政府、政策変更を依然拒否
―2度目の大規模スト・デモに抗し

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2009年4月

フランス政府が2月25日に発表した雇用統計によると、1月から1カ月間で、失業者数が9万人以上増加した。これは、過去最高の増加数で、特に、男性や若年者の失業者数の増加が著しい。雇用情勢が悪化の一途をたどるなか、政府は経済・雇用対策を打ち出したものの、景気状況の好転は見込めず、国民の不満が3月19日の大規模スト・デモという形で爆発した。政策変更を拒否する政府に対し、労組側は5月1日にも大規模スト・デモを実施する予定だ。

失業者数増加の一途、求人数は大幅減

政府によると、無期かつフルタイムの雇用を求めて、公共職業安定所(Pôle emploi:旧ANPE)に登録している者で、一時(臨時)就労が1カ月に0~78時間までの求職者(カテゴリー1の求職者)は、2009年1月から1カ月間で9万200人(4.3%)増加し、2月末には220万4500人に達した。失業者数が220万人を超えたのは、2006年上半期以来のことである。また、1カ月間の失業者の増加数としては、これまで最高であった2008年11月(6万4000人増)を大きく上回り、歴史的な記録となった。年間では、1年間で29万4000人(15.4%)増加したことになる。

2009年1月末時点でのカテゴリー1の求職者を年齢別にみてみると、25歳未満が大幅に増加し(前月比5.1%増、前年比23.1%増)、41万6200人となった。25歳以上50歳未満では146万5800人(前月比4.1%増、前年比13.9%増)、50歳以上は32万2500人(前月比3.9%増、前年比12.8%増)であった。性別では、1月末時点で男性は118万6000人(前月比5.5%増、前年比21.8%増)であったのに対し、女性の増加率は低く(前月比2.9%増、前年比8.7%増)、101万8500人であった。

長期失業者数も増加している。2009年1月末時点で、カテゴリー1の求職者のうち求職者登録の期間が1年を超える求職者は、前月比で3.8%増加、前年比で8.6%増加し、53万3100人であった。長期失業者の内訳を前年と比較すると、求職者登録期間が1年以上2年未満の失業者が13.5%増加したものの、同2年以上3年未満では0.2%増、同3年以上では3.5%増に過ぎなかった。このことから、昨年の雇用情勢の悪化の影響を受けて、一昨年に失業した者の再就職が困難な状況に陥っていることがうかがえる。

失業者数の増加に対して、求人数は大幅な減少を記録している。2009年1月に公共職業安定所に提出された求人数は、22万 300件で、前月比15.4%減、前年同月比で29.3%減となった。特に、契約期間が長期にわたる雇用の求人の減少が著しい。具体的には、契約期間が1カ月未満の短期雇用の求人は、前年比20.9%減であるのに対して、1カ月以上6カ月未満の契約期間の求人は32.6%減、6カ月以上の契約期間の雇用の求人は35.3%減となっている。

政府、総額26億ユーロの生活支援策

経済・雇用情勢の急激な悪化を受け、2月18日、不況対策を協議するために労使代表を大統領府に集めたサルコジー大統領は、総額26億ユーロ(約3000憶円)にのぼる生活支援策を示した。その主な内容は、(1)被保険者としての期間が短いために失業手当を受給できない失業者に対して、500ユーロの特別手当を4月から支給する(2)雇用と職業訓練のために総額30億ユーロ(国庫負担50%)の「社会投資基金」を創設する(3)従業員の一時帰休やリストラを実施した企業の経営者の報酬を削減する――など。

この他、低所得世帯向けの所得税減税や一時帰休手当の引き上げ、介護や育児サービスを受けている世帯やサービスを必要としている求職者向けに1世帯あたり200ユーロの家庭向けサービスのクーポン券を支給し、家庭向けサービス部門の雇用創出を図ることなどが盛り込まれたが、法定最低賃金(SMIC)の引き上げや若年・高齢者の雇用対策を求める労組側は、「これまで政府がとってきた企業支援に比べて、あまりにも規模が小さすぎる」と強い反発を示した。世論調査でも「生活支援策は効果がない」とする国民は60%にのぼった。

2回目のゼネスト、前回を上回る参加者

8つの労組(CGT、CFDT、CFE‐CGC、CFTC、FO、FSU、UNSA、SUD)は、2月23日に集結し、「2009年3月19日への呼びかけ」と題する共同声明を発表し、金融危機における雇用維持の優先、購買力の向上、賃金政策における不平等の是正、雇用や購買力を通じた経済の活性化などを求めて、1月29日に続く2度目の全国スト・デモを3月19日に展開することを宣言した。

スト当日は、フランス国鉄やエールフランス、学校、郵便局といった公共部門の職員だけでなく、銀行や自動車関連産業といった民間部門の労働者もストに参加した。国鉄では新幹線TGVの運行が通常の半分程度になるなど、乗客に大きな影響が見られた。ただ、パリでは、市内の地下鉄やバスなどの運行は、ほぼ通常通りであったため、市民生活に大きな影響は出なかった。

各地でデモ行進が行われ、パリやマルセイユ、ボルドーなどの大都市をはじめ、レンヌやル・アーヴルなどの中規模程度の町でも多くの参加者でにぎわった。デモには、病院や福祉、高等教育機関関係者、民間企業の社員、退職者、失業者、野党員など様々な人々が参加し、参加者数は労組側発表で300万人(警察発表で120万人)にのぼり、前回を上回り、サルコジー大統領就任(2007年5月)以来、最大のものとなった。

追加の財政出動打ち出さず

民間企業の労働者も参加し、全国的動員に成功した労組側は、「賃金労働者たちの意志の強さ、そして彼らが変化を真に欲しているということを、また、国民が社会正義を求めていることを示すいい機会となった」と高く評価した。各種世論調査でも、今回のスト・デモを指示する国民が75%前後という結果が出ている。しかし、フィヨン首相は、同日夜のテレビ出演で、「経済危機は世界的なもので、デモが危機を解決するのではない。逆に重要なのは、統一(unité)である。我々は既に多くの手段を講じており、その効果も感じられ始めている。」とし、財政出動の伴う対策を今後追加する考えの無いことを明らかにした。

経済・財政・雇用省は、3月2日、(1)2009年の国内総生産(GDP)の成長率はマイナス1.5%となる(2)景気悪化による税収減と景気下支えのための財政出動の増加で、財政収支の赤字はGDPの5%まで拡大する(3)民間部門で30万人以上の雇用が失われる――とする経済予測を発表した。2009年の経済成長がマイナス1.5%となった場合、失業者数は37万5000人増加するという予測も出ている。

こうした経済・雇用情勢の悪化の流れを止めることを求め、8労組は、政府や雇用者に圧力をかけるため、運動の新たな山場として「5月1日をデモの日と決定する」とする共同声明を3月30日発表した。

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=136.40円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2009年4月6日現在)

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