大規模スト、雇用不安に加え大統領の強引な改革に反発
フランスでは1月29日、賃上げや雇用保護を求め、主要8労組が全国規模の統一ストを実施した。パリやマルセイユなどの全国の主要都市で繰り広げられた「雇用の安定」を求める抗議デモには、公的部門の組合員だけでなく、金融などの民間企業の労働者も多数参加し、2006年のCPE(初回雇用契約)抗議デモ(注1)に匹敵する規模に達し、2007年5月のサルコジ政権発足以来最大の規模となった。
労組側の発表によると、公的・私的部門を合わせて全国で250万人(政府発表では108万人)の労働者がデモに参加した。デモ行進は特に地方で勢いを見せ、病院や福祉、高等教育機関関係者が数多く参加し、「雇用の保護」「公的企業の保護」「福祉社会の破壊阻止」「自由の保護」など、様々な要求が掲げられた。
世論調査機関CSAによれば、国民の69%がストとデモに共感の意を示した。今回の大規模デモは、国際的な金融危機以降深刻化している雇用や労働条件の悪化への批判だけでなく、サルコジ政権が進める教育や医療、司法など、あらゆる部門における一連の「改革」に対する国民の大きな不満と強い反発を浮き彫りにするものとなった。
総額360億円にのぼる金融機関支援や3兆円を超える企業支援重視の経済刺激プランなど、これまでに政府が打ち出してきた金融危機対策に対し、労組側は「フランスの労働者は、自分たちに責任のない経済危機のために、賃金や雇用の不安の犠牲を払わされていると強く感じている」と主張。「ヨーロッパレベルで素早く対応をみせるのと同じように、国レベルでも素早い対応を見せるべきだ」と、早急に現実的な解決策を示すよう政府に強く求めた。
これに対しサルコジ大統領は「かつてない規模で広がった国際的な経済危機のなかにあって、国民の不安は『妥当』である」と、今回のデモやストに対して理解があることを示すとともに、2009年度に実施予定の改革案について労使代表と話し合う場を2月に設けることを約束した。
一方で、フィヨン首相は、2月2日、「労組が指揮する街頭運動は、民主主義の現れに過ぎない。多くの国民が危機感を感じていることは政府も理解しているが、労組の主張には具体的な提案はなにもなく、今回の抗議運動によって、政府の経済・社会政策を変更することはない」と明言した。
同じく2月2日に政府が発表した、2008年12月の雇用統計によると、失業者数は前月より4万5800人(2.2%)増加した。失業者数は8カ月連続で増加しており、10月に200万人を突破、12月末時点で211万人に達している。2008年の1年間でみてみると、失業者数は21.7万人(11.4%)も増加しており、これは1993年以来15年ぶりの高い増加率である。先の見えない経済危機の中、今後も厳しい雇用情勢が続くことが予想される。
社会運動で国民に自らの存在を示すとともに、野党におけるリーダーシップの復活を目指す社会党は、他の左派や極左の政党と同じように、パリで今回のデモ行進に参加した。彼らは、「5年というサルコジ政権の任期は今、転換期を迎えている」とし、政府はこれまでの「攻め」の姿勢から「防御」の姿勢に転じると予測している。サルコジ大統領が、この「転換期」をどう乗り切るかが注目される。
注
- 2006年1月に当時のド・ヴィルパン首相が、若年者(16~25歳)の雇用促進を目的として掲げた、期間の定めのない雇用契約(CDI)のひとつ。先に導入された「2年の使用期間中にいつでも解雇可能」とするCNEとかなり類似しているが、CPEは(1)対象年齢が26歳未満という年齢制限つきであること、(2)対象となる企業の規模を従業員数20人以上と広げたこと――がCNEとの違いである。政府は「解雇が容易になる結果、企業は積極的に若年者を採用する」と主張し、3月に強引に法案を成立させたが、学生や労働組合は「CPEの導入は解雇の乱発や雇用の不安定化につながる」として強く反発し、全国的な抗議運動を展開、結局同年4月に廃止となった。
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