連邦議会、最賃関連2法案を可決
―労働者派遣業への適用、断念

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  • 国別労働トピック:2009年2月

連邦議会(下院)は1月21日、最低賃金関連2法案(労働者送り出し法および最低労働条件法)を可決した。昨年7月に閣議決定に至った両法案(注1)については、送り出し法の適用対象業種、とりわけ派遣業への適用可否をめぐって与党内の議論が紛糾し、連立作業部会の検討が難航を極めた(注2)。ショルツ労働社会相は、8業種への送り出し法の適用を目指していたが、最終的には派遣業および林業サービスを除く6業種((1)介護(2)警備(3)鉱山特殊業務(4)業務用繊維製品クリーニング(5)ゴミ処理(6)継続教育訓練サービス――のみを対象とする方向で妥協し、可決に漕ぎ着けた。両法案の成立には、各州政府代表で構成する連邦参議院(上院)の同意が必要(注3)だが、州政府が両法案の実施監督規定に異議を唱えているため、予断を許さない状況だ。

送り出し法、6業種に適用

今回の議会審議に先立って連立作業部会は1月12日、介護、警備、業務用繊維製品クリーニング、鉱山特殊業務、ゴミ処理の5業種については送り出し法を適用する方向で合意していた。業務用繊維クリーニング業は、それまで異なる水準にあった最低賃金が統一され、12月時点で送り出し法の適用が確実だった。ゴミ処理業では、労使間の合意が1月11日に成立し、滑り込みで拡大が認められた。また、介護については、労働協約が適用されない教会組織を含めた特別委員会で最終的な最賃額を決定する方向で合意が成立している。継続教育訓練サービスは、作業部会開催後の調整で適用業種に加わった格好だ。これら6業種全体で約120万人の労働者に最賃が導入されることになる。だが、最大の争点だった労働者派遣業への送り出し法の適用は実現しなかった。

労働者派遣業についてショルツ労働社会相は、7.31ユーロ(旧西独地域)、6.36ユーロ(旧東独地域)の最賃を適用する方向で調整を重ねてきた。だが、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)寄りの労働協約では7.21ユーロ(旧西独地域)・6.00ユーロ(旧東独地域)が普及しており、CDU・CSU側が最後まで強く抵抗し続けた。そのため、ショルツ労働社会相は、派遣業を除外した形での法案通過で妥協した。報道によれば、金融危機に対する追加景気対策の協議で、社会民主党(SPD)側が増税案を引き下げる条件として、最賃関連法案へのCDU・CSU側の同意を促したという。一時は廃案の危機まで報じられていたが、CDU・CSU側としても、秋の総選挙前に最賃問題に何らかの区切りをつけたい思惑もあったようだ。

もっとも、両法案は2月13日、連邦参議院に提出される予定だが、同意がスムーズに得られるかという課題も残っている。先月報じたとおり、州政府から両法案の監督規定について異議が出されているためだ。法案では、送り出し法に関する監督は連邦レベル(連邦税官吏)で、最低労働条件法の監督は州レベルで行う旨定められているが、各州は連邦税官吏による統一的監督を求めている。

労働側、全国一律最賃導入求める

ショルツ労働社会相は今回の法案可決を歓迎したが、ドイツ労働総同盟(DGB)、統一サービス産業労組(Ver.di)は、「労働者派遣業に適用が及ばなければ、賃金ダンピングは今後も継続する」と批判を寄せている。そのうえでゾンマー・DGB議長は、今後も引き続き全国一律最低賃金(7.5ユーロ)の導入を求めていく方針をあらためて表明している。労組系シンクタンクのハンス・ベックラー財団(WSI)も、「ワーキングプアの問題は、これでは解決されない」などと批判的だ。これに対し経営側は、今回の法案で最賃が導入されるのが、比較的就業者規模の少ない業種が大半であることから、「経済的影響はほとんどない」として、総じて穏便な反応だ。他方、ドイツ経済研究所(DIW)は、「金融危機の最中に、所得分配問題を前面に押し出した法律を成立させても意味がない。今求められるのは雇用効果のある政治決定だ」との見解を明らかにしている。

派遣業の最賃、個別規制の対応策も浮上

労働者派遣業が送り出し法の適用対象外となったことを受け、ショルツ労働社会相は、労働者派遣法に最賃規制を盛り込む代案を提示している。具体的には、派遣労働者と正社員の賃金格差を特定範囲内に定める方向を示唆したという。ショルツ労働社会相のこうした意向についてブラウクジーペ作業部会議長は、「労働者派遣法に公序良俗に反する賃金設定の禁止規定を設ける可能性はある」とコメントしている。業種の平均賃金の30%を下回る賃金を公序良俗違反とする内容だ。

別の方策も検討されている。ドイツの労働者派遣法は、派遣期間の上限規制撤廃と引き替えに、賃金など労働条件の正社員との均等待遇原則を義務化した。だが、労働協約で別の定めを決めている場合は、均等待遇原則の例外扱いとしているため、均等待遇原則が有名無実化しているのが実態だ。さらに、労働協約の有効期限が切れ、新協約がまだ締結されていない場合、使用者側は旧協約を適用し続けることができる。こうした旧協約の適用は30件~40件に及んでいるという。検討されているのはこの旧協約の適用禁止で、実現すれば、協約が切れた場合に自動的に均等待遇原則が貫徹することになる。CDU・CSU側がこうした提案に応じるか、またどの程度の妥協案で歩み寄るかは未知数だが、報道によれば1月中に会合が設けられる方向だ。

資料出所

  • 連邦労働社会省ホームページ、委託調査員月次報告、Handelsblatt(2009年1月12日), Frankfurter Allgemeine(2009年1月22日)、ボッシュ教授(デュイスブルグ・エッセン大学)へのヒアリング。

参考レート

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