オバマ新政権、400万人の雇用創出・維持策
―上下院で法案通過

カテゴリー:雇用・失業問題

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連邦労働省が1月9日発表した雇用統計によると、2008年12月の失業率は前月の6.8%(修正後)からさらに悪化し7.2%となり、1993年1月以来の高水準となった。1月20日に就任したオバマ新大統領は8000億ドルを超える規模の経済刺激策を立案した。2011年までの2年間に約400万人の雇用創出・維持効果が目標。2月10日までに下院、上院を法案が通過。両院での法案を一本化した上で大統領署名により法律が成立する。

下院、1月末に法案通過

下院民主党幹部による1月16日発表では、経済刺激策の予算規模は8250億ドルで、インフラ・エネルギー・教育関連3180億ドル、減税2750億ドル、州政府支援・メディケア向け追加基金1660億ドル、長期失業者を対象とする失業保険・健康保険660億ドルなどの総計である。この経済刺激策によって、2011年までの2年間に400万人の雇用創出・維持を目標とする(注1)。

また、オバマ新政権経済チーム(注2)による1月10日発表では、経済刺激策の主な方策は、政府による直接的雇用創出(公共投資:道路、橋梁、その他インフラ建設、エネルギー開発関連プロジェクト)によるものだが、減税・州政府支援による間接的な雇用創出を組み合わせて行う。公共投資は直接的な雇用創出にはなるが短期的な創出規模では限界があるため、減税策や州政府支援を伴うものにして、実行の即効性が高い政策とするのがねらいである。

オバマ経済チームによる産業別雇用創出試算は以下のとおりである。建設業:67万8000人(雇用創出目標総数の18%)、小売業:60万4000人(16%)、観光・飲食業等サービス:49万9000人(14%)、製造業:40万8000人(11%)、中央・州政府等公的部門:24万4000人(7%)。

法案は下院で規模を8190億ドルに修正し、1月28日、賛成244、反対188の賛成多数で可決した(注3)。採決前にナンシー・ペロシ議長(民主党・カリフォルニア州選出)は「ひと月当たり50万人規模で職が失われている。立法府として待っている猶予などない」と法案を早期に可決することが必要だと改めて強調した。ただ、下院での決議は、共和党議員の全員に加えて、11名の民主党議員が反対票を投じた。ジェリー・ルイス下院議員(共和党・カリフォルニア州選出)は金額の大きさに言及した。国民にとって生涯をかけて背負う重荷になってしまうと力説する。

続く上院での法案審議の結果、予算規模を8382億ドルとしたものとなった。2月10日の本会議で投票が行われ、賛成61、反対37で可決した。56人の民主党議員全員に加えて、スーザン・コリンズ議員(メーン州)、オリンピア・スノウ議員(メーン州)、アーレン・スペクター議員(ペンシルバニア州)の共和党員のほか、2名の無党派議員も賛成票を投じた。今後、下院で可決された法案との一本化をはかった後、大統領が署名することによって法律が成立することとなる。

2008年の雇用喪失は約259万人

その一方で、雇用情勢はさらに深刻化している。連邦労働省が1月9日発表した雇用統計によると、2008年12月の失業率は前月の6.8%(前月発表時の6.7%から修正)からさらに悪化し、7.2%となった(注4)。

非農業部門の就業者数は季節調整済みで前月比52万4000人減少し、1億3548万人、失業者数は63万2000人増加し1110万人となった。2008年の通年での雇用機会喪失は258万9000人に及んだ。2007年1月以降の非農業部門就業者数と失業者数の推移は図1のとおりである。

図1:就業者数と失業者数の推移 (千人)

図1

出所:労働統計局資料より作成

1月27日に発表された州別失業率では、ミシガン州の10.6%、ロードアイランド州の10.0%をはじめ、9%を超える州が6州になっている(表1参照)。失業保険期間延長の基準となる6%を超える州は35州である(注5)。

