の審議で労働者派遣業と林業サービスは除外された。一般的拘束力宣言を付された労働協約に定める最低賃金は、外国人や外国企業を含め、ドイツ国内の当該部門で就労する全ての使用者及び労働者に適用される。他の協約にカバーされる労使、あるいは協約にカバーされていない労使を含め、最賃については改正法により一般的拘束力宣言が付された協約最低賃金が適用される。

3.最低労働条件法

3つ目は、1952年に制定されて以来一度も適用実績がなかった最低労働条件法の改正による最賃設定だ。今回の改正では、カバー率が50%未満の協約しか存在しないか、または協約がそもそも存在しない部門における最賃設定手法を定めた。まず、常設の中央委員会(議長、連邦労働社会省2名、労使代表各2名により構成)が「社会的歪み」のある経済部門の有無を認定し、最低賃金決定、改正または廃棄を行う必要性を判断する。そこで必要とされた場合、専門委員会(議長、労使代表各3名により構成)が具体的な最賃額を提示する。連邦労働社会省がこれに同意した場合、連邦政府が当該最賃額を法規命令として発する。同法の手続によって定められる最賃は、使用者が国内企業であるか外国企業であるかにかかわらず、また労働者の出身国を問わず、ドイツ国内の当該部門における全ての使用者及び労働者に適用される。ただし、2008年7月16日(同法案の閣議決定日)以前にすでに存在していた労働協約及びその後続協約の有効期間中は、当該協約に定める最低賃金が存在すれば、当該協約が同法に定める最低賃金に優先する。

今後の課題:労働者派遣業における最賃規制の行方

今回の改正論議で最大の争点だった労働者派遣業が送り出し法の適用対象外となったことを受け、連邦労働社会省は、派遣業の最賃については労働者派遣法によって個別に規制する代案を検討中で、連邦政権委員会もこの方向性については同意している。労働者派遣法に公序良俗に反する賃金設定の禁止規定を設ける案や、労働者派遣法に定める均等待遇原則を徹底する案などが浮上しているが、具体的な内容は今後の検討に委ねられる。

参考資料

  • 連邦労働社会省ウェブサイト

2009年4月 ドイツの記事一覧

関連情報