表1:州別失業率(失業率の高い州)(%)
1 ミシガン州 10.6
2 ロードアイランド州 10.0
3 サウスカロライナ州 9.5
4 カリフォルニア州 9.3
5 ネバダ州 9.1
6 オレゴン州 9.0

出所:労働統計局新しいウィンドウホームページより作成

毎週金曜日朝に発表される新規失業保険申請件数の推移をみたものが図2である。2008年12月末から2009年第1週にかけて減ったものの、第2週以降は増加傾向となり、1月30日に発表された1月19日から24日分の申請件数は58万8000人であり、以前として高い水準にある。

図2:米国の失業保険新規申請者数 (千人)

図2

出所:連邦労働省発表資料より作成(季節調整済み)

加速化する企業による大規模解雇・人員削減

労働統計局が1月28日に発表した大規模解雇件数(注6)によると、2008年を通じて2万1137件となり、2001年以来の高水準となった。州別ではカリフォルニア州、ミシガン州、ペンシルバニア州、オハイオ州、イリノイ州が目立つ。12月下旬以降に発表された主な大規模解雇事例を表2に示した。

表2:大規模解雇・人員削減事例(2008年12月下旬から2009年1月)

企業名 業種・提供製品内容 削減人員数 公表日  
フェデラルモーグル 自動車部品製造販売 4600 12月19日  
アルコア アルミニウム製品製造 13500 1月6日 全世界規模で(従業員数=38000:US, 63000:その他諸国)
ボーイング 航空機製造 4500 1月9日 2009年第二四半期までに実施
セスナ・エアクラフト  軽飛行機・商用機製造  2000 1月13日 2009年第一四半期実施
2000 1月29日 2009年第一四半期実施(従業員数:15000人)、2008年12月には、655人削減を実施
モトローラ 通信機器・サービス提供 4000 1月14日  
ミードウエストベーコ パッケージングソリューションと製品を提供 2000 1月15日  
サーキット・シティー・ストアーズ 家電量販店 34000 1月16日  
ハーツ レンタカー 4000 1月16日 全世界規模で
インテル 半導体製造 1500 1月21日  
EMC 情報通信技術・サービスの提供 1680 1月21日 米国内従業員24000人の7%
マイクロソフト コンピュータ・ソフトウェア開発 5000 1月22日 2010年中期までに実施
ホーム・デポ 住宅リフォーム・建設資材・サービスの小売チェーン 7000 1月26日 330000人中、2%
ファイザーとワイスの合併 製薬 19000 1月26日 合併に伴う15%の人員削減
スプリント・ネクステル 携帯電話サービス 8000 1月26日 2009年第一四半期実施
IBM コンピュータ関連、ビジネスコンサルティングサービス 2800 1月26日  
キャタピラー  建設機械  20000 1月26日  
2110 1月30日 追加発表
テキサスインスツルメンツ 半導体開発・製造 3400 1月26日 従業員数の12%相当、2009年第三四半期までに完了予定
エイブリィデニソン 粘着材料・ラベル製品 3600 1月27日 全従業員の10%相当、2010年までに実施
コーニング 特殊ガラス・セラミック 3500 1月27日 2009年中に実施、全従業員の13%相当
デュポン 化学 4000 1月28日 2009年中期までに実施
スターバックス コーヒー・チェーン店 6700 1月28日 全従業員の4%相当、米国内200店舗閉鎖、2009年中に実施
イーストマンコダック フィルム・撮影機材 3500
~4500
1月29日 2009年中に実施、全従業員の14%~18%相当
アストラゼネカ 製薬 15000 1月29日 2013年までに実施

出所:“Daily Labor Report”, BNAなどより作成

参考資料

  • “Daily Labor Report”, Dec. 23, Jan. 9,12,13,16,21,22,23,26,27,28,29,30, Feb. 2,10, 2008, BNA
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